異世界に向って撃て！！～駆け出しガンマン、異世界で適当にやってます～

第59話 頼りになる先輩方。

「あ、別にキミたちがなにかこう……強盗的なことをやらかしたって疑ってるわけじゃないからね」

「は、はあ」

　突如出現した先輩冒険者、ミドット兄さん。

呆気に取られたオレの前で、腕組みしてウンウン頷いている。

疑われてるわけじゃねえならいいんだが、そりゃまたなんでだ？

「どっか遠くから、見てらっしゃったんで？」

「あったりぃ、僕じゃなくってララがだけどね」

　あの例の服飾好きエルフのねえちゃんか。

随分と視力がいいんだな。

「ウッドくんが変なのに襲われてる！って言うもんだからさ、多少なりとも付き合いのあった先輩としては見過ごせなくってねえ。背中を流してもらったこともあったし」

「そいつは……ありがてえです」

「いやいやいや、着いたらもう片付いてるじゃん！前に対人は気が進まないなんて言ってたけど、なかなかどうしてウッドくんもやるねえ～！」

　……そういえば飲んだ時にそんなこと言ったっけか。

あの頃はまだそんな覚悟なかったもんなあ。

「さてとー……急いで走ってきたからララが来るまで時間があるな。お、後ろのがお仲間だね、おーい！」

　兄さんがオレの後ろに手を振る。

振り向くと、鎧装備のマギやんが小走りに近付いてきた。

警戒を切り上げてきたみたいだな。

「ウッド！そっちのは知り合い……ああ、ミドットはん！」

「ありゃりゃ、その声はマギカちゃんだね。ウッドくんが組んでる相手ってそうだったんだ～」

　どうやら顔見知りらしい。

そういえば前にヤンヤ婆さんがヴァシュカの姐さんの名前出してたな。

オレより前から冒険者してるんだ、そりゃ知ってるか。

「妙な縁だね～。ま、とりあえず2人とも怪我無くってよかったよ」

　兄さんが笑いながら適当な岩に腰を下ろした。

「ウッドも知り合いやったんか、世間は狭いねんな」

「だなあ」

　2人して実感していると、兄さんが口を挟んできた。

「冒険者はいっぱいいるけどね、意外と『マトモな』冒険者ってのは数が少ないんだよ。だからさ、それなりに話が分かる同業者には率先して声をかけておく……これが長生きの秘訣ってワケ。合同依頼で変なのと組んじゃったら、最悪全滅するからね～」

　なるほどなあ。

マギやんはともかく、オレみてえなのにもよくしてくれたってことは……冒険者ってのは最低限の礼儀もわきまえてねえようなのも多いんだろうな。

現代日本人のほぼ平均値とはいえ、教育受けててよかったぜ。

「死臭がひっどいからとりあえず隠しちゃうね。『隆起せよ』」

　座ったままの兄さんが、懐から短い杖を取り出して一振りした。

きぃん、と音がして……地面が少し揺れる。

まさか！

　さっきまでハスキーがいた辺りは、こんもり盛り上がった土山に隠れていた。

たまげたぜ、魔法かよ。

「兄さん、魔法使いだったんすね」

「あははっ！こんなので魔法使いなんて名乗れないよ～手慰み手慰み」

　謙遜だろうか。

底が知れねえ。

「とりあえずララが来るまで待ってようか。キミたちもそんなに急いでないでしょ？」

「ああいや……実は埋まってる連中の仲間が周囲にいるかもしれねえんで、警戒しとく必要がありまして」

「ほーん……ちょいと待ってね」

　兄さんが杖を空中に向け、目を閉じて何度か振った。

少し、風を感じた。

「……うん、周囲に気配はないね。魔力の残滓もなし……もういないねえ、逃げ足の速いことだ」

　そんなことまでわかんのか。

今のはレーダー的な魔法になんのかな？

「ミドットはんが言うなら間違いあれへんな……ウッドウッド、ウチ腹減ったぁ」

　兜を液体に戻しつつ、マギやんが座り込んだ。

「いや、さっき食ったじゃねえかよ」

「ハンマー使うとごっつ腹減るねん、それにあの女の魔法具に抵抗すんのにも大分魔力使ってもうたし～……アカン、腹減ったァ～」

「あ～僕も僕も！ご飯の途中で来たからお腹空いた～！金寄越せとは言わないけど、なんか食べるものがあるなら分けて欲しいな～」

　……身長的に子供が2人いるみてえだなァ、この状況。

しっかし、さっきまで内臓がぶちまけられてた場所で飯食うなんて……異世界冒険者は肝が太いぜ。

　別に、在庫はほぼ無限にあるからな。

惜しむほどのモンじゃねえ。

「まあ、それなら……マギやん、何がいい？」

「赤いのんはさっき食うたから……今度は黒いやつや！肉のやつ～！！」

「はいはい、了解」

　黒いってことはビーフシチューな。

腹減った腹減ったと合唱する2人を残し、背嚢を拾いに行くことにした。

・・☆・・

「いい匂いがする、とっても」

「あ、ララ。お疲れ～」

「ララはん！ご無沙汰してます～！」

　背嚢を取って戻ると、すでに簡易的な竈ができていた。

地面から生えるように、粘土っぽい奴が。

たぶん、兄さんの魔法だろう。

　とっとと火を起こし、『無限ビーフシチュー』を温めることにした。

あいにくパンはさっきマギやんがほぼ食っちまったが、2人は気にしていないようだった。

兄さんは『こんなの初めて食べるよ～！ミディアノの料理っておいしいね～！！』と、やはり小学生にしか見えないリアクションをしていたが。

「ミドット、自分だけご馳走はずるい」

　そんな風に食事をしていると、遠くの方からララが地表をすべるように飛んできた。

速度は全力ダッシュくらいのもんだったが、マジで魔法って便利な。

オレも使いてえところだが、今までに使ってる人間を1人も見たことがねえ。

たぶんクソ難しいんだろうから無理だろうな。

「ああ、まだまだあるんで……いります？肉とか大丈夫っすか？」

「私はどこぞの偏屈な現地エルフじゃない。お肉もモリモリ食べる、いる」

　……勝手なイメージだったが、やっぱエルフってベジタリアンっぽいのもいるんだろうな。

まあ、ララは大丈夫みてえだが。

「はいどうぞ、熱いんで気を付けて」

　兄さんの横に腰かけたララに、木皿とスプーンを渡す。

眠たげな眼をしながらも、素早く受け取ってすぐさまララはスプーンを口に運んだ。

「……おいひい」

　長い耳がぴこぴこ上下に動いている。

……気に入ったってことかねえ？

「そういえば兄さん、他の2人はいらっしゃらねえんで？」

　ヴァシュカとバルドの姿が見えない。

明らかに前衛職っぽい2人なら、真っ先にいそうなもんだが……

「そうだよ～、2人は別口の依頼に行ってるんだ。僕らも別口でね、依頼が済んで戻った所なんだよ」

「ももむ……んく。4人で当たるほど難度の高い依頼がなかった。こういう時は別れた方がお得」

　ララも木皿から顔を上げずに補足してくれた。

　なるほどな、効率的に稼いでるってわけか。

そういう所もこの先見習ったほうがいいかね。

「それで？結局この騒ぎはどういうことなんだい？僕らはキミ達が襲われてるって状況しか知らないんでね……よければ話してくれないかい？」

　まだ飯を食っているララをよそに、兄さんが真面目な顔で問いかけてきた。

ううむ、やっぱりそうくるよなあ。

　それを聞き、マギやんの方を見る。

オレが判断できる問題じゃねえ。

マギやんの出自にかかわることだからな。

「む～ん……せやなあ、ほな、こうしましょ」

　しばし目を閉じて考え込んだマギやんが、懐に手を入れて紙を取り出した。

大きさはB5くらいで、羊皮紙って感じだ。

何やら文字がたくさん書いてある。

「……へえ、『機密保持』の契約書か。結構な等級だね」

「ん、それほどの秘密ってこと？別に私達、それほど口が軽いわけじゃないけど」

　オレにはわからんが、2人にはそれで伝わったらしい。

口の周りをシチューで汚したララも目だけは真剣だ。

……拭けよ。

「ケジメですわ、これは。それに、これから話すことはウチだけの問題やあれへんですし……ウッドにも迷惑かかること、やから」

「……はぁ？」

「まぎゅ？」

　申し訳なさそうなマギやんの頭をガシガシ撫でる。

「水臭ェこと言ってんじゃねえよ。とっくのとうに一蓮托生だろうがよ……チームだぜ、オレ達は」

「ウッド……」

　どうせこの期に及んで見捨てるなんて話はナシだ。

この問題が片付くまでは、マギやんに見限られねえ限りオレも付き合う。

今更吐いた唾は飲めねえんだよ。

「……わかった、おおきに」

　マギやんはニヤつきながら俯いた。

隠せてねえぞ、顔。

「麗しいチーム愛だね～！若い頃を思い出すな～！！」

「ぽやぽやする、こんな気持ちは50年ぶりくらい」

　先輩方はなんか盛り上がってる。

子供……いや、かわいい新人を見るような感じなんだろうか？

まあ、たしかにオレぁ駆け出しのヒヨッコだけどよ。

「その心意気に免じて契約しよう！えっと、内容は『マギカちゃんの許可した人間以外に秘密を洩らさない』でいいかな？」

「ハイ、そちらさんのパーティメンバーのお二方にもあらかじめ『許可』しときますわ」

　兄さんたちは書面を確認し、それぞれの人差し指をためらうことなく紙に押し付けた。

港町で見たように、紙面上に魔法陣が一瞬浮かんで消える。

はー……何度見ても不思議だぜ。

「マギやん、ちなみに破ったら罰則とかあんのか？」

　サクッと契約？したみたいだから大した罰でもねえのかな。

「大したことない、ちょっと利き手が吹き飛ぶ」

「嘘だろォ！？！？」

　ララがなんということもないように言ったが、思わず敬語抜きで突っ込んじまった。

そんなにサクッと吹き飛ぶのか、手が！？

「ん、言わなきゃ大丈夫だから」

「『催眠』や『威圧』の状況下で無理やり言わされたのには適応されないしね、気を付けてれば大丈夫さ！」

　……ベテラン冒険者ってのは、みんなこうも肝が据わってるもんなのか？

それともこの人たちが覚悟決まってるだけなのか？

　あと、催眠術で言わすことはできるみてえだな。

やっぱりいいタリスマン買おう。

今回みてえに相手がアホとも限らんしな。

「後輩の頼みを自分から聞いたのに、『やっぱナシ！』なんて言ってたらこの商売やってけないよ～」

「ん、噂が回れば『ムラハチ』になる。冒険者廃業不可避」

　……『舐められたら終わり』っての、マジかもしれねえ。

っていうかムラハチって絶対日本語由来じゃねえか……反応しなかったよな？オレ。

「契約完了……ほな、ウチが説明させてもらいますわ。ええやんな、ウッド？」

　頷いて許可を出すと、マギやんがそもそもの事の起こりから説明を始めた。