第63話  こういう獣人なら、毎日大歓迎だ。(※性的な描写アリ)

「久しぶりだなァ、ねえさんよ。あの後とんと見かけなかったから心配してたぜ」




 歓楽街で絡まれていた獣人を助けたが、顔見知りだった。




「ええ、ちょいと世話になった人が体を悪くしちまって看病をねぇ……じゃない!ほんとに助かったよォ、おにいさん!」




 緊張が解けたのか、目尻に涙を浮かべたねえちゃんが縋り付いてくる。


あの時はピンと立っていた両耳も、へにょりと垂れ下がって見るからに元気がない。




 見た目は犬ってより狼系の獣人だな。


目つきが少しばかり鋭いが、冒険者と違って色気がある。


着ている服も薄手の……体の線がバッチリ出る感じの素敵な衣装だ。


フサフサの尻尾もよく手入れされてんのか、艶があって綺麗だ。


どっかのクソハスキーやクソピットブルとは大違いだな。




「随分と嫌な客に好かれたもんだな」




「あんなの客じゃないよ!女と寝る前に体も拭かないような男なんか、いくら積まれたって願い下げだよォ!」




 たしかに、そうだな。


オレだって風俗に行く前にはしっかり身綺麗にして行ったしな。


それがああいう場所の礼儀……だと思ってる。


いや、ことが始まったら洗ってもらうんだが、それはそれとしてな。


この世界なら清潔感ってのはより重要だろう。




「あのオッサンが戻ってくるかもしれねえ、今日の所は在所に帰って酒飲んで寝ちまいな」




 そう言い、板塀に刺さったボルトを回収するために足を踏み出す。


専用品だから高いんだよ、アレ。


依頼中ならともかく、街中なら放っておくのは勿体なさすぎる。




「……んぐぐ、っと!」




 さすがは魔物に通用するクロスボウ。


なかなかに深く突き刺さってやがんな……返しは付いてねえからまだマシだがよ。


四苦八苦しながらなんとか回収する。


2本目を抜いて矢筒にしまった時に、ねえさんが追いついてきた。




「ねぇねぇ……お礼もしたいし店に寄ってよ、おにいさん!」




 店ぇ?


なんだ、このねえさんは『立ちんぼ』じゃなかったんか。


往来に出て呼び込みするタイプだったんだな。


地球じゃ風営法違反になるが、そんなもんこの世界にはねえやな。




「なんだいねえさん、店で働いてたのか?オレぁてっきり1人で客引いてたのかと思ってたよ」




「場末の街ならそうだろうけどね、アンファンはそこらへんキッチリしてるのよォ……で、どう?」




 ねえさんは、しなを作りながらオレの胸に手を置いた。


……まだ震えてんな、かわいそうに。




「……今日ん所はそうだな、酒でも奢ってくんな。それでいいなら、お邪魔するぜ」




 男に殴られた日に、男に抱かれたくもねえだろう。


さっきの騒動で、オレのムラつきもすっかりなりを潜めちまった。


お礼してくれるってんなら、キャバクラ的な楽しみを求めるかねェ。




「……気にしてくれてんの?変な人ォ」




「そこはイイ男って言って欲しいもんだなァ」




 オレの言葉に微笑み、ねえさんは身を翻した。




「ふふ、じゃあそういうことにしといたげるよ。アタシはネネイラってんの、アナタは?イイ男さん?」




 ねえさん……ネネイラは形のいい尻に付いた尻尾を振った。


ふわりと、いい匂いがする。


……はー、たまんね。




「……ウエストウッドってんだ。助平な冒険者さ」




「あっは!いい名前じゃないのさ……ウエストウッド?」




 ネネイラが眉を寄せる。


……なんだ?


まさかとは思うが……例の公爵家の関係か!?






「―――まさかアンタ、『騎士殺しのウエストウッド』!?」




 


 ……なんちゅう不名誉なあだ名だよ、オイ。




「……殺してねえよォ。そんなに噂になってんのか、ソレ」




 ガモスのおやっさんはともかく、娼婦にまで知られてんのか。


この世界の噂システム、マジで恐ろしい。




 ともかく、店まで行くのは確定事項だな。


ネネイラの店だけでも、この誤解はといておかねえと……おちおち娼館にも行けやしねえや。




「ふぅん……とにかくこっちだよォ!」




 とりあえず、先導するネネイラのデカくて美味そうな尻を追いかけることにした。






・・☆・・






「ウッドさぁん!飲んで飲んで!」




「こっちも食べてニャ!ホラ、あ~ん♪今朝仕入れたとっておきニャ~!」




「アンタが料理したわけじゃないじゃん!っていうかアタシが連れてきたんだからね!」




 ……オレは今、幸せの真ん中にいる。




 ネネイラに案内されてたどり着いたのは、『草原の憩い』って名前の娼館だった。


喫茶店みてえな名前だと思ったが、中に入ってみると……うん、間取りはキャバクラだな。


 


 2階建てになってて、1階は呑んだり食ったりする場所。


んで、2階は……気に入った嬢と『仲良く』泊まる場所だ。


その1階部分で、オレは接待されている。




「明るい所で見ても、噂と違って普通の人族じゃん!誰よ、オーガよりもでっかくて角が三本生えてるなんて言ったのは!」


 


 オレの左隣に座ってるのは、さっきのネネイラ。


あの時は暗くてよく見えなかったが、左腕に素晴らしい巨乳がぶつかってきている。




「どうせ『妖精の遊び場』のユリーチカニャ?あの子いっつもろくな噂流さないもんニャ~?」




 それで、右隣にいるのは……メロウって名前の猫獣人だ。


ギルドのマチルダよろしく貧乳だが、足に当たってくる太腿の感触がこれまた素晴らしい。


猫獣人は足がムチムチなのか……素晴らしいじゃねえか!


今日は指名が入ってなくて暇だったとかで、テーブルについてくれてる。




「それにしてもバルゴンのオヤジ、ウチを出禁にされたからって外でひっかけようニャんて……出禁で済ませた温情をアダで返しやがったニャ!」




 さっきネネイラに絡んでたオッサン、出禁組かよ。




「あいつマジでくっっっっっっっさいニャ!!何度言っても体拭いて店に来なかったから、入り口からの臭いで毎回死にそうだったニャ!!」




「それそれ!アタシら獣人は特に臭いに敏感なのにね!公衆浴場だってそんなに高いモンじゃないのにさァ!!」




 女2人は酒をガボガボ煽って盛り上がっている。


……死ぬほど嫌われてんじゃん。


獣人にとっちゃ死活問題ってか?


風呂入ってから来てよかったァ……




「なあ、やっちまった後で言うのもなんだがよ……大丈夫なのかい?その、逆恨みとかよ。もしアレだったら、衛兵にでも言っとくか?」




 出禁になっても執念深かったヤツだ。


地球でも水商売の女がストーカーされたり、時には殺されたりする事件もあった。


法整備がアレというか、人の命が軽いこの世界じゃあもっとえらいことになるんじゃねえのか?




「あ、大丈夫だよウッドさん。さっきこの店のママ経由で『元締め』に連絡入れといたからさァ……あのオヤジ、アンファンじゃどこのお店にも入れなくなるわよ!」




「ウチらの商売道具殴るような奴ニャ!情けは無用ニャァ!!」




「『元締め』……ああ、ケツ持ちの親分さんがいるのかい、ここにも」




 みかじめ料を取る代わりに、店を守るヤクザ者か。


地球じゃ非合法だが、この世界じゃまだ現役らしいや。




「ケツ持ち!?聞いたことないニャ!やらしい言葉かニャ!?」




「ちげーよ……オレぁミディアの出身でな。地元じゃこういう店の後ろ盾のことをそう呼んでたんだよ……まあ、アンタくらいのケツなら頼まれなくたって持つがね、がはは」




「すけべニャ!コイツどスケベニャ~♪」




 うおお!?メロウの尻尾がケツを撫でた!? 


デッカイだけあって腕みたいな感触だな、ビックリした。




「ミディアノ……へぇ、そりゃまた随分と遠くから来たもんだね」




「まあな、色々あってよ」




 改めて超便利、この設定。


ちょいと常識が無くてもこれで誤魔化せるからな。


返す返すもミディアノの連中には悪いが、まあ死人に口なしだ。




「ふぅん……そっちでも騎士殺したんだ?」




「生まれてこの方貴族サマを殺したこたぁねえよ……ったく。揉めたのは事実だが、双方死人なしで遺恨もねえんだ……ねえさんたちでそういうふうに噂を上書きしといてくれよ」




 騎士殺しが事実なら、今頃のほほんと酒飲んでられるわけねぇじゃねえかよ。




「そんな話は置いといて飲もうぜ、飲もう。嫌な事ァ飲んで忘れるにかぎる」




「いいこと言うニャ~このスケベ!乾杯ニャ~!」




「アタシも~!!」




 仕切り直しとばかりに、オレ達は同時に杯を煽った。


……このうっすい赤ワインみてぇなの、意外とうめえな。


それもそうか!なんたって両手に華だしな!


この状況なら紙パックの激安酒でも大吟醸だぜ!うはは!!






・・☆・・






「ウッド……アンタむっちゃいい匂いするニャ……にゃふふ……♪」




 メロウがオレのシャツに顔を寄せて……どころか隙間に鼻を突っ込んで嗅ぎまわっている。


さっきまでは左隣にいたが、もう半分オレに乗ってる感じだ。


酔うの早すぎだろ。


客より先に出来上がってどうすんだよ。




「メロウ、アンタちょっと飲み渦ぎよォ?ウッドさん困って……ないわね、うん」




 ネネイラがとりなそうとしたが、オレの顔を見てジト目になる。




「最高の気分だ、朝までこのままでも構わねえよオレぁ……」




 さぞ、どこに出しても恥ずかしいスケベ顔をしてるんだろうな。


自分の事だからよくわかる。




「人族の癖に獣人好きなんて変わってるわねぇ、今更だけど」




「お?そうなんか?オレにこの店を勧めてくれたのは人族のオッサンだったけど……?」




 そういう忌避感的なのってあるのかね?


オレとしちゃあそう……サハーギみてえな連中はちょいと御免だが、獣人やセイレーンなんかは全然イケるな。




「あら、じゃあその人も変わり者ねェ。ウチの客層はだいたい獣人だから、ウッドさんみたいなのは珍しいのよ……その、毛深いのが嫌なんだってさァ」




 ……毛深い?


獣人のソレは人間の体毛とは違うと思うがね……


手触りはいいし、それに何より……




「……うん、いい匂いで素敵だと思うがねェ」




「ニャぁあ~嗅がれてるニャぁあ~!コイツド変態ニャァ!あにゃにゃにゃ……」




 嗅ぐのはよくても、嗅がれるのは嫌なのか。


メロウがオレの上で身震いしている。


やめろお前!そこで腰をグニグニ動かすんじゃねえよ!




 ……しかし、さすがは娼婦。


香水と、色気のあるオンナの匂いしかしねえ……あ、やっべ。


ここしばらく禁欲生活だったせいで……




「……ニャぁ?」




「あらァ?」




 2人とも、オレの『変化』に気付いたようだ。




 ……仕方ねえじゃん、転移してからこっち女日照りだったんだからよ。


いい匂いはするし、感触もいいし。


不可抗力だ、不可抗力。




「……メロウ♪」「……ニャァ~♪」




「お、オイ2人ともちょっと待っ―――」




 なにやら目くばせした2人は、同時に立ち上がって両腕をがっしと掴む。


そしてそのまま、ものすげえ力でオレを運び始める。


なんちゅう力だよオイ!?冒険者でも食っていけるんじゃねえか!?




「ま、待て待て、オレぁ今日はそんなつもりじゃなくってな―――」




 2人に声をかけるが、ニヤニヤするばかりで止まってくれねえ!


待ってくれって!お前ら!今ちょっと前かがみでしか移動できねえんだから!!




「クソ男に嫌な目に遭わされた時はァ~?」「イイ男で『上書き』するニャ~♪」




 オレの説得も空しく、店の女の子たちにニヤニヤしながら見送られ―――2階へと連行させることとなった。


異世界初風俗がスリーマンセルとは……思ってもみなかったぜ、ホント。






・・☆・・






追伸。




異世界―――最ッ高!!!!


獣人―――最ッッッッ高!!!!




ありがとう!ありがとうモンコ!!


オレを転移させてくれてありがとう!!!! 



・・☆・・




『……無茶苦茶感謝されてる気配がしやがる』




『今頃はお楽しみ中だからねえ~?覗いちゃう?覗いちゃう?』

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