第70話 先輩との合同依頼、開始。

「今日はよろしゅうお願いします!」




「よろしくお願いしやす!」




 マギやんと並び、頭を下げる。


オレ達の前には、頼れる先輩が……4人。




「おう、まあそう固くなるなよ」




 虎獣人のバルド。




「あいよ!今日はよろしくねェ」




 オーガのヴァシュカ。




「よろしくー、ご飯期待してるからね!」




 ネオロスのミドットにいさん。




「……ご飯、よろしく」




 そして、エルフのララだ。


……後半の2人、飯食いたすぎだろ。






 今日は、ミドットにいさん達のチーム……『ゴラウオン』との合同依頼の日だ。


まあ、合同というよりも……例の公爵家絡みの『諸々の事情』で、オレ達が加えてもらう、って形の方が正しいか。


こっちは格下なんだしな。




「しかし、2人とも時間よりも早い集合だねえ……うん、まずは合格!」




 ミドットにいさんが指を立てた。


なんだ、試験官みてえだ。




「いい冒険者の第一条件は、まず時間厳守!ってことさ。何につけても、予定を守れないような奴は駄目だねえ」




 社会人みてえな指標だな。


いや、冒険者も立派な社会人か。




「工房やと、時間厳守は絶対やったからなあ」




「オレも似たようなモンだな、先方との約束とか、会議とか」




 どうやらオレ達は、前職的な意味で適性があったらしい。




「そういや、ウッドって何の仕事してたんや?」




「あー……ええと、御用聞きみてえなモン、かな?」




 ここはまだアンファンの街中だ。


マギやんとにいさん達にはオレの出自は伝わっているが、さすがにここじゃあ……な。




「……あ、せやな、うん」




 マギやんも気付いたようだ。


察しが良くって助かる。




「よし、じゃあ出発だ。ウッド、今日の依頼内容は知ってるな?」




 得物……背負った大剣の位置を動かし、バルドが聞いてきた。




「あ、ハイ。アポロっつう村に行くんすよね?そこで周辺の警邏をすんでしょう?」




「ああそうだ、よく頭に入れてるな。まずは移動だ、行くぞ」




 満足そうに頷き、バルドが歩き出した。


今回の目的地……アポロ村へは徒歩で行く。


調べた限りじゃあ、大体半日で着くらしい。


アンファンから南へ街道でまっすぐ……ってことだ。




「しゅっぱーつ」




 遠足にでも行くように、ミドットにいさんが言い……オレ達は歩き出した。






・・☆・・






「街道沿いだから、まあ大丈夫だとは思うけどね。念のため、念のため」




 アンファンを出てすぐにミドットにいさんがそう言い、簡単なフォーメーションを組んだ。




「お前らは2人チームだから無理だが、とりあえず頭に入れとけよ。移動陣形ってやつだ」




 バルドが、まず前に出る。


続いて、ヴァシュカも。




「俺とヴァシュカみてえな戦士は前衛職って呼ばれる、この場合は一番前だ。周囲の視界が確保されてる時はな」




「ダンジョンとか森みたいな見通しが悪い時は、前衛職が先頭と最後尾に分かれるんだけどね。奇襲を警戒してさ」




 はあ、なるほどねえ。


RPGみたいでちょっとワクワクすんな。




「僕は斥候職だよ、今回みたいな移動中は真ん中。視界不良の場合は前衛のすぐ後ろね」




「私は魔法使いだから後衛職、移動中は一番守りが固い中央。戦闘中は最後尾」




 ふむふむ。


ほんと、ゲームみてえだ。




「ほんならウチは前衛やから前やな」




「オレは……後衛職ってわけか」




 前衛になんか出たら即死しかねねえ。


防御力、皆無だもんよ。




「お前らは並んどけ、今回はな。……武器はいつでも抜けるように準備だけはしておけよ」




「バルドのあにさん、その剣はそのままでいいんで?」




 バルドの大剣は、頑丈そうな鞘にガッチリ入ってる。


抜くのが結構しんどそうに見えるが……




「これか?―――ホラ、よ!」




 バルドは柄に右手を滑らせたかと思うと、片手で軽々と大剣を引き抜いた。


鞘は途中から割れるように開き……剣が抜けた瞬間に鞘の形に戻った。


すげえ……マギやんの鎧みてえな金属でできてんのか。


それに、抜く速度もとんでもねえ。


オレが敵なら、アホ面晒してる間にお陀仏だな。




「あたいもね!」




 張り合うように、ヴァシュカが得物……片手斧を抜いた。


なんとその片手斧は、抜かれる勢いで『伸びた』


抜く前は【ジャンゴ】よりちょいと長いかな……くらいのサイズだったのに、今じゃ立派な長柄の斧だ。


はー……2人とも金がかかってそうな得物だなあ。


さすが、銀級ってことかよ。




「ウッドはクロスボウと……なんとかっていう魔法具をいつでも抜けるようにしときなよ!」




「へい、合点でさ」




 クロスボウはスリングで背中に回しているから、一動作で構えられる。


【ジェーン・ドゥ】に至っちゃ、地球にいるころから慣れ親しんだ通りの動きで抜ける。


それに、こっちに関しちゃ……いざとなったら手の中に『呼べる』しな。


慣れ過ぎるとアレだから、普段はきちんとホルスターから抜くようにしておくがね。




「ふふん……僕もパッ!とね」




 ミドットにいさんは、手品みてえに広げた手の中に鋭いナイフを出現させた。




「えっへん」




 ……ララなんか、長い杖が浮いたまま周囲を旋回してやがる。


はー……すげえ、銀級冒険者。




「ま、今は移動中だからな。必要以上に浮つきすぎず、張りつめ過ぎず……って感じだ。こればっかりは場数を踏んで慣れるしかねえがな」




 そう言って、バルドは先頭を行く。


ヴァシュカもそれに続いた。




「ウッドウッド、ウチらも頑張ろな!」




「応よ、しっかり覚えて……しっかり稼ごうぜ!」




 オレはマギやんと拳をぶつけ、先輩冒険者たちを追って歩き出した。






「若くていい……150年くらい前の私を見ているようでキュンキュンするね?」




「僕に同意を求めないでくれる~?その頃はまだ生まれてないんだけど」




「誤差みたいなもの」




「でっかい誤差だなあ」






・・☆・・






「へえ、コイツがララが美味い美味い言ってた『びいふしちゅー』かい!確かに酒が欲しくなる美味さだねえ!」




「食ったことねえ味だがよ、こいつはイケるぜウッド!」




 特に何事もなく歩き続け、街道の脇で昼飯となった。


オレからは缶詰を2つ提供し、先輩方はパンと水を用意してくれた。


こっちの元手はゼロだから、大分得した計算になっちまう。




「ん~、やっぱり美味しいね。なんとかこっちでも作れないもんかなあ」




「難しい。私も80年ばかり試したけど完成しなかった……」




 先輩にも好評のようでよかった。


ララとミドットにいさんは経験者だがな。


……80年もビーフシチュー研究してたのかよ、すげえ探求心だ。




「んみゃ、んみゃ~」




「マギやん、おかわりはまだあるからな」




「おーきに~!」




 マギやんも、幸せそうで何よりだ。


平和だなあ。




「ウッド、そう言えばよお……『ニホン』じゃあ結局どんな仕事してたんだ?」




 バルドが、口回りをシチューまみれにしながら聞いてきた。


……毛皮があると大変だな。




「ああ、ええと……何回か転職しやしたけど、こっちに来る前は教科書の卸売り会社で働いてたんでさ」




「『キョウカショノオロシウリガイシャ』?なんだそりゃ、呪文か?」




 うえ、翻訳が働いてねえ。


……こりゃ、説明すんのが大変だな。


よし、説明が分かりやすい前々職にしよう。




「いや、警備会社……うーん、まあアレでさ、衛兵みたいな仕事ですよ。方々の商店に雇われて、警護に回ってたんでさ」




「なんだ、『ニホン』にも冒険者みてえのがいたんだな」




 ……民間軍事会社ならそうも言えるのかもしれねえがな。


残念ながら?そんなに殺伐しちゃいねえよ。




「給料もよかったんですけどね、ちょいとその、盗賊を殴り過ぎて首になっちまいまして」




「ハァ?盗賊を、しかも殺さなかったのにクビぃ?……やっぱ『ニホンジン』は変なのが多いんだなァ」




 バルドは理解しかねるといった表情だ。


……こっちの冒険者が盗賊相手にするような対応がスタンダードなら、首にならずに済んだんだがなァ。




 


 以前思い出したパワハラ上司をボコって辞め、その次に就職したのが警備会社だ。


昼夜逆転進しまくるのが玉に傷だったが、給料はいいし仕事は楽だしで中々いい職だったんだよな……確かに。


資格も色々取らせてもらったしよ。


 だが、勤務にも慣れ始めたある日……警備を担当していた会社に泥棒が入った。


一緒に勤務してたのはヨボヨボの爺さんで、まったく役に立たなかったんだ。


普段の勤務なら別にいいんだが……その日は別だった。




 後で知ったんだが、その日に押し入ってきたのは前科が何犯もある筋金入りのチンピラだった。


しかも、3人。


 こういう場合、警備員は決して戦おうとせずに警察を呼ぶのが決まりなんだが……そいつらは手慣れていた。


通報させないように、警備員詰め所を真っ先に襲ってきたんだ。


同僚の爺さんは、出合頭にぶん殴られて昏倒。


後日、頭蓋骨が割れてたことが病院で発覚した。


 オレは、その光景を見て……まず詰所に備え付けられてたテレビをぶん投げた。


それが連中の1人に当たって倒れ、向こうさんがひるんだ隙に今度は消火器を噴射。


中身が空になるまで噴射した後、その消火器で全員をひたすらぶん殴った。


奴らは馬鹿みたいにでけえナイフ持ってたから、こっちはもう必死だったぜ。




 それで、そいつらが動かなくなってから警察を呼んだ。


で……その後は警察の事情聴取で大変だった。


過剰防衛ギリギリだって怒られたが、そんなこと言われても困る。


手心を加えたら刺されちまうだろうが。


変な人権派弁護士もイチャモンつけてくるし……ほんと、ひどい目に遭った。




 会社からは退職を勧められたよ。


『いくらなんでもやりすぎ』ってことらしい。


バルドにゃあクビって言ったが、依願退職扱いだ。


……ままならねえな、本当に。






「ウッドウッド、どないしたん?切ない顔しとるで?」




「……オレは『ニホン』よりもこっちが合ってるな、と思ってよ」




 そう言うと、マギやんは歯を見せて笑った。




「へへへ、そかそか!そらよかったわ!」


 


 ……まあ、いいか。






「……キュンキュンしちゃうね」




「だから僕に同意を求めないでくれますかね?ララさん」




「む、年寄り扱いしたな……身長伸ばされたいの?」




「やめてお願いやめて」

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