第71話 B級映画のスター選手!こんな所でお目にかかれるとは……!

「よし、到着だ」




 バルドを先頭にしたオレたちは、夕暮れ時に目的地のアポロ村に到着した。


街道は平和で、アクシデントもなかった。


ちょいとした異世界ピクニックって感じだな。




「ん~……ちょいときな臭いね」




 ヴァシカが、斧を肩に担ぎながら言った。




「なんか、活気がないような気がしやすね……元々こんな村なんですかい?」




 森のほとりにあるアポロ村。


特に日当たりが悪いわけでも、周囲に湿地があるわけでもないのに……ヴァシュカが言う通り、確かに雰囲気が暗い気がする。




 張り巡らされた塀の正面、門の前に立つ2人の門男……槍を持ったそいつらは、やる気なさげに佇んでいる。


いや、どちらかというと覇気がない感じだ。




「去年来た時はこんな感じじゃなかったけどな~……ま、とにかく話を聞きに行こうよ」




「ん、精霊まで元気がない……これ、ちょっと変」




 ミドットにいさんとララが歩き出す。


精霊に元気がない状態ってどんなだよ。




「ウッド、どないしてん?変な顔して」




「んにゃ、別に……オレ達も行こうぜ」




「変なウッドやなあ……?ま、いつものことか」




「なんだとこのロリ巨乳」




 マギやんに突っ込みつつ、村へ向かうことにした。






・・☆・・






「よくいらしていただきました、私はアポロ村の村長……モリドです」




 門番に招かれて入った村は、なるほど鈍いオレにもわかる辛気臭さだった。


どの村人も元気がなく、まだ明るいってのに家に籠っている感じだ。




 んで、一番デカい家に連れて行かれたんだが……そこにいる村長も、これまた陰気だった。


60代後半だとは思うが、目元に力が無さすぎて70代にも80代にも見える。




「どうも、アンファンギルドのバルドです」




 バルドが懐からカードを取り出した。


どうやら、このチームの折衝役はバルドのようだ。


見た目にだいぶ反してんな。




「おお、銀級の方に来ていただけるとは……これで村が救われます!」




 お、村長がちょいと元気になった。


銀級のネームバリューってすげえのな。




「まあ、そう早合点されても困りますがね。それで、依頼内容は『村の警邏』ってことでしたが……具体的には?」




 今回の依頼は、バルドが言ったように『村の警邏』


依頼表には『村周辺の警邏・1週間。賃金・1人1日につき銀貨5枚』とあった。


つまり、総額銀貨35枚……金貨に直すと3、5枚だ。


それを……6人分だ、かなりの金額になる。


ただのお気楽パトロールってわけじゃねえだろう。




「はい……実は、ゾンビが出るのです」




 村長は、脂汗をかきながら絞り出すように言った。


ゾンビ!ゾンビときたよオイ!




「ゾンビですかい……だがねえ村長サン、依頼表は正確に書いてもらわねえと困りやすぜ?」




「も、申し訳ありません……ですが、ゾンビだと判明したのは昨日の夜ですので……今日皆様が来なければ、更新するように使いを送る予定だったのですが……」




 なるほど、ねえ。


だから、依頼表には詳しく書けなかったってことか。




 しかし、ゾンビか。


そういや、まだ見たことねえな。


地球のB級映画でなら、山ほど見たことがあるけどよ。


いつだったか、マギやんが殺した盗賊に聖水ぶっかけてたっけな。


供養されねえとゾンビになるんだっけか。




「数はどれくらいですかい?」




「無数、としか言いようがありません……毎晩、森で声がして……昨日までは声だけだったのですが、ついに塀の間際にまでやってくるように……」




 この村の背後に広がる森。


どうも、そこからゾンビがやってきているらしい。


そりゃ、ぞっとしねえな……ホラー映画じゃねえかよ。




「ちょっといい?……森に墓地があるの?それとも戦場跡?」




 ララが村長に質問した。




「いえ……墓地は森にはありませんし、森で大規模な戦が起こったこともないのです」




「――それはおかしい。死体がないとゾンビは発生しない……スケルトンではないのよね?」




「は、はい……昨日確認しましたが……肉が付いていました。あれは、まだ新しいゾンビです」




 むーん……変な話だよなあ。




「(なあ、マギやん)」




 隣で座っているマギやんに話しかける。




「(んにゃうぅ……な、なんや、やらしいな)」




 耳に息がかかったマギやんが変な声を出す。


やめろ!誤解されんだろうが!




「(……あのな、ゾンビってのは昼間はどうしてんだ?)」




「(ああ、暗い所でじっとしとるで。たぶん森の中やろ)」




 はー……するってえと夜の間は活発に動くってことか。




「(退治方法は?)」




「(いっちゃん楽なんは、昼間に潜んどるところを魔法で一気に燃やすことや。聖水いらずやな……せやけど今回は場所が場所やからね)」




「(大惨事になっちまう……か)」




 あの森、かなり深そうだもんな。


火なんか点けたら、村ごと消えてなくなりそうだ。




「(ま、ウチらはバルドはんの言う通りに動くだけや……先輩のやり方、ベンキョウさせてもらおうで)」




「(だな、下手な考え休むに似たり……か)」




「(なんやそれカッコええな、後でくわしゅう教えてんか)」




 ……ことわざはしっかり翻訳すんのかよ。


わけわかんねえ加護だな、まったく。




「わかりました、それじゃ警邏は今晩からでってことで?」




「はい、お願いします!門の近くにある空き家を解放しますので、どうぞ休んで備えてください」




 お、どうやら屋根のある所で休めるらしいや。


そいつはありがてえ。




「はいはーい、村長さん!井戸使ってもいい?」




 ミドットにいさんが手を上げて聞く。




「は、はい。中央の井戸をお使いください」




「ありがとうございまーす!」




 井戸か、完全に忘れてた。




「(今回の依頼、食料と水に関してはなんも書かれとらんかった。ああいう風に言質とらな、最悪金取られとったで)」




 はー……抜け目ねえな。




 オレ達は村長宅を出て、言われた空き家に向かうことにした。






・・☆・・






「今回の依頼、ヤバいかもしれねえ」




 少しだけ埃っぽい空き家に到着し、荷解きを終えるなりバルドがそう言った。




「ヴァシュカ、お前もそう思うだろ?」




「ああ、村長の顔をずうっと見てたけど……何か、隠してるね。あたいらを嵌めようってことじゃないだろうけど、何か言ってないことがあると思うよ」




 ……ずっと黙ってると思ったら、そんなことしてたのか。




「ウッド、マギカ。ギルドに来る依頼に大きな嘘はねえけどな、かといって一切合切説明されてるわけじゃねえんだ……しっかり覚えときな」




「へい」「はいな」




「ギルド経由でコレだからね~、モグリの依頼……ギルドを介さない依頼なんて絶対受けちゃ駄目だよ」




 ミドットにいさんが、重ねてそう言ってくる。


モグリの依頼……そんなのもあんのか。




「金払いがいいように見せかけて、なんのかんの言いがかりをつけて満額払わねえってこともあるしな。とにかく依頼はギルドから、こいつは鉄則だ」




 どうやら、この依頼はオレたちへの教育目的もあるらしいや。


有難くて涙が出るぜ。




「さて、話を戻すぜ。とにかくどうするにせよ、今晩ゾンビ共と一当たりしてみる……2人とも、ゾンビとの戦闘経験はあるか?」




 オレは首を振り、マギやんは頷いた。




「隊商の護衛で1回だけ。せやけど、魔法使いが遠距離で倒したからなんもわかれへんです」




「そうか……まあ、簡単に言えば頭を潰すってのが一番楽だ。逆に言えば、頭以外はロクにダメージが通らねえ」




 オレの知ってるゾンビと同じ対処法だ。


世界が変わっても、そこは一緒らしい。




「神聖魔法を使える神官がいりゃあ、その限りじゃねえけどな……ないものねだりだ」




「あの、気を付けることってありますかい?噛まれたらヤバいとか」




 B級映画と一緒なら、感染しちまうかもな。




「ああ?そりゃ噛まれるのはやべえだろ、腐ってんだからすぐに洗わねえとこっちも傷が腐っちまう。水場が近くにねえ時は、刃物を炙って傷に押し当てろ……死ぬほどいてえが、死ぬよかマシだろ」




「うっす……」




 あ、そういう現実的な怖さなのな。


肝に銘じとこう。




「奴らの動きは基本的に鈍い、腐ってんだからな。周囲の状況に注意して、位置取りに気をつければ大丈夫だ」




「たまーに厄介なのが混じってるけど、そういうのはもう見た目から違うからわかりやすいよ。ゾンビの癖にムキムキだしね」




 バルドとヴァシュカからのアドバイス、しっかり覚えとこう。


ムキムキのゾンビってなんだよ。


〇イオハザードのタ〇ラントみてえなのかな。




「位置の把握は私に任せて。あいつら無茶苦茶臭いから精霊がすぐにわかるし」




 ララがドヤ顔をしている。


……まあ、腐ってるしな、精霊も大変だ。




「斥候職の僕は今回そんなに活躍できないな~……ウッドくんの横辺りで護衛してるね」




「嘘つくんじゃねえミドット、お前ナイフで首くらい落とせるだろうがよ」




 ……すげえな、にいさん。


このチーム、当たり前だが戦闘力高すぎだろ。




「まあ、事前の打ち合わせはこんな所だな。細かい所はまた夜だ……朝まで起きてることになるから、今のうちにしっかり寝とけよ」




 そう言うなり、バルドは部屋の隅にあるベッドへ横になった。




「飯は朝になってからだよ。満腹でゾンビなんて相手にしたら吐いちまうからね……それじゃ、あたいも寝る」




 ヴァシュカは毛皮を敷いてその場で寝転んだ。


オレも寝とくか、体調は万全にしとかねえとな。




「マギやん、すまねえけどウイスキーはナシな」




「やっぱりアンタ、ウチをアホやと思てるやろ……」




 ジト目のマギやんに手を振って、オレも背嚢を枕に寝転んだ。


ゾンビか……さぞグロいんだろうなァ。

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