第23話 命の恩人は美少女……美女?

「すまねえな、ねえちゃん……」




「かまへんかまへん、にいちゃんはウチの恩人やからな~」




 背負われている。


いや、正確には……さっき助けてくれた鎧のねえちゃんに、荷物のように担がれている。


身長差があるんで、オレの足先は地面にズリズリと痕を残している。


まあ、贅沢は言えねえやな。


まだ足、動かねえんだし。


それにしても兜の金具が腹に当たって地味に痛ェ。






 毛玉2匹をブチ殺してすぐ。


オレたちは、即座にその場を離れようとした……が。


オレの足がうんともすんとも言わなくなった。


力を入れても膝が大爆笑するだけで、全く動かねえ。


マジかよ、この歳で半身不随か……と軽く絶望してたら、




『そりゃしゃあないで、長の【咆哮ハウル】喰らったんや。しばらくは痺れて使い物になれへんやろ……ウチに任しとき!』


 


と、鎧のねえちゃんが担いでくれたってわけだ。


この症状は時間経過で治るらしい……とりあえず安心だ。




 しかしこのねえちゃん、顔も体も鎧で見えねえがたぶんドワーフだろうな。


力が強すぎる。


男1人とバカでかいハンマー背負って小走りできるくらいだもんな。




 ドワーフの女か……たしかロリ巨乳なんだっけか?


……おっといけねえ、世話になった相手に即欲情するほど動物じゃねえぞ、オレァ。






「【抵抗レジスト】とか【治療キュア】使える神官でもおったらええねんけどな。あいにくウチに回復系の魔法や祈祷は無理や」




 担いでいるオレに、ねえちゃんが申し訳なさそうに言った。


いやいや、この上そこまで世話になれねえよ。


ほっときゃ治るんなら万々歳だ。




「気にすんなよ、オレのほうは魔法自体がからっきしだ」




「最後の魔法みたいなんはちゃうんか?大した威力やったけどな」




「ありゃ魔法具だよ、先祖伝来のな」




「ほーん」




 開けた場所に出た。


さっきの森からはもう、大分離れている。




「よっしゃ、周囲に変な気配はあれへんな。ここで休憩しよか」




 ねえちゃんがオレを下ろす。


ふう、久しぶりの地面だぜ。


こうして平和に座っていると、あー生き残れたんだなあ……って実感が湧く。


一歩間違えたら死んでたわけだからなあ。


……あのガキ共、戻ったら覚えてやがれよ。




「せやせや、忘れへんうちにコレ」




 恨みを思い出していると、目の前に何やら血まみれの玉が2つ。


ゴルフボールくらいのそれは、薄い紫色に光っている。




「あん……?」




「長の魔石やんか。にいちゃんの取り分やで~」




 ……長ァ?


ああ、あの毛玉ね。


コボルトのボスみたいなもんだったんか?


しかしねえちゃん、いつの間に取ってたんだ。


手際がいいねェ。




 今は虎ノ巻を開けないからすっとぼけるしかねえな。


しかし、2つだと?




「なあ、2つはおかしかねえか?1匹目はねえちゃんがいねえとオレは死んでた、全取りなんて恥知らずな真似はできねえよ」




 ほかにねえってことは、これで2匹分なんだろ?


さすがに貰えねえや。




「ウチは横槍入れただけやからな~、その後もにいちゃんに助けてもろたんやし。遠慮せんでもええんやで?」




「いーや、駄目だ。こういうのは公平に分配しねえとな」




 石を1つ、ボロ布に包んで背嚢に入れる。


残りには絶対手を出さねえ。




「むう、意外と頑固やなあ……そういうワケやったら、ウチもありがたく……あうぅ」




 きゅるる、と可愛らしい腹の音がした。


はは、ミルを思い出すな。




「そ、そないな顔せんでもええやろ!今日はたまたま飯を忘れてもうたんや!」




 ねえちゃんが両手をブンブン振り回している。


見た目は可愛いが、風を切る音が尋常じゃねえ。


なんで鎧着ててそんな速度で振り回せるんだよ。




「す、すまねえすまねえ……オレも腹が減ったなあ、飯にしようや。命の恩人にゃ、サービスすっからよ」




 どうせ遠慮されそうなんで、即フライパンを取り出して準備を開始する。


……おっと。




「もう1つすまねえんだが、よく考えたら足が動かねえ。ねえちゃん、薪と石を集めてくれねえか?それで飯代の代わりにしようや」




「む、そういうことやったらウチに任しとき!」




 ねえちゃんは即座に行動を開始した。


身のこなしも鮮やかだなあ、冒険者歴は長そうだ。




 さて、今日は何味にしようかね……疲れたからチリビーンズでいいかな。


ピリ辛で気合を注入しようか。






・・☆・・






「んん~♪ええ匂いやなあ!ウチのお腹さん、大合唱や!」




 ぐつぐつと音を立てるフライパンの向こうで、ねえちゃんが左右に揺れている。


楽しみにしてくれるのはいいが、兜のまんま食う気じゃねえよな?




 ……あ、忘れてた。


帽子を取り、顔を晒す。




「すっかり名乗るのが遅れちまったな。銅級冒険者のウエストウッドだ」




 いつまでもにいちゃんねえちゃんじゃ呼びにくいだろう。


少なくとも、オレはこの鎧のねえちゃんを信頼している。


命の恩人だしな。




「あはは!ウチもや!」




 ねえちゃんは笑いながら兜の左右にあるパーツをいじる。


何かが開くような金属音がし、兜は顔の部分から左右にパカリと開き……なんと液体というか水銀みたいになって溶けた。


そして、その液体はねえちゃんの首に巻き付き、無骨なネックレスとなる。




「んな、なんだそれ!かっけえ!!」




「お?にいちゃんセンスええな!この良さがわかるんか!?」




「わからいでか!男の子の浪漫じゃねえかよ!!」




 連発式クロスボウといい、今の兜といい……オレァドワーフが大好きになっちまったぜ!!


あ、クロスボウは違ったか。




「ちょい待ちぃ!オンナノコの浪漫でもあるんやで!少なくともウチのな!!」




 犬歯を見せて笑いながら突っ込んできたねえちゃんは、やはりドワーフっぽかった。




 アンファンで見たドワーフよりも、肌の色が濃い。


兜のせいで汗ばんだ褐色の肌に、綺麗な朱色の短髪が張り付いている。


が、後ろ毛は三つ編みにしてて結構長い。


あの鎧の飾りかと思ってたが、自前だったんだな。


そして吊り気味の大きい目の色は髪と同じような朱色で、キラキラと輝いている。




 ……へえ、想像以上の美少女顔だな。


だが、どう見ても中学生かそこらにしか見えんぞ。




「ん?だないしたんや~そないに目、丸うしてェ?……はっは~ん、さてはウチがどえらい美女やからたまげてんのやな?」




「んまあ、それはそう。正直どんなゴリラが出てきても驚かねえようにと思ってたもんでね」




「っしょ!正直やなジブン!?こないな所でとんだ伊達男に出会ってまったわぁ~♪」




 褒められ慣れてねえのか、ねえちゃんは顔を赤くしてクネクネしている。


『美女』ねえ、そういう年齢なのか?


『美少女』ならわかるんだが……ドワーフの女の年齢が分かりにくいっていろんなところで聞いたが、マジでそうだな。


顔だけだと判別つかねえぞ?




「あーせや!すまんなウエストウッド。ウチは銅級冒険者のマギカや、同業者やし気軽にマギやんでええで~」




「じゃあ、オレもウッドでいいぜマギやん。……しかし驚いたな、あれだけの腕前なんだから銀級以上だとばっかり思ってたぜ」




 いきなりでなれなれしいか……?と一瞬考えたが、当の本人は全く気にした様子はない。


ひょっとして、マジで地球の関西人と同じようなフレンドリーな奴らかもしれんな、帝国人とやら。




「ウチは去年この国に来たばっかやからな~。前までおった国じゃあ工房で働いとったから、ペラペラの新人さんやでえ」




 ふうん。


ねえちゃん……マギやんも新人か。


まあ、そうだよな。


誰も彼も冒険者になるわけじゃねえもんなあ。




「そんなこと言ってたらすっかり出来上がったぜ。食おう食おう」




 固いパンを2つに千切り、片方を投げる。


いつものように直に食いたいが、さすがに相手はミルみてえなガキじゃ……ねえ、よな?


とりあえず、今回は皿を使おう。




「おおきにー!」




 木皿にチリビーンズをなみなみに盛り、渡す。


スキットル経由の水もコップに入れる。


さ、これで完成だ。




「缶詰料理だがあったかいからうめえと思うz」




「うっま!!うっまああああ!!!」




 食うのが早えなあ。


マギやんはたっぷりパンにチリビーンズを付け、大口を開けて頬張っている。




「にゃんやこれ!!ピリっと辛ぉて……!!ゴロゴロの豆が!!うみゃい!!うみゃっ!!!」




 どこぞの猫娘みたいな口調になりながら、マギやんは猛然と飯を食う。


いい食いっぷりだな、ご馳走しがいがあるってもんだ。




「……まだまだあんだから、焦るんじゃねえぞ。なんだったらおかわりもあるからよ」




 口いっぱいにパンを頬張ったマギやんは、コクコクと頷くばかりだ。


ふーむ、粗野に見えてそうじゃねえな。


最低限のマナーはあるみてえだ。


いいとこの子だったんかねえ?


まあいいけど。




「んっぐ!ぷわあ……これで酒でもあったら、天国なんやけどなあ……このピリ辛、絶対エールに合うでぇ」




 口の中のものを水で流し込み、マギやんは呟く。




「おいおい、さすがに野外で飲酒はやめときなよ」




「ふっふーん、ウチらドワーフにとって酒は水みたいなもんや。エール程度なら大樽1個飲んでもホロ酔い程度やからな」




 ……肝臓が8つくらいあんのかこの種族は。




「……マジで飲んでも大丈夫なのか?」




「あったりまえや!……あ、ひょっとしてウッド、酒出そうとしてへん?やめ!今のナシや!!タカリじゃないんやウチは~~~~!!!!」




 妙な事気にしてんな。


これくらいなんとも思わねえよ。




「気にすんなよ、恩人さん。すくねえがどうぞ、だ!」




「うああ~~やめてえな!ウチそんなつもり……なんやこれごっつええ匂いやんけェ!?!?」




 止めるマギやんを無視し、酒用無限スキットルの中身をコップへ無理やり注いだ。


目を白黒させていたマギやんが、匂いを嗅いで動きを止める。




 ちなみに本日の酒用スキットルの中身は某国産ウイスキーっぽい何かだ。


なんか握って想像すると、魔力を使うのかちょいと疲れて中身が充填される。




 昨日寝る前に作っといたんだ、12時越えたら【ジェーン・ドゥ】用に残しとかないとまずいからな。


初めのうちはイメージが適当でとんでもなく不味い酒のような代物が出来上がったもんだが、何度か失敗した今では地球のころとそう変わりない味を完成させることに成功した。




 滅多に飲まねえけどな。


というより、外で酩酊したら死んじまうから飲まねえ。


この世界の危険は野犬どころじゃねえからな。




「んっはぁあ……♡……ウッド、これ、むっちゃ高い酒ちゃう?」




 くんくんと匂いを堪能するマギやん。


なんかちょっと顔がエロイな。


背徳感がすげえ。


対象が酒ってのがどうかと思うが。




「気にしねえで飲んでくんな。おかわりはいくらでもあるぜ」




「……んで、では失礼して……んん!?んんんんんん~~~~~~~~!!!!!!」




 マギやんのリアクションがチリビーンズの時の100倍くらいある。


軽く口を付けた後、飲み込むのが勿体ないとばかりに堪能しているようだ。


利き酒大会かなにか?


細かく振動すんのが笑えるけども。




「……っぷは」




 その一口を飲み込んだ後、マギやんは神妙な顔をしてオレを見た。


かと思えば一瞬にして土下座のような体勢に。


っどど、どうしたいきなり!?




「う、ウチの体で払うさかい!!!その酒全部売ってえな!!!」




「落ち着け馬鹿野郎!?」




 もっと自分を大切にしろォ!?

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