第39話 チーム結成、それと異世界サウナ最高。

「それでねえ、申し訳ないんだけど2日ばかり滞在することになりそうなんだよ。もちろん、こっちの都合だから宿代と食事代は持つよ」




「全然かめへんで、ばーちゃん!……かめへんよな、ウッド?」




「おう、反対する理由はねえな」




 マギやんと久々の魚介類に舌鼓を打った後、宿へ移動した。


【潮騒の女神亭】という年季の入った宿だが、婆さんが言っていたように内装は落ち着いていて居心地はすこぶるいい。




 で、今はその1階にある談話スペース?みたいな場所で婆さんと合流した。


婆さんが言うには、思っていたより薬の需要が大きかったらしくって滞在時間が伸びるとのこと。


あの牙の生えた鮭モドキが大暴れでもしてんのかな?




「そうかいそうかい、それはよかった……それじゃ、アタシはこれから薬の調合に行くからね。2人は旅の疲れを癒しな」




「婆さんこそ、疲れてるだろうに大変だな」




「なーに、2人のお陰でなんともないさね。それじゃあね」




 そう言うと、婆さんは宿から出て行った。


……この街の薬局か病院的な所に行くのかね?




「……今日の所はサッパリして寝てえな。この宿に風呂……はなさそうだから、探しに行くかね」




「あ!そんならウチも行くで~。せやせや、そん前にあの盗賊どもの戦利品、売りに行こか」




 戦利品?


ありゃあ、アンファンで捌くんじゃねえのか?




「ウチがボッコボコにした金属鎧だけや、荷物になるし地金で使うだけやからどこの街で売っても変わらへんで」




「ほーん、そういうもんか。ならキケロのためにもちょいと荷を軽くしてやろうかね」




 風呂の前にもうひと汗かくかァ。


ごきごきと首を鳴らし、椅子から立ち上がった。






・・☆・・






「ま、こんなモンやろ」




「相場相応ってやつか」




 宿の厩舎に停まっていた馬車から金属系のものだけを下ろし、2人して担いで鍛冶屋へ行った。


置いたままの積み荷が気になったが、マギやん曰く『防犯対策は万全やし、ばーちゃん紹介の宿や。そないに無体な真似せえへんやろ』とのことだった。


確かに、あれだけ街から歓迎されてる婆さんの関係者だしな、オレたち。


心配はいらねえか。




 まあとにかく、ドワーフの男が経営している鍛冶屋にブツを持ち込んだ。


マギやんが言った通り、鎧としちゃグッチャグチャで使い物にならんらしい。


というわけで、値段としては……まあ、それなりだった。




「本命はアンファンの分やしな。手間賃としちゃ上出来やで……本当はな~……あの剣がな~……」




 マギやんが頭を抱えている。


剣ってのは例の公爵家の紋が刻んであったやつだ。


付いてる加護がかなりのいいモンらしく、1本で金貨1枚は固いらしい。




 金貨1枚……1枚かあ……


そう聞いちまうとオレもぐらッときちまうが、ブツがブツだけになァ……


触らぬなんとやらに祟りなしだ。




 ちなみに剣はあの晩、マギやんが渋い顔をしながらまとめて叩いてボール状にして埋めた。


そこまで破壊しちまえば再利用はできねえらしい。




「やべえモンには関わらねえに越したことはねえだろ。風呂入ってサッパリしようぜ」




「せやな~……『竜の巣穴で踊るな』っちゅうしなあ」




 異世界ことわざかね?


どこの世界でもだいたい考えることは同じってか。




 元気を取り戻したマギやんが、オレを見る。




「ウッドウッドぉ、ウチら、これからどないしょ?」




「……?風呂入りに行くんじゃねぇのか?」




 物忘れが激しいな?




「ちゃう!この先!この依頼が終わってアンファンに戻った後のことや!!」




「いっで!?!?だからドワーフ肩パンはやめろォ!?!?」




 話を省略するほうが悪いんじゃねえかよ!?




「戻った後ォ……?おーん、そうだなァ……」




 歩きながら考え込む。


この先、この先ね……ふむ。




「とりあえずよ、この国から出なけりゃ冒険者の等級ってのはどこでも変わんねぇんだよな?」




「せやなあ、この国周辺なら冒険者カードは使えるし、等級の扱いも変わらんけど……ランクはその等級の初めに戻るしな」




 ってことは、今この国から出てったらまた銅5級からやり直しってわけか。


いや、今も5級なんだけどよ。


それでも稼いだ評価がゼロになるってのは嫌だねえ。




「うーん……とりあえずこの国で銀級になりてえな。その後は、周辺国をぶらつくのも悪かねえ」




 どうせ、大した目的なんざないんだ。


当面はウインチェスターちゃんのために頑張るくらいしかな。




「ウッドウッド、『ウチら』っちゅうたやろ!」




 考え込んでいると、マギやんが小刻みにジャンプしている。


馬鹿力な癖にムーブは子供なんだもんよ。


なんか笑える。




 弾んでる胸には笑えねえが。


なんだその弾力の暴力。


目のやり場に超困る。




「あー……オレとしちゃ、居心地もいいし……とりあえずこの国にいる間はマギやんと組みてえんだけどよ」




 経験豊富だし、なによりこの世界の住人だ。


それに話は分かるし、面白ぇ。


……あと、巨乳だし。




 組まねえ理由はないだろう?




「『とりあえず』ゥ?」




 が、マギやんは何か気に入らんらしい。




「そりゃま、マギやんがオレに愛想尽かしたらそれより早くに解散することになっちまうかもな。あー……あとまたゲロぶちまけられたらオレも考えるな」




「それは言うたらアカン約束やァ!!」




「だから肩パンはやめろォ!!!!」




 ……まあ、この分なら嫌われてはいねえな。


オレの何が気に入ったかしらねえが、精々捨てられねえように頑張るか。




「……ま、とにかくだ」




「あん?」




 右手を差し出す。




「これからもよろしくな、マギやん」




 そう言うと、マギやんは嬉しそうに笑った後……右手を見て首を傾げている。


あ、やべえ。


この世界って握手の文化ねえのか?


それとも帝国にないだけか?




「これはよ、オレの故郷の承諾の合図だ。こうしてな、握りこぶしをコツンとぶつけるんだよ」




 握手がない文化圏で、異性と手を握り合うってのは抵抗がありそうだしな。


急遽拳をぶつける方法へシフトしといた。




 考えてみりゃ肩パンとか抱き着かれたりしてるけどな。


ま、いいさ。




「おー!そういうことかいな!南の方は変わっとんなあ……ほな!」




 オレの拳に、マギやんの拳がぶつかる。


空気を読んで手甲を外してくれて助かったぜ。


指が大ダメージを受けちまう。






「改めてよろしゅうな!ミディアノのウエストウッド!!」




「はいよ、よろしくな……ゲバルニアのマギカ」






 港町の往来で、オレたちは仮チームの『仮』をとったのだった。


……周り中むっちゃ見てくるな、恥ずかしくって死にそうだ。






・・☆・・






「ふいぃい~……蒸し風呂なのは予想外だったが、コイツはコイツで乙なモンだ」




 マギやんと連れ立ってやってきた公衆浴場で、オレは気持ちよく汗をかいている。


アンファンのは銭湯タイプだったが、こっちはサウナスタイルだ。


もちろん、男女別な。


そこは江戸時代とかを見習って混浴にして欲しかったぜ。




 ここは地球のサウナ室みてえなところで汗をかき、別の部屋で湯を使って体を拭くような造りになっている。


地球でも仕事帰りによく行ったっけなァ。


大浴場がないのは残念だが、贅沢は言うまい。




 まだ時間は夕方にさしかかったばかりなので、学校の教室程の空間に客はオレ1人。


貸し切りだぜ、たまんねえ。


地球のサウナよりも温度は低めだが、その分長くくつろげるってもんだ。




「異世界サウナ、最高……っと」




 行儀悪く寝転がり、虎ノ巻を開く。


この本、水につけようが火にくべようが傷一つ付かないらしい。


この前モンコから筆談で教えてもらったんだ。




 最近は単独行動が少なかったから、ここらへんでじっくり筆談でもしておこうかと思ってな。


こいつを開いている時には向こうからも認識できるらしいが、別に裸を見られて恥ずかしがるような年でもねえしよ。




「てなわけで、なんとかやってるぜ。そっちはどうだい?」




 白紙のページに問いかけると、すぐさま文字が浮かび上がってきた。




『こっちも似たようなもんだ。おっと、そういえばエリクシアがキレ散らかしながらこっちで暴れ回ってるぜ……マジで笑えてしょうがねえ』




「うははは!ざまあみやがれ貧乳がよ!!」




 その光景を見れねえのが残念この上ねえ。


想像するだけで胸がスカッとするけどよ。




『こっちの欺瞞工作が功を奏してな、お前さんが南に行ったって思い込んでるぜ。さっそく怒り心頭で例の小僧を遣わしてたな、ご愁傷様ってやつだ』




 あー……ハーレムくんよ、安らかに眠れ。


残念でもねえし悲しくもねえな。




『俺らの協定のギリギリ攻めた、ほぼチート級の加護てんこ盛りでな。まあ、あの分ならすぐに死ぬこたないだろう』




「そんだけの加護積んでその評価なのかよ、マジで南は魔境だな……絶対行きたくねえ。あ、連れの嬢ちゃん2人も一緒ならそこは可哀そうだなァ」




 優等生の方はそんなに面識はねえが、ギャルの方は仕事中に結構喋ることも多かったし。


アホだけど性格は悪くなかったからな……明らかに授業サボってるタイミングもあったけどよ。


しかしまあ、2人して男の趣味だけが悪かったんだよなあ……あんなのに引っかかっちまうなんざ、可哀そうだねえ。




『やっべ、言ってなかったな。連れの2人はこっちの陣営でドサマギに攫ったんだわ……エリクシアが気にかけてたのは男だけだったしな』




「おー、そいつはよかった……」




 少しばかりの悔いが消滅したぜ。


どこに行ったかはわからんが、せめて幸せになっててほしいもんだ。


あんな人間未満の〇ンコ野郎のことなんざ忘れてな。




『いつかはそっちでも会うかもしれねえが、まああの2人なら大丈夫だろ』




「つってもオレの外見も変わってるしな、会ったとしても気付かんだろうさ」




 すっかりガンマンスタイルになっちまったしな。


まあ、ガンマンならそれはそれで地球出身には目立つだろうが……先祖がアメリカ人だってことにしとくかね。




「ちなみにあの子らはどこら辺に行ったんだ?」




『あー知らん、知り合いから聞いてないからな』




 そんなアバウトでいいのかよ……まあ、オレもそこまで気になるわけじゃないんだがな。


近所なら近付いた時に教えてくれるだろうし。




『そんなことより、お前さんの周りもなかなか波乱に富んできたじゃねえか。こっちでも人気だぜ?』




「おいおいおい、人気ってどういうこったよ」




 オレの行動が筒抜けになってるのはわかるが、なんで他の神サマ連中に認識されてんだ?




『地球で言う所の切り抜き配信みてえなことしてるからな。俺たちゃ基本的に下界に接触できねえ上におもしれえ事はだいたい好きだからな……言ってみりゃ娯楽に飢えてんのよ』




 ……オレの四苦八苦、配信されてたのかよ。


低評価がかさむと人生削除とかになんねえよなぁ?




『こっちで編集してっからプライベートな所は出してねえぞ。事後承諾で悪ぃな』




「いや別に、そこは命の恩人だから気にしちゃいねえんだがよ……」




 あそこで死んでるハズだったんだ。


それくらいなら別に何とも思わねえ。




『言い訳しながら狙撃で村娘を助けるとこなんか、再生数が凄くってなあ』




「神サマ版のSNSでもあんのかよ、おい」




 再生数……急に人間染みてきやがったな。


まあ、オレとは何の関係もねえからいいけど。




「……じゃあ、オレはこのまま好きにやりゃいいんだな?」




『おうよ、思う存分やってくんな。これからも面白くなりそうだって評判だぜ?ドワーフのねえちゃんも鍛冶神関係が気にしてるしな……しっかり守ってやんな』




 神サマネットワークって意外に気軽なんだなあ。


そういうことなら、別にいいか。




「……腕っぷしはオレよかつええお仲間だけどな。理不尽に晒された女を見捨てるほど、クズなつもりはねえよ」




『いいねぇ決まった!今のとこ編集して流していいか?』




「息子丸出しだから絶対にやめてくれ」




 久方ぶりの筆談をかわしつつ、サウナを大いに満喫した。


あやうくのぼせるところだったぜ……

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