第51話 不穏な空気さんはちょっと空気を読んでくれよ。
「おめでとうございますニャ、ウッドさん!今回の依頼をもって……銅2級へのランクアップですにゃ!」
「……はァ?」
アンファン、冒険者ギルド。
そこのカウンターで、もはや馴染みになりつつあるマチルダにそう言われて……オレは間抜け面を晒すことしかできなかった。
マギやんのトンデモ出自に驚いてから、はや2日。
警戒していたおかわり襲撃もなく、キケロは問題なく帰り道を踏破した。
んで、マギやんと婆さんと連れ立ってギルドへ帰って報告をしている訳なんだが……
あ、キケロはギルドの裏にある馬房で休憩中な。
ともかく、さっきのように言われたわけだ。
「待て待て待て、今なんて言った?」
「おめでとうございますニャ~!マギカさんは銅1級にランクアップですニャ~!」
「おー!やったやん!!」
「待て待て待てってこの猫娘がよ」
マチルダとハイタッチしているマギやん。
そっちもランクアップじゃねえかよ!?
え?そんなにポンポン等級って上がるもんか!?
「当たり前じゃないか、ウッドちゃん」
そんなオレに、婆さんが声をかけてきた。
マジで?護衛ってそんなに美味しい依頼なのか?
「終わっちゃった今だから言うけどね、クラーケンなんてのは駆け出し冒険者がどうこうできる魔物じゃないんだよ。そんなのを倒しちまった冒険者なんだから、ギルドが等級を上げないワケがないじゃないか」
……そっちかァ~~~~!!
いやいや、それにしても情報が伝わるの早すぎじゃねえか!?
ギルド間の通信魔法的なモノがあるんだろうか?
「いやでも、トドメを刺したのはマギやんだしよ……それに上がる数も違うしよ」
有効打は与えてたと思うが、それにしても…‥
オレは5級から2級へ。
マギやんは2級から1級。
計算が合わねえんだが?
「銅5級なんざ駆け出しも駆け出しさね、ランクが上がるのも早いのさ。今回のことがなくっても、この護衛依頼だけでたぶん4級にはなれてるよ」
「せやせや、ウチの銅2級とはスタートラインが違うんやしな」
「ですニャ~」
あー……なるほど?
「ですがこの先は同じようにはいきませんニャ?銅級と銀級の間はそう簡単ではありませんニャ~」
「せやろなあ、鍛冶師の等級も銅と銀でえらい見られ方が違うよってな」
そういうもんなのか?
こちとら地球出身だから何一つわかんねえ。
郷に入っては郷に従うかァ。
「ふーむ、まあ、そんなら……これからも頑張るわ、マチルダちゃん」
「はい!たゆまぬ練達を期待させていただきますニャ~!」
オレのやる気のない返答に、マチルダは輝くような笑顔で答えた。
光る八重歯が眩しいぜ……
・・☆・・
「それじゃ、今回は世話になったねえ……『贈り物』が捌けたらギルドの口座に入れとくよ。無駄遣いすんじゃないよ?」
「お、おう……」
「ウッドウッド、やっぱもう半分くらいウチが持とか?」
「い、いらねえ……これはオレの、意地だァ……」
そして、ギルドでの話は終わって馬房の前。
オレとマギやんは、家に帰る婆さんとキケロの見送りだ。
……盗賊どもから剥いだ諸々を、荷台から下ろして背負いつつな。
か、肩が……肩が抜けそうだぜ……
「すまないねえ、武具のほうは伝手がなくってさ」
「かめへんかめへん、ウチが捌けるさかい」
オレの3倍はある量を背負いつつ、マギやんはニコニコといつも通りだ。
ば、化け物……筋肉の化身……
「いやはや、色々あって疲れたねえ……2人とも、なんか困ったことがあったら相談に来るんだよぉ。家の場所はマギカちゃんが知ってるからねぇ」
「クワッ!クワァ~!」
婆さんはそう言い残すと、キケロに馬車を轢かせて帰って行った。
「ほんならまたな~!」
「婆さんも気を付けろよ~!」
オレ達の声に、婆さんは手を振って答えた。
そのまま、道を曲がって消えていく。
……うーん、なんか長丁場だったなあ。
思えばこの世界に来て、初めての長期出張?みてえなもんか。
疲れるのも当たり前だよなあ。
「……とりあえず、売りに行くか、コイツ。そんで、アテはあんのか?」
とにかくこの殺人的な荷物をとっとと現ナマに変換してえ。
……アレだな、婆さんに店まで運んでもらえばよかったんだ。
店の場所とか知らねえけど。
「あったりまえや!っちゅうかウッドも知っとるとこやで~」
オレも知ってる所ォ?
そんなもん、心当たりがねえけどなあ?
・・☆・・
「随分でけえ規模の盗賊とぶち当たったもんだ……こりゃ、ちょいと査定に時間かかるぜ?」
「かめへんかめへん、どうせあぶく銭や!なーウッド!」
「おう、別に急ぐわけでもねえしな」
ひいこらひいこら荷物を運ぶうちに、見慣れた所へ来た。
オレの知ってる所……つまるところはガモスのおやっさんの店だった。
マギやんは慣れた様子で店に入ると、開いた空間に大荷物をどすんと下ろした。
オレも、すかさずそれに続く。
……はあぁ、肩が外れるところだったぜ。
それで、装備の山を見たおやっさんは目を丸くしている。
「それにしてもよ……おめえらどこまで行ったんだ?最近、こんなに盗賊が出る街道なんてねえぞ?」
「ルドマリンまでの護衛任務の途中でな、なんかそういう季節だったんじゃねえの?」
公爵家云々は話すのをやめておく。
十中八九真実だと思うが、まだ確証はねえし……そんなことまで説明したらマギやんの出自まで話すことになっちまう。
面倒だし、おやっさんまで巻き込むのも……なァ?
「発情期の魔物じゃねえんだぞ盗賊は……まあ、頭の出来は大差ねえけどよ!がははは!!」
「おっちゃんうまいこと言うやん!!その通りやうはははははっ!!!」
異世界盗賊ジョーク?で盛り上がる2人を少し冷めた目で見る。
この世界、マジで盗賊連中に人権とか存在しねえのな。
ま、楽でいいけどよ。
……オレの感想も人でなしジャンルだが、向こうがとっくに人でなしだから別にいいか。
「……しかしルドマリンへの街道筋だって?珍しいこともあるもんだな……いや、あそこらへんは巡回騎士団もそんなに力入れてねえから他所から流れてきやがったのか……?」
おやっさんは自分で勝手に納得しながら、装備の山を掘り返している。
「……マギカよォ、少しは加減してぶっ叩けねえのか?致命的な破損こそねえが、血汚れがひどすぎんだよ」
「そいつは襲ってきたアホに言うてんか~」
「揃って土の下だろ全く……あ?なんだこの傷」
おやっさんは一つの皮鎧を持ち上げた。
あ、それは……【ジェーン・ドゥ】で首を撃ち抜いた奴の遺品だな。
ちょいと襟首が削げている。
「コイツは……なんだ?」
削げたところをおやっさんが指で触っている。
「削げた箇所が均一、皮の溶け方が物理由来じゃねえ……魔法か、いや、魔法具……」
ブツブツ呟くと、やおらオレを見るおやっさん。
「……その妙な魔法具か、この傷は」
「お、よくわかんだな?」
「これでも鍛冶師の端くれだ、それっくらいはな……なんでェ、クロスボウいらねえじゃねえかよ」
おやっさんも目がいいねえ。
「いやいやいや、コイツはよ……使うとそりゃもう疲れるんだ、それこそぶっ倒れちまうくらいにな。おいそれとぶっ放せねえよ」
弾数制限のことまで言うつもりはねえが、この程度は開示しても罰は当たらねえだろ。
むしろ、誤解の噂が広まった方が楽まである。
「なるほどな、確かに溶けたみてえな傷だ。相当の魔力を圧縮して放ってんだろう……中級、いや上級魔法くらい、か?なんにせよ、冒険者なら奥の手の1つや2つは持ってるもんだしな……これ以上は聞かねえよ」
「なんやなんや、ウチには聞いたことすらあれへんのに~」
「おめえのはわかりきってんだよ!見たまんまじゃねえか」
「えへへ、せやった」
マギやん、こことはそれなりに長い付き合いになるんだな。
以前におやっさんは名前を出してなかったが……そういえばあの時はチーム組んでなかったか。
そりゃ、おいそれと個人情報は出さねえな。
……オレの不穏当な噂はそこら中を駆け巡ってたってのによ。
「うし……まあ、急がねえんなら1週間ほどくれや。今ちょっと立て込んでてよ、先約が多いんだ」
「ありゃりゃ、面倒ごとかいな?」
「おめえらが街を離れてた時に、北の遺跡で小規模な【スタンピード】が起きてな。装備の修理やら打ち直しやらで、職人街は景気がいいんだよ」
【スタンピード】?
そういや、前にもギルドで聞いたような気がすんな……後で虎ノ巻ラーニングしとくか。
「あちゃー、そりゃ稼ぎ損ねてもうたなぁウッド」
「なに言ってやがる、これだけの装備剥いどいてよ……向こうはそれなりに大事だったみてえだぞ?なんでもコカトリスの【王】が出たとかで」
こかとりす?
あー……なんかファンタジー小説かゲームで名前を聞いたことがあるような?
どんな魔物か知らねえが、話しぶりからして簡単な相手じゃなさそうだ。
「コカトリス!近接職の天敵やんか!ウチ、アイツ好かんわ~」
「そりゃあ好きな奴はいねえわな、がはは」
マギやん達が話すのを聞きながら、オレは店内を見るともなく見ている。
しっかし、マジで色んな武器があるもんだなあ。
なんだあの剣、まるでデッカイ鉄板だぜ。
あんなもん振り回せる時点でバケモンだなあ……
「結局ラーラシア教会の僧侶隊がしこたま魔法ぶち込んで倒したって話だけどよ、冒険者の何人かは今も療法院さ」
「うへ~……石化の解毒は時間も金もかかるからなぁ、駆り出されんで助かったわ」
石化?
なんだ、石に変える魔法か呪いでも使ってくんのかそいつは!?
ひええ、おっかねえ。
クラーケンの方がまだマシってもんだぜ。
……ん?
おやっさんの店から見える、職人街の通り。
そこの路地裏に、人影が見える。
随分小さな姿だが……ありゃあ。
帽子を目深に被り、目線を隠す。
そして、いかにも入口横の棚を物色しているようにしながら……視線を横へ。
「(……銀級冒険者が真昼間からストーカーかよ、世も末だねェ)」
そこには、以前に喧嘩を売った異臭ドワーフらしき姿があった。
たしか、オーガイ、だったか?
ひょっとして、マギやんをつけてんのか?
うへぇ、素直に気色悪ィ。
その執念を少しは身だしなみに向けろってんだ。
「……だよなぁ、帰って来ても面倒ごとが消えたわけじゃねえもんなァ」
「ん~どないしたウッド~?」
「んにゃ、腹減ったなあって」
「あはは、ウチもや!この後飯食いに行こか~!」
「おう」
マギやんに振り返って答え、再び視線を送るとそこにはもう誰もいなかった。
……さてさて、アイツはマジでマギやんに惚れてんのか。
それとも、例の公爵サマの雇われかねェ?
わからねえことばっかりだ。
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