第24話 命の恩人はロリ巨乳。

「ふわあ~……食ったし飲んだぁあ……」




「喜んでもらえて何よりだな」




「人助けはするもんやなあ。ウッドと会えてウチ、幸せや~♪」




 マギやんが地面に仰向けになって笑っている。


ウイスキーは流石に強かったのか、少し顔が赤い。




 ……割らずにコップ5杯分くらい飲んだ癖にな。


人間がチューハイ飲んだくらいしか酔ってねえの、恐ろしすぎんだろ。




「……おい、あんまり男にそういう不用意なこと言うもんじゃねえぞ。勘違いさせちまうからな」




 オレが男子中学生じゃなくて命拾いしたな。


ちょいと親切にされるだけで好きになっちまう生き物だからな、男子中学生。




「んふふ~♪なんやジブン、擦れてんなあ?」




「あのなあ、普通の三十路男がウブだったら気持ち悪ぃだけだろうがよ」




「んははは!せやな!せやせや!!」




 マギやんは馬鹿笑いしている。


そうしているとマジで関西のおばちゃんみてえだ。




「うぷ、ちょい食い過ぎてしもたぁ~……鎧が苦しいわ」




 マギやんが鎧の横に付いているボタンを押すと、前面の装甲が一瞬たわんで……


ぼんっ、と開いた。


いや、ぼんっは中身が出た音って……うええええ!?




「(でっか!?!?!?)」




 危うく声に出すところだったぜ……なん、なんなんだ、アレは!?


マギやんの鎧から出てきたのは、そう。


厚手のシャツに包まれた……






 巨 乳 で あ る ! !






 しかもとんでもなくデカい、まさに巨乳だ。


目測身長150センチメートル前後の体には、不釣り合いなほどの巨乳。


マジで、漫画とかアニメでしかお目にかかれないレベルの巨乳だ。


め、メロンが……メロンが2つくっ付いてやがる!?




 ヴァシュカもとんでもねえ巨乳だったが、あの人はかなりの長身だ。


だが……こいつは正に、フィクションの存在だ。


地球じゃ絶対にお目にかかれねえ……!!


ある意味ドラゴンを見た時よりも、異世界を実感している。




「……んあぁ?なんやウッド、いきなり拝んだりして」




「命の恩人に、改めて感謝をしている……オレァ、マギやんと出会えてよかった……本当に、よかった」




「んにゃあ!?あ、アカンでジブン!!女にそういう不用意な発言はアカン!!勘違いしてまうやろォ!?」




 ついさっきと逆の立場になりながらも、オレは拝む姿勢を崩すことができなかった。




 い、異世界……最ッ高!! 




 この出会いに感謝しかねえ……!


命の恩人の上に巨乳、美人ときたもんだ。


脳内ランキングで最上位に位置づけとこう。




「それにしても、腹いっぱいになったら眠くなっちまうな……まだ足はろくに動かねえし、このままだと寝ちまいそうだ」




 さっきから試しちゃいるが、どうにもまだ反応が鈍い。


最初のころに比べりゃマシなんだが、まだ走ったり飛んだりは無理そうだな。


歩くくらいは出来そうだが……




「心配せんでも、ウチは見捨てて帰ったりせえへんで、ウッドは恩人やからな!動けるようになったら一緒に街まで帰ろな!」




「有難くって涙が出ちまうぜ、マギやん……まだ酒飲むか?」




 スキットルにはまだ少しウイスキーモドキが残っている。


満足するにゃあ少ないだろうが、提供はできる。




「……うぐぐぐ、あかん!誘惑すんのやめてーな!もう外では飲まんで!ウチは!」




 意外としっかりしてんなコイツ。


ほろ酔い以上に酩酊する気はないってか。


さすがはこの世界のまっとうな冒険者だぜ。




「ここで会うたのも何かの縁や。ウッドが動けるようになるまで、世間話でもせえへん?ウチ、ミディアノの人間とは初めて会うんや!」




「ふむん……別に構わねえが、一般的な話しかできねえぞ?こちとら二級市民の牧童見習い出身だからな」




「かめへんかめへん!外国の話が聞けるだけでもおもろいやんか!」




 ……嘘経歴で申し訳ねえが、それでも『異世界出身のニホンジンでーす!』なんて言うわけにはいかねえからな。


そうだ、こうしよう。




「だったら、そっちの話も聞きてえな。オレも帝国のドワーフと会うのは初めてなんだ」




「んふー、任しとき!話すのは大の得意や!!」




 そのデカい胸をぽんと叩き、マギやんが笑った。


……やっぱりマジで関西人気質あんじゃねえかな、帝国人とやら。






・・☆・・






「へえ、そんな決まりがあんのなあ」




「まあ半分は形骸化しとるけどな!せやけどウチにとっては渡りに船や!喜んで国を出て……んで、去年ここにたどり着いたっちゅうわけやな!」




 予想通り、マギやんはかなりの話好きだった。


オレの話が1だとすると、間違いなく9はマギやんが話してる。




 まあ、そんなに話が得意じゃねえからこっちとしちゃ助かる。


それにマギやんの話は面白い。


異世界の国の話だから何でも面白いんだが……それでも話し方というか呼吸というか、とにかく話が上手いんだ。


地球にいても漫談で食っていけそうだな。




「随分遠くまで来たもんだなあ」




「何言うとんのや?ウッドの方が倍以上遠いやんけ!」




「ははは、そうだな」




 マギやんの話から、帝国とやらの全貌がうっすら見えてきた。


 




 正式名称は【ゲバルニア帝国】といういかにも強そうなものだった。


大陸のほぼ中央に位置していて、代々ドワーフによって運営されている。


他種族もそれなりに住んでいるそうだが、この国ほどではないらしい。




 んで、マギやんはそこそこデカい工房が実家らしい。


帝国では基本的に男女で就ける仕事に差はないため、実家で見習いとして働いていた。


そして……ちょいと言葉を濁していたが、工房の若いのと何やらトラブルを起こしたらしい。


それで、国を飛び出して今に至る、ということらしい。




 帝国の工房には【漫遊制度】みたいなモノがあるらしい。


いっぱしの職人になるために、諸国を回って修行をし……それなりの年齢になったら国に戻って試験を受ける。


そしてそれで認められれば、晴れて親方となることができるのだという。


通常なら近隣の友好国を回ってお茶を濁すのだが、マギやんの場合はソレを利用して国を出たということらしい。




『帰るつもりは毛頭あれへんけどな!冒険者して、いろんな国回る方がウチには合っとるし!』




 とのことである。


まだ若いだろうに、覚悟が決まってんなあ。


家族仲でも悪かったんだろうか……と思ったので恐る恐る聞いてみることにした。


すると。




『うーん……おとんには生まれてこの方5回くらいしか会ってへんし、おかんたちとはまあ、普通やな……兄弟もぎょーさんいてるんで、そないに仲がいいのは2、3人っちゅうとこかなあ……』




 という、とんでもねえ答えが返ってきた。


おかん『たち』ィ!?


 


 ……帝国はどうやら、一夫多妻制度があるらしい。


全く未知の領域だぜ、そりゃあ……






というわけで、そんな話をするうちに足の感覚が戻って来た。




「お、どうやら足がマトモになってきたっぽいぜ」




「よかったやん!結構早いっちゅうことは、魔法抵抗力が高いんやな!魔法が不得手な人族のわりには珍しいで!」




 ふむ、そうなのか。


でもこれから似たような状況になるのは困りモンだよなあ……何か対抗策とかねえもんか。




「なあ、マギやんよ。なんちゅうかこう……こういうのに対処する道具とかなんか、ねえもんかな?さっきみたいな魔物とカチ会うのは初めてだったんでな」




 せっかくオレより慣れてそうな冒険者と知り合ったんだ。


この機会に聞けるなら聞いといたほうがいいだろう。




「むーん……まあ手っ取り早いんはタリスマンやね。ほい、こんなやつや」




 マギやんが胸元にずぼっと手を突っ込んで、護符っぽいなにかを取り出した。


小さな四角形の鉄板めいたモノに、幾何学的な文様とくすんだ宝石が付いている。


すげえ……もう〇次元ポケットじゃねえかよ。


巨乳ポッケすげえ…… 




「タリスマンか」




「せや、この型は効力がなくなると中心の宝玉が割れるんでわかりやすいで」




 へえ、そりゃ便利だなあ。




「ちなみにそのタリスマンの効果はなんだ?」




「これは【麻痺軽減】やな。ウッドが咆哮喰らった時みたいな攻撃によう効くで……たぶん復帰時間が10分の1くらいになるんやないかなあ、もちろん喰らった時の効果も軽ぅなんで」




 便利すぎるじゃねえかそれ。


街に帰ったら早速探さねえと。




「それに、ウチは鎧にも文様刻んどるからな。アレが直撃しても即動けんようになることはないで」




「はー……流石冒険者だぜ。オレもしっかり考えねえとなあ」




「せやなあ。ウッドは攻撃力に関しては大丈夫やろうけど……防御力関連はソロやんなら至上課題やで」




 うぐぐ。


お気楽に考えすぎてたな。


今回はマギやんがいなかったら完全に死んでたもんな……そうそう幸運は続かねえだろうし、次に外に出る時はしっかり準備しねえとな。


なまじ【ジェーン・ドゥ】や【ジャンゴ】があったから油断しちまった。




「マギやんに会えてほんっとに良かったぜ……酒、いくらでも飲んでいいぜ」




「せやから誘惑せんといてぇな!街に戻ってからにしてぇな!!」




 酒の誘惑はかなりきついらしく、マギやんは半泣きで腕を振り回している。


……これ以上この話題でからかうのはやめとこう。




「すまねえな、ノリがいいもんでついついからかっちまった」




「うう……ウッドのいけずぅ……」




 そんなマギやんを見つつ、ゆっくりと立ち上がろうとしてみる。


……おお!3時間くらい正座した後みたいな痺れだが、なんとかなりそうだ!


これなら歩いてりゃ治るだろう。




「っとぉ!?」




 油断したのが悪かったのか、緩んだガンベルトが地面に落ちた。


そういや、地面転げ回ってたからなあ……じわじわ緩んでいたんだろう。


手を伸ばして取ろうとするが、膝がまだうまく動かねえ。




「あーもう、無理したらアカンやんか~……ウチに任しときぃや」




 それを見たマギやんが、慌てて寄ってきた。


ヨロつくオレの腰を支え、代わりにガンベルトを掴んでくれる。




「ほーん、かなり精巧な加工やな。ミディアノの皮革技術も馬鹿にならんなあ……」




 マギやんはガンベルトをしげしげと眺めている。


……あ!やべえ忘れてた!


【ジェーン・ドゥ】に許可なく触れたら最悪死ぬって! 




「マギやんすまねえ。もし興味があんなら、中身に触っても大丈夫だぜ」




 ……これなら大丈夫か?


命の恩人に神様の呪いが誤爆でもしたら夜も眠れねえ。




「ええのん!?実はめっさ興味あったんよ!このサイズの魔法具であんな威力やねんから!」




「鍛冶屋だからかい?」




「どっちかっちゅうと魔法具にや!ドワーフじゃあ珍しいねんけ……ど……」




 嬉しそうにホルスターの留め金を外したマギやんが、雷に打たれたみてえに動きを止めた。


どうしたんだと見ていたら、ゆっくりゆっくり手を伸ばしてグリップを握る。


……よし、祟りは発生してねえな。




 安堵しつつ見ていると、銃身を引き出したマギやんが【ジェーン・ドゥ】を目の前にかざしている。


さっきまでの饒舌さが嘘のように、口をつぐんでいる。


その目はまるでいっぱしの職人だ。




 しばらく様々な角度から銃を眺めたマギやんは、ため息をついて言葉を絞り出した。






「―――これ、もしかして【リボルバー】言わへん?」






 その言葉に、オレもまた雷に打たれたのだった。

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