第77話 スケルタス・ドラゴンに向って撃て!! 後編
「――ッド、ウッド、ウッドぉお!?」
マギやんの、声がする。
なんだよ、子供みてえに……叫びやがって。
「コラ寝んな!何してんねんアホ!起きや!ウッドぉ!!」
……聞こえて、るって。
そんなに、ギャンギャン言わなくったって――
「ゴホ!?っが!?あ、ぐう、ううう!?」
大丈夫、と言おうとした瞬間。
視界が痛みでスパークし、喉から吐き気がせり上がる。
「ウッドぉ!?」
「が、ああ!!ああああ!!!」
返事もできず、のたうち回る。
視界がグルグル回り、やっと周囲の情報が目に入ってくる。
こちらを見て目を見開くララ。
斧を支えに、立ち上がるヴァシュカ。
超セクシーな格好で、俺の方へ走るマギやんと――
――その手前に転がる、クロスボウを握りしめたままの……どこかで見たような左手。
「~~~~~~~~~~~~~ッ!?!?!?」
ソレを認識した瞬間、左の上腕あたりにとんでもねえ激痛が襲ってきた。
同時に、胴体に何か暖かいモノがビシャビシャ降りかかる感触も。
骨、か!
骨の矢に、左腕が持ってかれちまったか!!
「っか、は、はぁあ、う、うっぐ、うぉえっ……!!」
血の混じった反吐が地面に、俺の体にかかる。
激痛と吐き気と倦怠感で、考えがまとまらねえ。
だが、これだけはなんとか言える。
「ま、まぎやん、ララ、を、かかえ、て!にげ、ろ!!」
この状況で、あの骨ドラゴンをどうこうできそうなのはアイツしか、いねえ!
震える口から、無理やり言葉を絞り出す。
「ウッド!何言ってんねん!まずはアンタが――」
「いい、から!いけ!はや、っく!ぐう、うう!がああ!?」
喋る度に視界が明滅する。
一呼吸ごとに、『死』が近付いてくるのがわかる。
体温はまるで、冬山に全裸で飛び出したようにどんどん下がっていく。
なにか、できることを探さねえと。
まとまらねえ頭を必死で回転させる。
こうなったら、無駄と知ってても『ジェーン・ドゥ』を3連射して仲間の、ララの離脱を援護するか!?
オレにできる仕事は、もうそれしか――
「……これ、は」
地面に倒れたオレの、斜めの視界に何かが映った。
はらり、と懐から零れたそれは……ノートを千切ったような、紙片。
「……は、はは」
何の変哲もねえようなその紙片。
そこに、じわりと文字が浮かび上がった。
『この通りに唱えろ、残弾一斉発射だ』
「……へへ、へ、最高、っだぜ!ぐう!うう、があああああっ!!」
吠える。
吠えて、右手で地面を突く。
漏らしそうな激痛の中、なんとか上体を、起こす。
「ウッド、ウッドぉ!」
体が軽くなった。
涙目のマギやんが、オレに縋り付いている。
「ばかやろ、ララを、つれて……」
「そっちはミドットはんがやっとる!ウチは、ウチはアンタの相棒やろ!」
マギやんの綺麗で大きな目から、涙が一筋零れて落ちた。
ありゃりゃ、泣いちゃった。
相棒、失格かもなぁ?
「そう、か、よ……まぎやん、うでを、ささえてくれ」
「アカン、何すんの!?逃げるんやでウッド!!」
「――駄目、だ。狙いを、つけろ!相棒!!」
叫ぶ。
マギやんはオレの顔を見て……抱き着くように体を保持してくれた。
「……へへ、こいつはしあわせな、感触、だな」
「アホ!この助平!!」
オレの右腕は、マギやんの肩に乗っている。
その先の手に、柔らかい手が重なった。
「なにが、起こるかわかんねぇ、覚悟、しといてくれ」
「帝国ドワーフ見損なうなや!相棒ほっぽって逃げるような女とちゃうんや、ウチは!!」
オレにゃ、勿体ねえほどイイ相棒だぜ、ほんとによ。
「っぐ、うぅ……か『――風が、蝗を吹き飛ばすように』」
おせっかいで、アフターサービス万全なイカした神サマの紙片。
それに浮かんだ言葉を、血反吐と一緒に唱える。
がきん、と。
『ジェーン・ドゥ』が鳴った。
今まで気づかなかった各所の細かいスリットに、青白い燐光が灯る。
「『――我が意思は、我が弾丸となり』」
その燐光が、輝きを増す。
俺の手を、腕を、そして……視界の隅に見えるマギやんの顔を照らす。
「魔力の奔流が、一点に……ウッド!」
潤んだ目が、俺を見る。
骨ドラゴンの方向に、赤黒い炎が灯った。
っは、デッカイ目印だ……狙いやすくって、いいねェ!
「――死ぬときは、一緒やで」
オレを見つめるマギやん。
ああもう……震えるほど、最高の相棒だ。
オレは、その熱い視線に下手くそなウインクを返し。
「『――我が敵を、食い破る』!!」
祈りを乗せて、引き金を引いた。
――覚えているのは、そこまでだ。
・・☆・・
『よォ、久しぶり』
目を開けると、天井が見えた。
木でできた、ちょいと年季の入った天井が。
そして、その他に1人。
相変わらず最高に渋くて格好のいい、葉巻を咥えたガンマンが。
「あー……」
どこも痛くねえ体を、起こす。
見えるのは……ザ・西部劇って感じの……酒場。
オレは床に寝転び、ちょいと先に、『モンコ』
「……オレ、死ん――」
「生きてるよ」
「――えぇ?」
モンコはおかしそうに葉巻をふかし、椅子に座った。
「ま、峠を2、3個は越えたがね」
「……なんで、ここに戻ってんだ?」
床に座ったまま、モンコに聞く。
あ、左手が付いてる。
どういうこった?
「戻ってねえよ、お前さんは目下昏睡中……意識だけをここに呼んだんだ」
「なるほど……なんで?」
「面白ェから」
……なるほど。
さすがは『好奇心』の神サマ。
「やっほやっほ、ウッドくん!」
「……は?」
モンコの後ろから、女がぬるりと出てきた。
いや、空間から染み出したような感じだ。
「コイツは俺の親戚……みてえなもんだ」
「毎回楽しんで見てるファンの1人だよォ」
オレに手を振るその女。
西部劇の……娼婦っぽいドレスを着た、バインバインの巨乳だ。
まさか!マギやんが前に言ってた巨乳の『好奇心』ゴッド……!!
実在したんか!!
「あっはっは!目つきがケダモノ過ぎる!マジ最高!!」
その女は、乳がまろび出そうなくらい爆笑している。
うおお、もうちょいで先っちょが見え……見えた!!
「へへん、エリクシアよりもキレイ?」
「あんなカスと比べるのも失礼だろ、最高の乳首だ」
「ノーモーションで罵倒すんのウケる~~~~!!!!」
女はテーブルをバンバン叩きながら、一層爆笑している。
うっわ、上半身の服が全部脱げた。
すっげ!お高い彫刻みてえなナイスバディ!!
「あ~……腕吹き飛んだってのに、それなら大丈夫だな、ウッド」
「……スマン、全部巨乳が悪い……いや、巨乳は何も悪くない、オレが悪い」
ニヤニヤしているモンコに返すと、女は床を転がって笑い始めた。
お前もう上半身丸見えじゃねえか!ありがとう!!
「いっひひ!いひひひひひ!!最高!この子最高!!アタシもちょっかいかけ~~~るぅ~~~~!!」
ちょっかい……それってどういう。
「あ、ヤベえ。時間切れだ……しゃあねえな、元気になったら虎ノ巻読んどけ」
視界が白くなり始めた。
あ、もう体も動かねえ。
「何しに呼んだんだよ……」
「まあ、いいじゃねえかよ、またなァ!」
モンコの嬉しそうな声と、爆笑する女の声。
それを最後に、オレの意識はまた闇に沈んだ。
なんか……スマン、よくわからんが、スマン……
・・☆・・
「……ぅ、あ?」
目を開く。
きったねえ天井が見えた。
「すぅ……すぅ……むにゃむ……」
胸に突っ伏して眠る、赤毛も見えた。
なんか、デジャブ……
「……いきてて、えらいぞ、おれ……」
カラカラになった口からそれだけ絞り出した瞬間、また眠気が来た。
これもまた、デジャブか……おやすみ。
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