第20話 くれるんならもらっておく!もう返さねえぞ!!

「では、この条件を詰めてよろしいでしょうか?」




「ああ、こちらは全く問題ない。それでお願いしたい」




 あっという間に片が付きそうだなあ。


オレは、蚊帳の外のようなつもりで聞くともなくそれを聞いている。






 ここは、アンファンの冒険者ギルドだ。


あの豪華な居心地の悪い馬車でアンファンまで戻り、到着したその足で騎士団はギルドへ直行した。


そこで受付で指揮官サマが用向きを伝えると、すぐさま奥に通された。


そこにあった階段を昇り、2階にあった会議室的な部屋に案内された。


大きなテーブルと、椅子がいくつか。


のぞき見やなんかを警戒するかのように、窓はどこにもない。


昼間だってのにランプが置いてあった。




 騎士団側は、指揮官サマ。


そしてギルド側は……なんと猫娘が相手だった。


さらにもう1人、見るからに強そうな50くれえのオッサンもいた。


見るのは初めてだが、絶対にギルド長とやらだろう。


刻まれた傷で顔面が世界地図みてえになってる上に、片目は潰れてんのか眼帯をしている。


二の腕なんか、そこら辺の子供の胴体くらいのとんでもねえ太さだ。


身長も2メーターはあるし、迫力がすげェ。




 それからはもうあっという間だ。


猫娘が窓口のような対応をし、オレへの賠償や事の顛末の記録を詰めていった。


オレとギルド長は、この間一言も発していない。


……それでいいのか、ギルド長(推定)




「ギルド長、これを」




 猫娘が書類をオッサンに渡す。


やっぱりギルド長じゃねえか。


っていうか猫娘、ニャが消えてるんだが?


アレか?公的な場では語尾ニャが消し飛ぶのか?




「うむ」




 おっそろしく低く渋い声で、ギルド長が口を開く。


姿と合わせて無茶苦茶強そうだな、おい。


やっぱ冒険者ギルドのトップともなると、腕っぷしも強くねえと駄目なのか?


それとも、冒険者出身なんだろうか。


それこそ金とか白金クラスの。




「第12巡回騎士団は、この度の『不幸な行き違い』に対し……銅級冒険者ウエストウッドに対して、金銭での賠償を行う。これは、被害者本人も十分に納得済みのことであり、この賠償以後、双方に如何なる遺恨もないものとする……これで、よろしいですな?」




「ああ、むしろこの程度の条件での和解、こちらの方が申し訳ない」




 ギルド長の問いかけに、指揮官サマは銀色の髪を揺らして頷いた。




 あ、そうそう。


会議室に入って指揮官サマは兜を脱いだんだが、綺麗な声に負けないとんでもねえ別嬪さんだった。


マジで人形みたいな美人って存在すんだなあ。


軍人なのに、肌は透き通るように白い。


あんなんで戦えるのかねえ……たぶん問題ねえんだろうけどよ。


あんまりにも無機物的な感じでオレは苦手だが、Mッケのある奴にはたまらねえ美人だろうな。


ちなみに胸はわからん。


鎧があるからな。


……別に残念じゃねえぞ。




「ウエストウッド、本当に納得しているか」




 おっと、ギルド長がオレの方に水を向けてきた。


こっちの答えは決まってる。




「ええ、文句はありやせんぜ。これで手打ちをお願いしやす」




 やっぱり、こういう場合は金が一番だ。


誠意とは言葉ではなく金額……とか言ったプロスポーツ選手がいたが、マジで真理。


てか、オレがそれ以外で騎士団から欲しいモノなんてねえしな。


あの姉貴に土下座されても困るし。


まだ腹が立ってるからな、そんなことされたら後頭部を蹴りつけるくらいはするかもしれねえ。


そしたら和解もパーになっちまう。


会わねえのが最上だ。




「では、賠償金については……」




「了解した」




 指揮官サマは懐から紙とキャップ付きのペンのようなモノを取り出し、机の上でなにやらサラサラ書いている。


なんだありゃ、小切手的なモン……なのか?




 そして、書くのが終わると……指を紙面に押し付けた。


すると、紙の上に魔法陣みたいなもんが一瞬光って浮かび、消えた。


紙には複雑な模様を持つ魔法陣が転写されている。


……はー、異世界印鑑魔法?みたいなもんか?


便利だねえ。




「これでお願いする。請求は第12巡回騎士団宛で頼む」




「……確認しました。マチルダ、手続きを」




 書類を確認したギルド長が、猫娘にその紙を渡す。


マチルダって名前だったのか。


ミケとかニャンゴ的な名前かと思いきや、ちゃんとした名前だったんだなあ……猫娘。




「はい。ウエストウッドさん、少しお待ちを」




 マチルダが席を立ち、隣の部屋へ消えていった。


あっちに金庫でもあんのかな?


どうやら賠償金はすぐにもらえるっぽい雰囲気を感じる。


ありがてえ……とっととこんなことは終わらせてえからな。




「……ウエストウッド殿、此度はこのような結果になってしまって、本当に……」




 呆けていると、指揮官サマがまーた頭を下げようとしてやがる。


おっと、もう勘弁してくれよ。




「よしてください、騎士サマ。もう、謝罪は十分すぎるほどいただきましたんで」




 ぶっちゃけこのねえちゃんにいくら謝られても、なあ?


そりゃ、部下の不始末は上司の責任だけどよ……もういいって面倒臭ェ。




「これで綺麗に手打ちが済んだんで。オレァもう何も要求しやせんぜ……だから、この話はオシマイでさあ」




「そうか……うむ、感謝する」




 ここへきて、指揮官サマは初めて安心したように少しだけ微笑んだ。


へえ……美人が笑うと迫力がすげえや。


いいもん見れたなァ。




「お待たせしました」




 隣の部屋からマチルダが帰ってきた。


そして、オレの目の前に革袋が置かれる。


おお、重そうな音。




「ウエストウッドさん、ご確認ください。今回の賠償金、金貨10枚です」




「じゅっ……!?騎士サマ、話が違うでしょう?オレァ5枚程度って言ったハズなんですがねえ」




 なんで二倍になってんだよ。


いらねえ気を遣うんじゃねえよ。




「済まないが、これが私の意地でもある。約束を違えるが、受け取ってほしい」




 と、騎士サマは言うが……オレに選択権、ねえな。


ギルド長たちも口を挟んでこねえあたり、問題になることもなさそうだ。


はあ、もう……いいか。




「……では、金貨10枚確かに受け取りやした。有難く頂戴しやす」




「うむ、感謝する」




 投げやりなオレの返事に、指揮官サマはほっとしたみてえに息を吐いた。


……まったく、オレの言うこと全然聞いてねえじゃねえか。


マジで頑固だな、このねえちゃんはよ。




「……では、これで失礼する。ユークリド殿、お手間を取らせた」




「いえ、我々としても穏便に片が付いて安堵しております。これからも、何卒よろしくお願いいたします」




「是非もない。ウエストウッド殿、これにて」




 指揮官サマは立ち上がって綺麗な礼をし、部屋から出て行った。




「それでは、また」




 という、オレへの言葉を残して。




 ……またァ!?


やだよ、絶対に御免だね。


あんな面倒臭いのは二度と御免だ。


腹に穴も開いたし、完全に騎士団がトラウマになったぞ。




「……ふぅ」




「大した胆力だな、ウエストウッド」




 もう騎士サマに聞かれる心配はないだろうと溜息をついたら、ギルド長が話しかけてきた。




「あの【氷姫】相手に堂々としたもんだったじゃないか。故国では牧童をしてたって?ミディアノの牧場は随分殺伐としてんだな」




 ……さっきと違って、どうにも軽い様子だ。


あっちは仕事モードなのかね?


っていうか、なんでオレの嘘経歴把握してんだよ。


ギルドに出した書類には書いてねえぞ……噂話でも集めてたのか?


この世界のガバナンスガバガバじゃねえかよ……でも、よく考えてみりゃギルド長ってのは社長か。


社長が社員の履歴知ってんのは当たり前……なの、か?




 しかし【氷姫】ねえ……納得。


そんな冷たい感じのねえちゃんだったな。




「……滅相もねえ。国っていうよりも旅の途中で色々修羅場を潜っただけでさ、なにしろ長い旅だったもんでね」




「そういえばそうだったな、こんな北の果てまでよく来たもんだ」




 探るような感じじゃねえ。


タダの世間話……か?




 ―――いや、猫娘の様子が気になる。


どうにもあっちは、オレの様子を逐一観察しているようだ。


なるほどね、まるで警察の尋問だよ。


懐かしいなァ。


二度と経験したくねえけどな。




「そういえばギルド長、金額とか対応とか……アレで問題なかったもんですかねェ?」




「まさか騎士団の賠償金額を『多すぎる』なんていうやつがいるとは思わなかったが、ほぼ完ぺきだ。金額についちゃ、あちらさんが言い出したこったし、貰っときな」




「……できればああいう手合いにゃあ、もう二度と関わり合いになりたくねえですよ。面倒ごとばっかりだ」




 偽りなき本心ってやつをこぼす。


マジで、ゴブリンやら草原狼やらの方がマシだ。


困ったからってぶん殴るわけにはいかねえしよ。




「欲がないってより、鼻が利くんだな、おめえさんはよ。ま、安心しな……これで騎士団とどうこうなるこたあねえよ」




「元より過失は向こうにしかありませんニャ。ウエストウッドさんは堂々としていてくださいニャ、ギルドとしてはこの件ではしごを外すつもりもないですニャ」




 ……猫娘のニャが戻った!?


やっぱ公式?の場ではニャは不適切なのか……?




「……まあ、そういうことでしたら。オレァこれで失礼しても?」




「ああ、そう複雑な話でもなかったしな。今日の所は酒でも飲んで寝ちまいな」




「お手数をおかけしましたニャ。またの依頼受託をお待ちしておりますニャ」




 2人から許可も出たっぽいし、帰るか。


この世界に来てから初の大修羅場だ、酒はともかくぐっすり寝たいぜ。


……あ、でもクロスボウは先に買っちまおう。


この世界にゃ銀行もねえし、大金を持ち歩くのはぞっとしねえ。


とっとと軽くするに限るぜ。




「じゃあこれで。お邪魔しやした」




 テーブルの上の革袋を引っ掴み、オレは部屋からさっさと出て行くことにした。 






・・☆・・




「……行ったか?」「気配はもうないですニャ」




「……大丈夫だろうか?騎士団に悪感情とか……もう持ってねえよな?」




「心配ないですニャ。ウエストウッドさんはとにかく『ことを穏便に修めたい』と望んでらっしゃったようですニャ、【感情読解】の魔法でも表情でも、高い精度でそうと出ていましたニャ」




「……そいつは良かった。騎士団が喧嘩でも売るなら別だが、これ以上のドンパチはねえだろうな」




「ですニャ」




「ふう……たかが従騎士とはいえ、【神鉄】製の鎧をぶち抜く魔法具……んなモンを持ってる冒険者が暴れりゃ、周りは大惨事だ。話の分かるヤツでよかったぜ……」




「彼は誠実な人間……だと、思います?ニャ」




「おい、なんで言い淀んだ」




「あニャニャ……その、胸を見る視線が、その、直球でいやらしいもので……ニャ」




「がはは!誠実かどうかはわかんねえが、男として正常ではあるな!がははは!!」




「あ、あとニャにかその、憐れまれたような視線も……」




「お、おう……」「ギルド長?なんで視線を逸らすんですかニャ?」






・・☆・・






「おーいガモスのおやっさーん、臨時収入があったんでクロスボウ売ってくんなー」




「お!喧嘩売ってきた騎士をぶっ殺して賠償金もぎ取ったんだってな!!おめえやるじゃねえか!!!」




「はああああああああああああああああああああああああああああああ!?」



・・☆・・



おまけ






ギルド受付嬢『マチルダ』




猫獣人。




その胸は貧乳であった。


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