第76話 スケルタス・ドラゴンに向って撃て!! 前編スケルタス・ドラゴンに向って撃て!! 前編
「浅い所にゃいねえ、もっと奥か……!!」
マギやん製の遠眼鏡を構え、森を探る。
パッと見える所には、バラバラになったゾンビ共の破片しか見えねえ……うわグロ。
「ウッドウッド、どないや!?」
「まだだ!すまねえ!」
「気にせんとい……てぇッ!!」
がぎん、と音。
マギやんがスラッガーよろしく骨を弾いた。
「バルドはんとミドットはんが暴れとるさかい、狙いがブレブレや!森に『何』がおるか知らへんけど……たぶん狙いをつけとんのは1人や!!」
なるほどね、森にあんのが砲台みてえなもんだとして……砲手は1人か!
こちとら、このグループで一番の紙装甲だかんな。
掠っただけでも大ダメージ必至だからありがてえ!!
「ララ、そっちは大丈夫か!?」
「だいじょばない……厄介な呪い、消したと思ったケド魔力の回復が異様に遅い……そこそこの使い手だったみたい、ゾンビに埋まってたヤツ……ふ、不覚……」
オイオイ全然大丈夫じゃねえ!
まだ顔色が悪いまんまだ!
あのキモいゾンビに埋まってたヤツ、性根までキモかったかよ!!
「ウチはこっから動けへん!頼むでウッド……っしゃらぁあッ!!」
またもマギやんのフルスイング。
うお、顔のすぐ横を破片が通った!?
「任せろってんだ!もっと奥、もっと奥……見晴らしがよくなってきやがったぜ!!」
森の方から雄叫びが聞こえる度に、木がバキバキ倒れていく。
よしよし!たぶんバルドだな!!もっと伐採してくれ!!
「わっ!?わわわわわ……!?んぎぃい!?」
連続する金属音と一緒に、何か小さい塊が森から飛び出してきた。
バウンドするボールみてえに不規則に撥ねたそれは、オレの斜め前に落ちる。
「うっわ、ミドットにいさん!?大丈夫ですか!?」
「ウッドぉ!なんで僕にだけまだ敬語なのさ……あんまり大丈夫じゃない!むっちゃ狙い撃ちされて……うわわわっ!!」
全身に細かい擦り傷を作ったミドットにいさん。
喚きつつも再び立ち上がり、半ば転がりながら横へ走り始めた。
それをなぞるように、細い骨の針が地面に突き立つ。
あんな細いのも飛ばせんのか……!!
「ララぁ!まだどこにいるかわかんないけどたぶんアレ!大物だと思う!骨の!骨の総量が異常!!」
「わかった!気を付けて!」
「言われなくてもあいっだ!?刺さったァ!?」
逃げ続けるミドットにいさん。
その肩に細い骨が突き立つのが見えた。
ヤバい!!
「こ、これ返しが付いてるゥ!くっそ!無茶苦茶痛いッ!」
「聞いてるだけで痛い、頑張って」
「死なない程度に!頑張り!ますっ!!」
ミドットにいさんは、さらに速い動きで骨を避け始めた。
ひええ、まるで早回しのカンフー映画だぜ。
おっと、こうしちゃいられねえ。
申し訳ねえがミドットにいさんに降り注いでいる骨の方向を逆算……アレか!
森の奥!大木の影から飛んでくるのが見えた。
「バルドぉ!」
クロスボウを構え、放つ。
闇の中を飛んだボルトが、その幹に突き刺さった。
「ソイツを切り倒してくれ!ソイツだッ!!」
もう1本追加で放つ。
聞こえてりゃいいんだが……!
「――ルウウオオオオオオオオッ!!!!」
どうやら聞こえていたようで、木の葉まみれになったバルドらしき影が飛び出す。
そして、そのままの勢いで大木へ……大剣を思い切り叩きつけた。
「よっしゃァ!!」
一抱え以上もあるその大木は、大剣の一撃で千切れながら折れた。
「ガアアアアアアアアアアアッ!!」
バルドが吠えつつ大木を蹴る。
その勢いで、ソイツは横に向って吹き飛んだ。
……キレてるとはいえ、とんでもねえ力だぜ。
「テメエかあ!ふざけた真似しやがって!!」
完全にキレ倒したバルドが、ぶんぶんと大剣を振りつつ奥へ飛び込む。
あ、ちょっと!射線を塞がないで――
「――っぐ!?が、お、ぐうっ!?」
背中を向けたバルドが急に止まったかと思うと、ヴァシュカがしていたようにその場で大剣を何度か振った。
まるで機関銃の一斉射でもしてるみてえな音が鳴り響き――こちらへ吹き飛んだ。
遠眼鏡越しの視界に、空中へ散った血が映る。
「バルドはんっ!?」
マギやんの悲鳴。
背筋に寒気が走り、景色がスローモーションになった。
ゆっくりと吹き飛ぶバルド。
苦し気に歪んだ顔と……腹に突き刺さった、太く長い骨。
――その向こうに、白く大きな塊。
「見つけ、たァ!!」
通った射線を認識した瞬間に、引き金を引く。
『ジェーン・ドゥ』がマズルフラッシュを吐く。
衝撃が、肩に襲い掛かる。
「――駄目!」
ララが小さく叫ぶのと、森の奥に魔法陣が浮かぶのはほぼ同時だった。
アレは――!畜生!!
「魔導防壁って奴か!ララ!どうすりゃ破れ……なんじゃアレ!?」
魔法陣……魔導防壁が光った瞬間に、森の中が照らし出された。
――そこには、骨でできたクソデカいドラゴンがいた。
目測だが、全長10メートルはある。
頭蓋骨の眼窩には、赤々と不気味な光が灯っている。
「――『スケルタス・ドラゴン』!最悪だァ!!」
ミドットにいさんの悲鳴めいた叫び。
「うせやろ!あんなモンがこないな場所に……!!」
マギやんも驚愕している。
そんなにレアなんか、アイツ。
だが、それは今関係ねェ!
「ララ!あの防壁はどうすりゃ破れる!?」
現状で気になるのはそこだけ!
それ以外はノイズだ!
ララが動けねえし、バルドがダメージ貰った今……オレができるのはソレしかねえ!!
「アレはシンプル!防壁の限界を超えるダメージをぶつけるだけ!」
なるほどシンプルだ!
「……一撃で!」
「なぁにい!?」
ど、どうすんだよソレ!?
今まさに『ジェーン・ドゥ』の一撃が弾かれたんだけど!?
俺が保有してる手段で、コレ以上の威力は出せねえぞ!?
「連射はどうだ!?ほぼ一撃で3連射なら!!」
『ジェーン・ドゥ』の残弾は残り3発。
泣いても笑ってもそれ以上は無理だ!
「駄目!一撃じゃないと!途切れたらそれでもう無理!!」
「なんったるクソゲーだ!!」
なんでだよ!ダメージの総量でパリンとかいかねえのかよ!!
おかしいだろ!どっからエネルギー補給してんだよ!!
そこらへんのゲームでもここまで酷くねえぞ!!
「ス〇ロボの〇Tフィールドかっての!!ふざけんな!!!」
「すぱ……ふぃー……?」
「すまんマギやんなんでもねえ!翻訳のバグだ!!」
あぁ!?なんかドラゴンの目がむっちゃ光ってる気がする……!!
おいおいおいおい、見るからに『攻撃の予備動作』じゃんかよ!!
「いけない!ブレスが来る!」
ララが叫ぶ。
ブレスぅ!?あの野郎あんなスカスカの癖しやがってそんなもんまで装備してんのか!?
骨の分際で――
「『地母神よ!剛力の加護を!!』」
「アカン!ウチの後ろから絶対に動くんやないで!『
ヴァシュカが吠え、再度体に赤い光が纏わりつく。
同時並行で、マギやんのハンマーが火を吹いた。
「『回れ回れ神鳴る愛し子、歌え歌え……』っぐ、うう、駄目か……魔力が、まだ……」
ララの周囲が一瞬光ったが、魔力不足のようだ。
そのまま力なくへたり込む。
――それと、視界の端で閃光が走るのはほぼ同時だった。
骨のドラゴンが、大きく口を開いたのが一瞬見え――どす黒い魔力の奔流が放たれた。
それからは、スローモーションだった。
「『割れよ、大地』ィイ!!」
まず、ヴァシュカがブレスに向かって斧を振り下ろす。
体と同じような赤い文様が纏わりついたそれは、ブレス本体と接触。
鉄砲水が大岩にぶち当たった感じで、ブレスが散る。
「んぐ、うう、ううあッ!?」
だが、しばしの拮抗の後にヴァシュカが斧ごと吹き飛ばされた。
だが、ブレスはまだ――吐き出され続けている!
「っすぅう……『
マギやんが、ハンマーごと前に跳ぶ。
跳躍の頂点で、そのハンマーヘッドの輝きが最高潮へ。
「『
いつかのクラーケンの時のように、小さい太陽のような輝きが暗闇を照らす。
それが、ブレスを止め、削っている。
だが――
「っくぅう!?」
輝きが消える。
爆発によってブレスは散ったが……『根元』はまだ……ドラゴンが吐き出し続けている。
吹き飛んだブレスは、またも鉄砲水よろしくマギやんに襲い掛かった。
「マギやんッ!?」
「舐、め、んなァあ!『呼び声に応え!障壁を成せ!!』『
マギやんが、吠える。
いつもの全身鎧が溶け、液体金属めいた状態に。
そのまま、どろりとマギやんの前に出て……一枚の輝く鉄板のような形状に再生成された。
「んぎゅう!?」
鎧が丸ごとなくなり、下着みてえな状態になったマギやんが地面に落下。
だが、鎧の鉄板は同じ位置でブレスを受け止め続けている。
「大丈夫かマギやんッ!?」
「なんとか生きとるッ!今回の分はアレでなんとかなるやろ……せやけど二撃目が来たら、もうアカン!!」
マギやんが言う間に、ブレスの総量が少しずつ少なくなり……消えた。
マギやん製のいかした鉄板は、その瞬間に元の液体に戻った。
「もう一回できねえのか!?」
「無理や!今のんで刻んどった加護も、込めとった魔力もぜぇんぶパーや!!」
ああくそ!どうする……!
見た感じ骨ドラゴンはピンピンしてやがるし、虎の子の『ジェーン・ドゥ』は威力が足りねえときたもんだ!
一撃の威力を増やす……のは見当もつかねえし!
畜生、せめて残りの3発分を一回で撃てればいいのによォ!
虎ノ巻にもそんな裏技乗ってなかったし……!
くっそ、今はそんな事考えてる場合じゃねえ!
「マギやん!動けるか!?」
「あったり前や!ピンピンしとる!」
「それならララを担いで移動しねえと!このままじゃ――」
ぼ、と音がした。
「……あぁ?」
ポンチョ越しの左腕が、急に後ろへ引っ張られた。
いや違う、『骨』みてえなもんが刺さって――!?
「――ウッドぉ!?」
マギやんが遠ざかる。
いや、ああ、畜生。
――俺が、吹き飛んでるのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます