第28話  ジェット付きのハンマーってオトコノコだよな。

「……気のせいやあらへんな、風上から気配や。この位置取りからして、人間か知恵のある魔物の線は消えたで」




「臭いで即気付かれるもんなあ、知恵があればやらねえか」




 マギやんがリズミカルに鎧の各部を叩くと、液体金属が蠢いて体を覆う。


続いて首筋に触れると、ネックレスが展開して兜になった。


……かっこいいよなあ、それ。




「了解っと。マギやん、オレは基本的にクロスボウで援護するぜ……魔法具の方は弾数制限があってな、虎の子だ」




「がってんや!……せやけど、そないに大事なことウチに教えてええんか?」




 背負ったハンマーを両手で構えつつ、マギやんが聞いてくる。




「命を預ける相手にあんまり不義理はできねえからな。頼りにしてるぜ」




 【ジェーン・ドゥ】の弾数制限くらい、別に教えてもいいだろう。


厳密に何発撃ったら空かはさすがに言わねえが。




「なんやなんや、えらい好待遇やな。ウチも好かれたもんや……にしし」




 がきん、と音がしてマギやんのハンマーが変形する。


一瞬後、ジェットエンジンの暖機運転のような高音が断続的に響き始めた。


正直すっげえカッコいい。


ドワーフ最高。




「ウチの得物、【ダイレオン】言うねん。『吠えるモノ』っちゅう意味やねんけどな……ケツから魔力の炎を噴射して、ヘッドを加速させるんや」




 ジェット付きのハンマーか。


つくづくロマンを感じる代物だぜ。




「長をやった時みてえに爆発もすんだろ?」




「あれが、この子の虎の子や。アレやるともう一度起動し直しやからね、短時間に何回もできへんねん……普通は加速させてぶん殴るんや」




 なんとも豪快なこって。


分かりやすい破壊力だな。




 ……しかし、弱点含めて教えてくれんのは、さっきのお返しかねえ?


だとしたら、それなりに信頼されてんだな、オレも。




 何もない草原を睨むことしばし。


……背の高い木もねえから見通しはいい。


その上で何も見えねえってことは……




「地下だな!」




「おいでなすったでえ!!援護よろしゅう!」




 オレたちが口を開くのと、ほぼ同時に。


10メーター程先の地面が突然盛り上がった。


数はひいふう……10はありやがるな!




「近いのから潰すさかい!遠いの、頼むでぇ!!」




 炎を上げるハンマーを担ぎ、マギやんが突っ込む。




「がってんだ!」




 オレは装填が済んだクロスボウを構えつつ、腰を落とした。


銃身を左手の上に乗せ、狙撃に備える。




「るううう……!!!」




 走り込んだ勢いをそのままに、マギやんがハンマーを振り上げた。


その振り上げの頂点で、ハンマーの尻に青白い噴射炎が見える。




「どっせいッ!!!!!」




 爆音と共に加速したハンマーヘッドが、残像を残して地面の盛り上がりに突き刺さる。




「ピィギ!?!?!?!?!?」




 今まさに地面から飛び出そうとしていた何かは、土の中でくぐもった悲鳴を上げた。


それとほぼ同時に、巻き上がる土煙に混じって鮮血が飛び散る。


赤い血か、血が出るなら殺せるな。




「柔いやんけ!!こら、楽な相手やッ!!」




 マギやんは早くも次の標的に向かうべく、手の内でハンマーを回転させた。


すると、小規模な爆発が起こってハンマーヘッドは逆再生のように空中へ戻る。




「稼ぐでぇっ!!」




 手近な標的へ走り出すマギやんの奥。


盛り上がった土から頭のようなモノが……見えた!今!!




「―――ッ!!」




 引き金を引き、ボルトが射出される。


適当なクロスヘアしかないクロスボウだが、それでもこの距離なら外さねえ!




「ピギ!?!?!?!?!?」




 真っ直ぐ飛んだボルトは、地面から顔を出した……なんというか超好戦的な顔をしたアルマジロの化け物の眉間に突き刺さった。


うっし!大当たり!!


地球のアルマジロと同じように、頭の上半分は装甲に覆われているが……眉間なら大丈夫そうだな!




「次ィ!!」




 すかさず再装填。


コッキングの感触が頼もしい。




 そのまま銃口を滑らせ、平行に狙いをズラす。


しかる後、射撃。




「ッギ!?!?!?!?」




 うし!新手の右目にドンピシャぁ!!


どんどん行くぜぇ!!




「ギャギャギャギャギャ!!」「ギュギュギュギュ!!」「ギャラララララッ!!!」




 多いんだよクソ!?


一気に出てくんなっての!?




 次々アルマジロが地面から出てくる。


何体かはその瞬間に顔を撃ち抜いて殺しているが、いかんせん数が多い!!




 そうだ、マギやんの方は―――!?




「大物やああああああっ!!往生せいやあああああああああああああああああああっ!!!!」




「ギュン!?!?!?!?!?!?」




 ……今までの3倍くらいデカいアルマジロの土手っ腹に丁度ハンマーをぶち込んでるところだった。


援護は……いらねえな、後続はまだ見えねえ。




「ってことは小物は全部こっちかよっ!?」




 ボスっぽいのを援護することもなく。


何故か通常サイズのアルマジロは俺目がけて突進し始める。




「っこのォ―――嘘だろオイ!?」




 一番手前のアルマジロにボルトを撃つが、なんとそいつはくるっと頭を抱え込んで縦回転。


そのままタイヤよろしく高速で転がり始めた。




 オレの撃ったボルトは、回転する装甲に弾かれて明後日の方向へ。


なんつう出鱈目なイキモンだよ、畜生!!名実ともに畜生めが!!!




「っちぃい……!!」




 クロスボウをコッキング。


このままコイツに撃っても無駄弾になっちまう……なら後ろ!まだ丸まりきってない奴を撃って!!




「ッギャ!?!?!?」




 うし!口から喉だァ!即死ぃ!!


そのまま次弾を装填しつつ―――!!




「意外に早く使うことになっちまったなァッ!!!」




 装填が終わったクロスボウを左手で抱え、ホルスターから【ジェーン・ドゥ】を引き抜く。


そのまま、オレのすぐ近くまで転がってきたアルマジロにサイティング。




「死ねッ!!」




 できるだけ手首にダメージがいかないように、引き金を引く。




「ッギ!?!?!?!」


 


 アルマジロの背中側の装甲が円状に吹き飛び、胴体が2分割。


さすがにコイツは防げねえようだなァ!!




「あむっ」




 痺れる手首から【ジェーン・ドゥ】を放り、グリップを噛む。


同時にクロスボウを右手で持ち、再装填。




「ももむも!!(丸まるな!!)」




 前傾姿勢になりつつある新手に向け、射撃。


頭は無理だが、胴体は……ドンピシャぁ!!


良い所に刺さりやがったぜ!!




 こちとら近接戦闘は力任せの素人だが、射撃に関しちゃそこそこ自信があんだよ!!


ガスガンから実銃まで散々撃ってきたんだぜ!


……狩猟免許は仕事が忙しくって取ってねえけどな!あれ普通の社会人には無理だわ!!


あと散弾銃までのステップが長すぎる!!


ガンロッカーとか周辺地域への聞き取りとか内偵とかも!!


ハンターの減少が社会問題になってんだからそこはもうちょっと融通きかせ……なくていいわ、原付並みにお手軽になったら社会が大惨事になっちまうわ。




 と現実逃避しつつ、クロスボウで照準。




「もむむもむ!!(ホイ追加ァ!!)」「ッギ!?」




 またも丸まろうとした新手の首にボルトが突き刺さった。


よし!これでこっちに来てるやつはあらかた片付いたな!




 マギやんの方は―――!?




「【加速ストーレ】ッ!!!!!!!」




 丁度今まさに、デカいアルマジロの顔を……空中で再加速したハンマーヘッドがぶん殴るところだった。




「ッギャァアアオ!?!?!?」




 顔にまで装甲があるボスアルマジロだったが、ハンマーは『そんなの関係ねえ!!』とばかりに顔面を半壊させている。


うーん、質量兵器って最強だぜ。




 おっとぉ!?




 口に咥えたグリップを吐き出し、空中でキャッチ。


そのままマギやんに叫ぶ。 




「―――マギやん!ソイツもっかいぶん殴ったら伏せろォ!!」




「うっし!うらああああああああっ!!!!」「ッギャ!?」




 マギやんは顔面を通過したハンマーを回転、再度逆方向に加速させた。


左頬を半壊させたボスアルマジロは、すかさず右頬を撃ち抜かれる。




 マギやんはその反動で体を開き、ハンマーに引かれるように背面跳びの体勢へ。




「―――鴨撃ちならぬ、モグラ叩きってやつだッ!!」




 【ジェーン・ドゥ】が吠え、豪快なマズルフラッシュが閃く。




「ッバァア!?!?!?!?!?!?」




 崩れ落ちるボスアルマジロの後方、新手として出現したボスアルマジロ(その2)が、首の付け根に銃弾を喰らう。


銃弾はそのまま首周辺の肉を円状に消滅させ、ボスアルマジロ(その2)の生首は空中へ放り出された。


残った体は、地面から出ようとした体勢のまま豪快に鮮血を噴射し始める。


……よし、アンブッシュは潰したな!!




「ひゅう!相変わらずええ威力やなぁ!!」




 マギやんがハンドスプリングの格好で起き上がる。


なんちゅう背筋してんだ、ドワーフ。


片手でよくもやるぜ。




「どうしたしましてェ!」




 周囲に視線を飛ばす。


……新手の気配、無し!




 だが油断はせず、クロスボウを再装填。


【ジェーン・ドゥ】も持ったままだ。




「新手はあれへん……なっ!!!」「ゲゥ!?!?!?!?!?!?」


 


 起き上がったマギやんは、地面でのたうつボスアルマジロ(その1)の顔面にハンマーを叩きつけた。


駄目押しとばかりに再加速したハンマーヘッドは、ボスアルマジロの後頭部を地面に埋め込む威力を見せた。


手足が大きく痙攣し、すぐにくたりと弛緩する。




「……よっしゃ!これでカンバンやな!」




「おう、お疲れぇ」


 


 オレが撃ち殺したのと、マギやんが叩き殺したの。


その総数は、盛り上がった地面の数と一致する。


……これでおしまい、か?




「なあ、これってなんの魔物なんだ?」




「【アーマーディロイ】っちゅう魔物やな!討伐報酬は1匹につき銀貨3枚や!!」




 へえ、そいつは嬉しい臨時収入だ。




「こっちのデカいの2匹は長っちゅうわけやないけど、装甲を剥いだら別料金やでー!背中が高く売れるんや!」




 首撃ってよかったなあ。


胴体だったら1匹無駄になるとこだったぜ。




「……こっちの普通サイズは?」




「あかーん!そのサイズは買い取ってくれへんのや!普通のは尻尾を切り取ればそれが討伐部位やでー!」




「あいよ、じゃあ剥ぐか」




 クロスボウの弦を緩め、【ジェーン・ドゥ】をホルスターにしまう。


そして【ジャンゴ】を抜いた。




「にへへ、ウッドとおると臨時収入にありつけるなぁ!アンタ、福の神ちゃう?」




「さてね、疫病神にゃあなりたくねえなあ」




 返り血に塗れてもニコニコのマギやんに、オレはとりあえずタオルを投げることにした。

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