第27話 パーティプレイも意外と楽しいし、なにより楽。
「マギやん、おはよう」
「おー!おはようさん、ウッド!」
3人組の襲撃から一夜明け、早朝の冒険者ギルド。
柄にもなく早起きをしたオレは、その入り口でマギやんにバッタリ会った。
「アンタも早いなあ。昨日の今日でまーた稼ぐ気ぃ?」
「あーいや、違う。ここにくればマギやんと落ち合えると思ったんでな……飲みの約束は夕方だが、どうしても早く会いたくってよ」
そう言うと、何故かマギやんは顔を赤くしてクネクネし出した。
「あーん、そないにウチのことが恋しかったんかあ?ウチ、罪なオンナやなあ……」
「……あのなあ、そんなに色気のある話なら、こうまで人目のある場所じゃしねえっての」
からかっているのか、それとも本気か。
関西人気質は読みにくいったらねえぜ。
「……ま、とにかくちょいと中まで来てくれねえか」
「ほーん、マジメな話みたいやな。よっしゃよっしゃ」
オレの表情を見て、冗談事じゃねえと判断してくれたらしい。
マギやんと連れ立ってギルドに入る。
人だかりでにぎわう掲示板の反対側。
そこの壁際まで移動すると、話を始める。
「昨日のことなんだがな。オレを生餌にしようとした連中……覚えてるか?」
「あー、あの三下パーティかいな。おう、覚えとるで」
「……多分あの連中だと思うんだが、夜に街中で襲われかけたんだ」
自慢じゃねえが、オレは声を覚えるのは大得意だ。
社会人時代の数少ない特技なんだ。
悲鳴を聞いたから、間違いはないと思うんだが……
「だからマギやんも気を付けるように言いたくってな。オレたちは組んで長を倒したからよ、そっちも余計な逆恨みされるかもしれねえからな」
金玉を蹴り上げたことは一切後悔してねえが、マギやんに迷惑かけちゃな……
オレ1人が標的ならいいんだがよ。
「あー……せやったら、もしかしてアレかいな?」
マギやんが苦笑いで頬をかいている。
一体どうしたってんだ?
「ん?何か気になることでもあんのかい?」
「んやあ……それなんやけども」
少し頬を染め、マギやんは恥ずかしそうに口を開いた。
「昨日なー?いい気分で酔っぱらって歩いとったら……急に男2人に路地裏に引きずり込まれそうになってもうてな……」
おいおいおい、えらいことじゃねえかよ!?
アイツら、マジで昨日のうちにマギやんの方にも行ってたのか!?
「―――腹立ったからボッコボコにして、ダメ押しに股間にハンマー叩き込んだった♪」
……体感気温が一気に氷点下まで下がっちまった。
思わず股間を抑えそうになるのを耐える。
あ、あのデカいハンマーを股間に……?
オレに撃たれるよか、もっと地獄だったんじゃねえかな……
「ま、まあそれはいいとしてもよ……マギやんは無事だったのか?」
「せやで~。そいつらが倒れて痙攣し始めたんで、とっとと宿まで帰ったわ。捕まえて衛兵に突き出すんも面倒くさかったしな♪」
「そうか……何もなくってよかったぜ、本当に」
強姦未遂野郎の金玉がどうなろうが知ったこっちゃねえが、そこだけはよかった。
オレを襲おうとしたアイツらと同一人物かどうかはわからねえが、よくよく考えりゃ近接戦の腕はオレよりもマギやんの方が大分上だもんな。
心配するだけ無駄かあ。
「っていうか今更なんだがよ、街中で襲われた時にボコボコにしても大丈夫なんかこの国は?」
日本なら、いくら相手が先に手を出してきたって過剰防衛になる可能性がある。
オレは威嚇だけで済んだが、マギやんは明らかにやり過ぎの部類だ。
いや、オレ個人としてはぶち殺しても何の問題もないと思うんだが……社会通念上はね?色々不味いんじゃねえのか?
「ん~……せやなあ、喧嘩くらいだったら衛兵も何も言わんと思うで。特に冒険者同士やったら両成敗やな……相手が貴族とかやと色々ややこしゅうなるやろけど、まあ、それも事件にでもなったらしっかり魔法で調べられるさかいな」
「へえ、捜査の魔法なんてもんがあんのか?」
「ウチもそないに詳しくないねんけど、精霊魔法っちゅうのがあってな。その使い手なら風やら大地の精霊に聞き取りができるらしいんや、その2つは基本的にどこにでもおるからな」
「はえ~……」
精霊ときたよ。
なるほどなあ、風や地面相手に捜査すんのか。
ある意味地球より進んでるな。
「それにな、そないな面倒なんは基本的に街の中だけや。外とかダンジョンの中のことやったら、だーれも調べへんし事故で処理されるで」
「殺伐としてんなあ」
「冒険者なんてどこでもそんなもんやろ?」
「言われてみりゃ、確かにそうか」
人の生き死にがシンプルな世界だなあ……
しかし、やっぱりダンジョンなんてのもあんのか。
ってことは宝探しとか装備掘りとか……そういうのもあんだろうな、ちょいとワクワクすんぜ。
……まあ、ゲームと違って命は1つだからな、慎重に行かねえと。
生き返りの魔法とかもあんだろうか?
「……まあ、面倒ごとは片付いた……のか?」
「ウチがのした連中が昨日のガキ共やとして、さっすがに割に合わんことはわかりそうなモンやけどなあ?あの報酬はギルドに預けてもうたし……ウッドもやろ?」
「ああ、さすがに持って歩くにゃ重すぎらあ。何かデカい買い物をする予定もねえしな」
一般的な損得勘定さえできりゃ、オレたちにもう手は出してこねえと思うんだが……どこの世界にもすっげえ馬鹿ってのはいるからなあ。
ここより民度が高い地球ですらたまーにそういう手合いがいたし、ここならもっと多いだろう。
用心してもし過ぎることはねえか。
しばらく周囲に気を遣おうかねえ。
「んで、ウッドは今日どないするんや?ウチは夜までに済むくらいのかるーい依頼でもと思ってきたんやけど」
「あー……オレも近場でなんか探そうかね」
銅級から銀級へのランクアップは今までみたいにトントン拍子ってわけにゃいかねえだろうしな。
コツコツ地道にやるしかねえか。
「今からやと護衛や討伐あたりの実入りのええ依頼は……ホレ、あの通りや」
マギやんが示す通り、掲示板はすっかり空きが目立つ。
朝一で来た連中がすっかりさらって行ったらしいや。
「薬草採取の依頼でも探すかね……」
「せやったらどうや、一緒に行かへんか?どーせ夜には合流するんやし、丁度ええやろ?」
ふむ、コイツは嬉しいお誘いだな。
マギやんがいれば近距離の魔物に対応しやすい。
逆にオレは、ハンマーの届かない距離に対応できる。
即席パーティとしちゃ上出来だろ。
「だな。それじゃ適当な依頼を見繕っちまうか」
「よっしゃ!ほんなら、ほどほどに稼ぐで~!」
のしのしと掲示板に向かって歩き始めるマギやんを、追いかけることにした。
冒険者の先輩の仕事っぷりを拝むチャンスだ、ありがてえ。
ついでに、例のガキどもについて再報告だ。
いやがらせ程度にはなるだろうかねえ?
・・☆・・
「……ニャるほど、ニャるほど。……お2人とも、その件はギルドに任せてもらえませんかニャ?」
受注ついでに、マチルダちゃんに昨日のアレについて報告した。
オレらの話を聞くなり、その猫目は爛々と輝いている。
……実家で飼ってたネコそっくりだ。
ネズミやらゴキブリに飛びかかる直前の目付きだぜ。
「ウチはええで~、ウッドは?」
「面倒くせえから丸投げする。そうまで言うってこたぁ、それなりに対応してくれるんだろうしな」
オレがそういうと、マチルダちゃんはにっこりと完璧な受付嬢スマイルを見せた。
見せたが、目が笑ってねえ。
「―――ええ、何から何まで、当ギルドへお任せを」
……オレに撃たれた方が本当に幸せだったかもなァ、あいつら。
ま、知ったこっちゃねえけどよ。
・・☆・・
「あったで~、ほいっと」
「ん、コイツで20個目だあな。2人だと作業も捗るねェ」
マギやんが引き抜いて土を払った薬草。
そいつをオレが受け取り、背嚢へ入れる。
すっかり流れ作業だな。
「こないに街から近い所に群生しとるとは思わへんかったわ!めっけもんやな~、絶滅させる勢いで抜いてくで~!」
その言葉通り、オレの視線の先には城壁がうっすら見える。
近場でこれだけ見つかるとは思わなかったぜ。
「そういや、これは何の薬になんだっけか。ええと、『ジャック草』だったか」
今回の依頼品はいつものように日本人っぽくはない、欧米めいた名前の薬草だ。
「……なんやったっけ?医療院に収めるモンやから、ウチらみたいな冒険者には縁遠いっちゅうことだけは確かやな」
「医療院?」
「おー、ハジェド教が運営しとる貧民相手の施設や。貧民相手っちゅうてもハジェド教が仕切っとるからな、報酬も美味いんやで」
……まあ、病院か。
ハジェド教ってのは……規模がそこそこデカい宗教団体だったはずだ。
虎ノ巻で流し読みした程度だから確証はねえが。
「ハジェド教ってな、なんだっけ。オレの故郷じゃ一般的じゃなかったもんでな」
「ほーん、そうなんか。まあ、ウチの地元でもそうやったけどな……ハジェド教っちゅうのは、裁きの神ハジェド様の信徒が運営しとる団体やで」
裁きの神、ねえ。
裁判所にある目隠しした女神サマを思い出すなァ。
「ちなみに帝国やと、鍛冶神ジャマイン様のジャマイン教が盛んやったで」
「まあ、だろうな……ミディアノじゃあ龍神信仰が盛り上がってたなあ」
例によって虎ノ巻情報である。
ま、それを拗らせて王が竜を異世界から呼ぼうとして滅んだんだけどな。
一体全体竜をワンサカ呼び出して何する気だったのかねえ、王サマ。
大陸に覇を唱えるつもりだったのか?
……今となっちゃ、全て夢幻の如くなり、ってやつだが。
巻き込まれた国民にとっちゃ笑い話にもならねえな。
「南の連中は物騒やなあ……海泳いで【殺戮区域】にでも行けばええのになあ?」
「お?海経由ならいけんのか?」
がっつり封印してあるんじゃねえの?
そんなら反対に、あっちから出てくる連中もいんじゃねえのか?
「んはは、入るのは簡単らしいけどな?入ったら最後、出られへんようになっとるらしいで~」
「魚とりの沈め罠みてえだな……」
この大陸じゃ物足りねえようなネジの外れた奴はご自由にお行きください、ってことか?
オレは一生行くことはねえだろうけどな。
「ま、戦争がしたいヤツらはさせとったらええんや!ウチは面白おかしく生きていけたらええ!」
「だな、オレもだよ」
精々戦争〇チガイ同士で殺し合ってろってんだ。
……そういえば例のハーレム君はそこに送られてんだったな。
ま、同情だけはしてやるぜ。
同情だけは。
そういや、連れのねえちゃん2人はどうなったんだろうな?
同じところに送られてたらさすがに可哀そうだが……オレにゃあどうもできねえ。
あの2人は特に憎くもねえし、それなりに幸せになっててくんねえかな……?
「うっしゃ、まだまだ稼ぐで~!なんたって1株銀貨1枚やからな!」
「おう、金はあるに越したことねえしな」
世間話を切り上げ、オレたちは再び薬草採集に精を出すことにした。
稼いでタリスマンとかそこら辺を買わねえとだしな。
騎士団からの賠償金も長の賞金もあるが、それこそ金はいくらあっても困るもんじゃねえ。
「あ、そうだマギやん。今度タリスマン買うからいい店紹介してくれよ」
「ウチに任しとき~、ええとこ教えたるわ!」
ほんと、マギやんと知り合えてよかったなあ。
持つべきものは性格のいい先輩ってやつだ。
……年の方はどうかわからんがな。
どう見ても中高生にしか見えねえ。
巨乳だけど。
「……ぬ。ウッド、武器用意しとき……なんか来るで、たぶん魔物や」
それから薬草をまた20株ほど採集した頃、マギやんが不意に呟いた。
マジかよ……今日はドンパチなしに帰れると思ったんだけどなあ。
「おう、了解」
背嚢の口を閉めつつ、オレはクロスボウの弦を張ることにした。
・・☆・・
どこか。
「……どうされますか」
「……いらねえな、アイツら。今まで苦情も結構たまってんだろ?」
「はい、決定的な証拠はありませんが、可能性は高いかと」
「……馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、こうまで馬鹿だと救いようがねえ。……精霊師殿に連絡してくれ、そいつで裏取ってクロなら……そうだなあ、【テグロス遺跡】の掃除人にしちまうか」
「除名よりもそちらの方が効果的かと。では、そのように手配します」
「……キャンキャン吠えてるだけなら、見逃してやったんだがなぁ……ちょいと跳ね過ぎだ。見かけ上は栄転だし、文句もねえだろ」
「ええ、現状では最速のランクアップも可能ですので」
「生きてりゃあ、な」
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