第75話 こんな追加は望んじゃいねえ!!

「終わって、ねえのか?」




「ん、『この術者』は死んだケド」




 『この』ォ?




「ララはん、まだおるんでっか?」




 マギやんの言葉には、少し力がない。


おいおい、まだあんな臭くて汚ェのがいるってのかよ。


勘弁してくれ……




「ん……ゴーレムと、森の奥から出てきたゾンビは『別口』」




「あー、やっぱそう?なんか魔力の質がちょっと変だと思ったぁ」




 ミドットにいさんが、心底うんざりした顔をしている。


え?クソデカゾンビとノーマルゾンビは別なんかよ。


ゾンビ好き多過ぎだろ、オイ。




「じゃあ……」




 バルドが、大剣を一振り。


ソレに付着していた直視したくねえ肉片と液体が、地面にびしゃりと落ちる。




「――まだ来るってことかよ、どうするララ?」




 うお、マジかよ。


慌ててクロスボウをコッキングする。


『ジェーン・ドゥ』はあと4発……無駄弾は撃てねえ。




「ちょい、しくじった。もう逃げられない……か、も!」




 ララが苦しそうに呻き、地面に膝を突く。




「ララはん!?」




「『フレッシュ・ゴーレム』に魔力飛ばした時に、向こうが仕込んでた呪いにやられたっぽい……むっちゃ、しんどい」




 ララはいつも色白だが、今はそれを越して蒼白だ。


今になって、脂汗も出てきやがった。




「ごめんけど、回復に専念するね……探査はするから、お願い」




 ララは完全に座り込み、座禅めいた姿勢で休んでいる。




「おっけ、『風の守り人よ、助けとくれ』」




 ミドットにいさんが杖を振ると、ララの周囲に旋回する風が展開された。


シールドみてえなもんか?




「俺とヴァシカが前衛、ミドットは遊撃。ウッドは後衛で、マギカはララの護衛だ」




「応!」




「よっしゃ!」




 大剣を担いだバルドと、斧を長柄にしたヴァシュカが前に出る。


3メートルほどの間隔を置いて、森に向けて構えた。




「ウッドウッド、ワクワクすんな」




「それにゃ同意しかねるが……気は引き締まるな」




 マギやんの兜が展開し、ハンマーが甲高い待機音を立てながら震えている。


俺も、どの方向から襲われてもいいようにクロスボウを構える。




「来る……やっぱ森の奥!」




 座り込んだララが、そう言った瞬間だった。




「――が、あ!?」




 バルドの悲鳴と、耳障りな金属音。


金属と金属が、勢いよく衝突する……交通事故みてえな音だ。




 そして、バルドらしき影が俺の横を高速で吹き飛んだ。


横に目を向けた時にはそこになにもなく――村の方向から豪快な破壊音が響いた。




「嘘、だろ!?」




 振り向くと、村の門が半壊。


バルドの脚が、もうもうと立ち込める煙の中から突き出ている。




「バル――」




「前見ィウッド!アンタが目ェ放したら不意打ちで死ぬでッ!!」




「ッ!」




 マギやんの声で現実に引き戻される。


前を向いた俺の前には、既に頼もしい鎧姿が立っていた。




「ぬ、ぐ、アアッ!!」




 前方のヴァシュカ。


その背中に筋肉が浮き出て、両腕が視認できないほどの高速で動く。


ぎん、ぎん、と虚空に火花が上がった。




「――骨だ!どういう魔術か知らないけど、森の奥から骨を飛ばして来てる!」




 再びぎん、と音。


俺の左斜め前に、白っぽい杭が突き刺さった。


アレが骨か……って、デカさが人間のサイズじゃねえ!


恐竜のゾンビでもいやがるのか!?




「っち、遠距離型……!ヴァシュカ、しばらく頑張って!ミドット!ヴァシュカに精霊の守りを!!」




「任しときなァ!」




 ヴァシュカが吠えると同時に、体中に赤い文様が浮き出る。




「『地母神よ、古の盟約に従い……我に力を!!』」




 呪文を言い終わった瞬間、赤い文様が目に痛いほど発光した。




「『風よ!纏いて走れ!!』――これでよし!僕は迂回しながら発射元を探るよ!」




 杖を振ったミドットにいさんが、その場から消えた。




「マギカ!あたいが弾けなかった流れ弾は任したよォ!ララが動けるようになるまで……根比べだ!!」




「合点やー!!」




 マギやんが答えたすぐ後に、びゅおっと音がした。




「おらァ!!」




 ヴァシュカの斧が翻り、盛大に火花が散る。


うお、さっきの骨よりデカいぞたぶん。


……っていうか骨相手でなんで火花が出るんだよ。


異世界ボーンは鉄でできてんのか?




 しかし……俺の方からは森しか見えねえ。


浅い所にはいなさそうだな……『ジェーン・ドゥ』に弾数制限がなけりゃ、めくら撃ちにでもするんだがな。


見える範囲にいないんじゃ、クロスボウを撃っても威力が出ねえ。


コイツの射程距離は大したこと、ねえからなァ。




「……待てよ」




 見える、か。


ひょっとしたら!




「マギやん!前にその鎧、鏡みてえな形に変化させてたよな!?アレって体から離しても使えんのか!?」




「手の届く範囲ならいけるで!何すんのや?」




 撃てば響くように返事。


さっすが!頼れる相棒だ!!




「よし、そんなら! 形は……遠眼鏡ってわかるか!?っていうか翻訳されてるか!?」




「バッチリや!」




「最高だぜマギやん!じゃあ一つ目の遠眼鏡を作ってくれ!長さは『ジェーン・ドゥ』くらいの!」




「任しとき!突貫でやったるわ!!」




 マギやんは右手でハンマーを持ち、左手を肩に当てた。


すると、肩部分の装甲がウニョウニョ動き始める。


いやあ、何度見てもファンタジー!




「ここをこうして、そんで、これがこれやから~……」




 マギやんの手によって、金属が筒の形状になっていく。




「ふん!っりゃあ!オオオオオォッ!!!」




 その間も、ヴァシュカは動かずに斧を振り回し続けている。


いや、なんか回転数上がってねえか!?


敵さんの攻撃が増えてんのか!?




「――ララぁ!どうだいっ!?」




「もうちょい……呪いは解けたけど、魔力を回復させてる……がんばって!」




「あいよォ!……バルド、とっとと、起きなァ!!」




 さっきまではぎん、ぎん、くらいだった音の間隔が、今じゃ『ぎぎぎぎぎぎん!』って感じだわ!


向こうには骨のマシンガンでもあんのかよ!?




「ウッド!こんなもんでええか!?」




 ――っと、完成したか。


思ったより早い、助かるぜ!




「ありがとよ!」




 マギやんから遠眼鏡を受け取る。


よし……何の変哲もねえシンプルな形状だ!


目に当ててみる……おお!ちゃんと見える!




「こいつを使って狙ってみる!」




「任したで、相棒!!」




 遠眼鏡を左手に持ち、右手首と交差して構える。


疑似スコープマウントだ、急ごしらえだがないよりかはマシだろ!




「っぐ、んのォ!ミドット!まだァ!?」




「――まだだけど!こっちからもちょっかいかけるよっ!!」




 おっそろしい勢いで斧をぶん回しながら、ヴァシュカが叫ぶ。


それに、どこからかわからんがとりあえず森の方向から答えるミドットにいさん。




「とりあえず、ぶちかましちゃって!!」




 その声に、森の中からばきばきと音がする。


ミドットにいさんの竜巻が中で暴れ回ってる感じだ。


ここから見える木々が、根元から折れたり枝が飛ぶのが見える。




 いかん、俺も索敵しなくちゃな……!


明るくなった視界ではあるが、奥の方は見えにく……なァ!?




「ウッドぉ!!」




 火花。


前に割り込んだマギやんがハンマーを振る。


砕けた白い破片が頬を掠めた。




「アカン!骨の矢が分裂しよる!ウチの後ろから出んといて!!」




「言われなくても!!」




 ヴァシュカが弾く前に分裂してやがった!


ちくしょう、骨の癖に滅茶苦茶だ!!




「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」




「今度はなんっ……ああ、よかった」




 後方から雄叫びが響いたかと思うと、何かを吹き飛ばす音。


そして地面を蹴飛ばすような、轟音が響く。




「ふざけやがって!!クソ死霊術師如きがよォオオオオオオオッ!!!!」




 と、思っているうちにバルドっぽい影が森へ飛び込んでいった。


完ッ全にキレてんじゃねえか、アレ。


ま、まあこれで森に入ったのは2人だ。


標的もバラけるだろ、たぶん。




 俺にできることは、いち早く敵を発見してブチ抜くことだけだ……!!




「頼むぜ、『ジェーン・ドゥ』……!」




 構えた愛銃が、いつもよりも熱い気がした。

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