第57話 次から次へと勘弁してくれ。

「左右から魔法!ウチが散らすで!!」




 マギやんが叫ぶのとほぼ同時に、ピットブル2匹が手に持ったゴツい杖の先端辺りが光る。


っへ、あいつら2匹とも魔法使いかよ!マジで似合わねえ!!




 距離は……目測100メートルってとこか!


【ジェーン・ドゥ】にはまだちょいと遠いな!!


コイツの弾丸は空気抵抗とかその他をガン無視して飛ぶが、それでもこの距離じゃ辛い!


くっそ!ウィンチェスターの前に狙撃用のグリップが欲しいぜ!!




「点火イグニス!!」




 マギやんのハンマーがエンジンの始動音めいて吠え、ヘッドのケツから炎が出る。


何度見てもいいな、造形美ってやつか!!




「さあ来るでぇ……はァ!?!?」




 ピットブル2匹が同時に魔法を……天に向かって放つ。


んなっ!?なんだアレ?


アレも信号弾なのか!?




「――――あれはアカン!!ウッド!!」




「うおおお!?!?」




 呆けて空を見上げていると、マギやんがオレのポンチョを引っ掴んで跳ぶ。


首が締まる感覚に目を白黒させていると、『それ』が起こった。




「地上向きの、花火ィ!?!?」




 ゆるゆる打ち上がった2つの魔法、ソイツが真上で『弾けた』


いくつもの破片に分かれたような閃光が、地面目指して突き進んでくる。




「着弾地点から離れんと……アイツら、たぶん捕獲専門の冒険者や!!」




 捕獲、専門?


そういえばギルドの依頼でそんな文言を見たような気が……




 そんなことを考えていると、さっきまでオレ達がいた場所に魔法はいくつも着弾。


地面でも吹き飛ばすのかと思いきや、その場所を起点にして光る蜘蛛の巣みてえなモンが展開された。


……なぁるほど、たしかに捕獲専門だあな。




「アレに触れたら足を殺される……厄介な相手や!!」




 オレのポンチョを掴んだままマギやんが毒づくが、何か忘れてやしねえか?




「おいおい、オレを忘れんなよ」




 マギやんに運ばれたまま【ジェーン・ドゥ】を構える。


初弾が外れて悔しそうな、ピットブルの1匹を狙って。




「オレたちゃ、遠近両用のイカしたコンビだ―――っぜ!!」




 しっかりとグリップを握り、息を止めて引き金を引く。


いつ聞いても頼もしい音を上げ、【ジェーン・ドゥ】が咆哮した。


両肩に、ずしんと重い反動。




「みゃぎゃん!?」「おっとすまねえ!」




 空中にいるオレの反動がまともに襲い掛かり、マギやんの背中に激突しちまった。


その勢いで2人揃って倒れちまったが、問題ない。




 左側にいたピットブル。


そいつの金属鎧にはどでかい風穴が開き、後方の草原までハッキリ見えた。


奴はそのまま血反吐を吐いて前のめりに倒れ込む。




「もいっちょォ!!」




 背中にマギやんの鎧を感じながら、保持した狙いを横にスライド。


突然おっ死んだ相棒を見ている、もう1匹のピットブルに。




「―――ぃ馬鹿!前見ろ、躱せ―――」




 ハスキーが何か喚いちゃいるが、遅い。


悪いが、今だね!!




 もう一度引き金を引く。


今度は体が地面に接地しているので、狙いはより万全だ。


しかもあのバカ、足止めてやがる。




 マズルフラッシュが消えた向こうには、首から上を吹き飛ばされたピットブルが立っていた。




「マギやん2匹やった!残ってんのはリーダーだけだ!!」




 横に転がってマギやんの上からどく。


鎧着てなきゃ、さぞいい感触だっただろうによ。




「んぷぁ!!よっしゃようやったウッドぉ!!」




 マギやんとほぼ同時に立ち上がり、残るハスキーを照準―――はぁ?




 ハスキー野郎は、オレがサイティングするより早く……手に持った長い棒を地面に叩きつけた。


苦し紛れかと一瞬思ったのもつかの間、地面が盛大に爆発する。


あっという間にハスキーがいた場所は土煙で見えなくなった。




 クッソ!何しやがったか知らねえがこれじゃ撃てねえ!!


普通の銃ならめくら撃ちでラッキーを狙うんだが、コイツでそれやると弾丸が勿体なさすぎる!


弾数制限のことは知られてねえとは思うが……ここで博打は打てねえ!


あいつらが照明弾で連絡してた別動隊がいるはずだからな!




「っちぃ……ならコイツ、だ!!」




 地面に放り捨てた背嚢に左手を突っ込み、念じる。


するとすぐに、握り慣れた感触が返ってきた。




「マギやん!近接は任せた!!」「応!!まかしときィ!!!」




 クロスボウを背嚢から引き出しつつ、放り上げた【ジェーン・ドゥ】のグリップを噛む。


そしてコッキングして初弾を装填、土煙に向ける。


そのまま引き金を引き、発射。




 ばつん、とボルトが飛んでいく。


その成果を見ないまま、すぐさま再装填。


微妙に狙いをズラして発射。


その後も同じように再装填、発射。


ボルトも安かねえが、命よりはよっぽど安いや!!




「―――ッ!!」




 おっとぉ?悲鳴か!?


良い所に当たったなら儲けもんだn―――




「うっらぁああ!!」




 側面の土煙が晴れ、何か光る槍みてえなモンが飛んできた。


すぐさまマギやんがオレの前に出て、ソイツをハンマーで弾く。


火花とは違う何かが飛び散り、熱気がオレまで伝わってきた。




「ガァアアアアアアッ!!!!」




 土煙の中から、胸にボルトが刺さったハスキーが牙を剥いて飛び出してきた。


うっひょお、いいトコ当たってんじゃねえか。


だが惜しい、心臓とは逆方向だ。


アレじゃ即死しねえ。




「てめえ!!オッサン!!よくもアラゴルとアラカルをォ!!」




 棒の先端から光の槍みてえなもんを生やしたハスキーが、オレに向って血反吐を吐きつつ吠えた。


正気かい!?このタイミングで恨み言かよ!?




 目の前のマギやんのことはキレすぎて目に入らねえのか、そのままヤツは槍をオレの方に振り下ろそうとしている。




「阿呆ォ!!」




 が、あえなくマギやんに迎撃され、槍を弾かれた勢いで無様に体を開いた。


ここ、だな!!




 口から【ジェーン・ドゥ】を吐き、空中にあるうちにクロスボウの引き金を引く。




「そんなに大事なら首に縄付けて犬小屋に―――」




「ッガァ!?!?」




 発射されたボルトは、ハスキーの腹を貫いた。


すかさず再装填。




「―――繋いどきなァ!!!」「ッギ!?!?」




【ジェーン・ドゥ】をキャッチするのと、ハスキーの喉にボルトが食い込んだのはほぼ同時だった。




「ァ、お、おば、おばえ……」




「っしぃい!!」




 再度恨み言を吐こうとしたそいつの腹に、炎の尾を引くハンマーがめり込む。




「爆砕ブラードォオ!!!!」




 駄目押しの爆発。


ハスキーは腹周辺の肉を根こそぎバーベキューにされつつ、恐ろしい勢いで後方に吹き飛ぶ。


ひょお、良く飛ぶなァ。




 さっきまで元気なハスキーだったものは、地面を二度三度と転がる。


血やら臓物やらを撒き散らしながらしばらくそのまま転がり続け、やがて停止した。


……アレで生きてたら、もう人間じゃねえや。




「マギやん、お疲れ」




「気ぃ抜いてんな!【報せ】を受け取った連中がおるんやで!!」




 完全に展開した兜の下からマギやんが叫ぶ。


いや、わかってるけど緊張をほぐそうとだな……これはオレが悪いや。




 地面に転がった背嚢はそのままに、クロスボウをコッキングして左手で保持。


ハンマーを起こした【ジェーン・ドゥ】は右手に。




「応、来るとしたら反対方向からだよな。しっかし、いきなりすぎて証拠もクソもねえや」




「全部終わったら死体剥ぐしかあれへんな」




「だな、なんか出てくりゃいいけどよ……」




 再び横に並び、後ろを振り向く。


その光景はさっきまでのように、何のかわりもない。


ゴロゴロした岩が転がる平原があるだけだ。




 クロスボウをスリングで背中に回し、いつでも撃てるように【ジェーン・ドゥ】だけを持つ。




「残り、4発だ。撃ち切ったら昏倒しちまうから安全に撃てるのは3発だな」




「さっきのクロスボウはよかったで、バッチリ命中しとったなぁ」




「初弾はまぐれ当たりだがよ、まあよかった」




 お互いに視線は前を向いたまま話す。


さて、どっから来る……?


残りが3人ってのも最低人数だからな、オレが見てねえ連中もいるかもしれねえ。


油断は出来ねえな。




 しばらく無言の時間が過ぎ、やがて視界に動きがあった。


オレたちからそう離れていない岩の陰で、何かが動く。




「―――動くんじゃねえ!!出てくるなら武器、捨てて来い!!」




 その岩に照準を合わせ、叫ぶ。


……これで通りすがりの魔物や旅人だったら死ぬほど恥ずかしい。




「関係なかったらスマンけどな!!ウチら今襲われたばっかでピリピリしとんねん!!ただの同業者やったら、こっちからぐるっと距離とって通ってんかー!!!」




 マギやんが補足するように叫ぶ。




「(……とりあえず、魔物やあれへん。鎧の匂いがしよる)」




「(ってことは冒険者か傭兵か。把握した……無関係ならいいが、妙な動きしたら撃つぜ)」




「(にへへ、ウッドの思い切りがようなってウチは嬉しいで)」




 喜んでいいのか悪いのか困る誉め言葉を聞いていると、岩に動きがあった。




「襲われたァ!?盗賊でも出たのかい!?」




 女の声だ。




「まあ、そんなようなモンだ!!ここいらも物騒になったもんだなァ!!」




「災難だねえ!アタシは依頼の帰りだよ!!銀3級のウルドってんだ!!……さすがに武器は捨てられないけど、遠くをすれ違うから通しとくれェ!!」




 マギやんに視線を向ける。




「(聞かん名前やけど、ウチもそこまで詳しいわけやあれへんからな……)ええで~!すまんけど距離は取ってやァ!!」




「はいよォ、了解!!」




 その声の主は返事をして、ゆっくり岩から出てきた。




 皮鎧を着て、背中に弓を背負った……獣人の冒険者だった。


獣人、ねえ。


いや、さすがにそれだけで疑うのは酷ってもんか。




「そんなに警戒しなくっても……まあ、襲われたってんなら無理もないかァ」




 女は肩をすくめると、オレ達から離れた場所をゆっくり歩き出す。


腰だめに構えた【ジェーン・ドゥ】の狙いを、ポンチョに隠してそれに追随させる。




「ほんと、最近物騒だよねェ……そんなに睨まないどくれよォ」




 女は苦笑いし、少しだけ足を速めた。


そして、転がっている死体の方角を見ると頬を歪めた。




「あーあー……イイオトコだったのに、ああなっちゃしまいだねェ」




 ……今、なんて言っ―――






「『 動 く な 』」






 妙な反響音を伴ったその声を聞くなり、オレの体は凍り付いたように動かなくなった。


な、なにが起きやがった……!?




 女はこちらを見て、にやりと微笑んだ。


いかにも性格が悪そうな、底意地の悪い笑みだった。

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