第12話 持つべきものは面倒見がいい先輩、巨乳ならば言うことはなし。

「おめでとうございますニャ、ウエストウッドさん!あなたのこれまでの依頼達成率と、依頼主からの評価を鑑み……当ギルドはあなたを【銅5級】冒険者に任命いたしますニャ!!」




「おー、意外とはええんだな」




「ウエストウッドさんはお仕事も早くて評判もいいですニャ!最速というわけでもないですが、スムーズなランクアップですニャ!」




 ロインから色々とイイ話を聞いてから、はや2週間。


オレは、毎日だいたい2つの依頼を片付けていた。


1個1個は報酬も安いが、チリも積もればなんとやら。


宿代を払っても、少しは貯金ができるくらいには儲けが出ていた。


まあ、装備は壊れねえし食事は缶詰で節約出来てたしな、当然か。




 そして、今日。


下水道掃除の仕事を終えてギルドに帰還したオレは、依頼完了の報告をした時に上記のような嬉しい話を聞いたわけだ。




「これで、晴れてあなたは正式な冒険者と認定されましたニャ!これからも初志を忘れず、冒険者としての練達を期待しますニャ!!」




 ここ最近ですっかり顔なじみになった猫娘の受付嬢。


彼女はそう嬉しそうに言いながら、オレにカードを返してきた。


ん?これは……前のと違うな?




「これが正式な冒険者カードってわけかい」




「はいですニャ!」




 今まではいかにも安っぽそうな紙のカードだったが、これは違う。


全体的に作りが堅実になり、なにより縁取りが銅色になっている。


なるほど、こりゃわかりやすい。




「【銅5級】ってこたぁ、1級までいけば銀になるってことか?」




「ですニャ!ただし、【銀1級】から次の【金級】へのランクアップは違いますニャ」




「へえ?」




 っていうか冒険者のランクってのは金で打ち止めなのか?


まあ、正式な冒険者になったってんなら説明もあるだろう。




「ランクは全部で【仮】【銅】【銀】【金】……そして【白金】ですニャ!」




 なるほど、硬貨と同じってことか。




「【金級冒険者】は言ってみればギルドの顔ですニャ!ただ漫然と依頼をこなすだけではずっと銀級のままですニャ!依頼の成功率、評判、戦闘能力、人柄……それらを我々が判定し、王都のギルド本部へ陳情の末に許可が出れば、晴れて【金級冒険者】、ですニャ!!」




「腕っぷしだけの乱暴者や頭でっかちなんかは無理ってことか……ちなみにその上の【白金級冒険者】ってのは……?」




「それはもう!国を代表する冒険者として扱われますニャ!」




 はー……そういうことか。


誰でも到達できる限界が【銀級】


その上に行くには、それ相応の何かがないと駄目ってことだな。




「まあ、ほぼ伝説級の人物くらいでないと【白金級】は務まらないですニャ!現在国内には3人しかいませんニャ!!!」




 このデカい国で、たったの3人か。


どいつもこいつも化け物なんだろうなあ。




「そうかい、それじゃまずは【銀級】に上がれるように頑張るさ」




「応援しておりますニャ!言い忘れてましたけど、【銀級】は15級から始まりますニャ!ウエストウッドさんのさらなるご活躍を期待しておりますニャ!」




 そう言うと、猫娘は手を組んで祈るような仕草をした。


美人に応援されることなんざ、今までの人生でそんなにあったかねぇ。




 猫娘に手を振り、ギルドを後にする。


まだ依頼を受ける時間くらいはあるが、今日くらいはのんびりしよう。


晴れて正式な冒険者になれたんだからな。




「よーう!ランクアップが随分と早いじゃないか、ルーキー!」




「うおっ!?」




 そんなことを考えていたら、ギルドから出てすぐの所で誰かに肩を組まれた。


横を見ると、そこにいたのは女だ。


それも、顔なじみの。




「あんたみたいな美人にいきなり肩ァ組まれるとな、びっくりすんだよ。ヴァシュカのあねさん」




「いいじゃないかいいじゃないか!役得だよウッド!」




 勘弁してくれよ。


オレとアンタじゃ身長が違い過ぎるんだ。


無理やり肩を組まれたもんだから、そのデッカイ胸が思いっきり押し付けられてんだよ。


しかもなんかいい匂いまでしやがる。


なんでだ?この世界の住人はそう頻繁に風呂に入らねえのに……いかんいかん、最近ご無沙汰だから思考がヤバいな。


胸程度で興奮とか、中学生じゃあるまいし。


……こりゃ、早めに娼館で発散する必要があるねェ。




「有難く受け取っとくぜ……それで?オレに何か用事か?」




 体を離して聞くと、ヴァシュカは憮然とした顔をした。


なんかやったっけか?オレ。




「忘れてんじゃないよ、アンタが銅級になったら酒奢ってやるって話したじゃないか」




「あー……てっきり新人に発破をかけるためかと思って」




 あったあった。


社交辞令だとばっかり思ってたぜ。




「このヴァシュカがそんな適当な嘘付くわけあるかい!手ぶらでギルドから出てきたんなら今日はもう暇なんだろ!?さあ来た来た!」




「うわっ!?あ、ああ、よろしく頼む……」




 オレは、ヴァシュカに半ば連行されるように歩き出した。






・・☆・・






「新たな仲間の誕生を祝って……乾杯!!」




「「「乾杯!!」」」




 打ち合わされた木のジョッキを呷る。


ぬるくて炭酸の弱いビール的なものが、喉を通っていく。


これがエールってやつか?


冷えてる方が好きだが、まあ悪くない。




「はっは!いい飲みっぷりじゃないか!」




 オレの横でヴァシュカが笑う。


……その手に持ってるジョッキ、オレの2倍はあるんだが。


身長の分だけ肝臓もデカいんだろうな、オーガってやつは。




「ヴァシュカが目にかけてる新人ていうからてっきりオーガだと思っていたが、人族とはな」




「流れ者なんでしょ?前までどこにいたの?」




「随分変わった服を着てるのね、どこの出身?」




 待て待て待て、オレは聖徳太子じゃねえぞ。


そんなに一気に喋らないでくれよな。




 オレがヴァシュカに連れていかれたのは、1軒の酒場だった。


歓楽街に入ってすぐの場所にある、冒険者がよく通う店らしい。


【斧と栄光亭】という仰々しい店名に似合わず、雑多な人種がワイワイと楽しんでいる。




 そして、連れていかれた先のテーブルには3人の先客がいた。


ヴァシュカの仲間なんだろうな。


その証拠に、スルっと着席するなりオレの歓迎会モドキが始まったからな。




「俺はバルド、見ての通り虎獣人だ」




 先手の自己紹介のつもりか、真向かいに座った男が言った。


右目を眼帯で隠した、筋骨隆々の獣人だ。


毛皮は虎縞模様で、関西の某虎球団のマスコットを超好戦的にした感じだなあ。




「オレはミディアノのウエストウッド。なりたてホヤホヤの新人冒険者さ」




 さっきの乾杯文言からして、仮冒険者は冒険者未満って感じか。


銅級になってようやく仲間入りってやつだな。




「ミディアノ!そりゃあ……大変だったろ?」




 強面の虎獣人が一転、心配そうに顔をしかめる。


オイオイ、この世界の人間にとってミディアノはどれだけ地獄なんだよ。


っていうかヴァシュカ、オレの出自について紹介もしてなかったのか。




「まあ、人並みにはな」




 とりあえず、苦笑してお茶を濁す。


細かい所突っ込まれるとヤバいからな。




「まあまあ、ここはいい国だからね!いいとこきたね~!」




 続いて話しかけてきたのは……小学生くらいの男子だ。


いいのか、子供に酒飲ませて。




「僕はミドット、ネオロスっていう小人種族さ!こう見えても今年で35になるよ!」




「……そりゃ、すまねえ。オレより年上だったとはな」




「よく言われるよ!あはは!」




 ミドットは笑いながらジョッキを呷る。


み、見た目の違和感が凄まじいなあ、おい。


異世界ってすげえ……どう見ても小学生だぞ。




「私はララ……エルフよ。ねえ、その上着見てもいい?」




「あー……ロクに洗濯もしてねえから、やめといたほうがいい」




 最後の仲間は耳が長くって体に凹凸のないエルフだった。


ぶったまげるほどの美人だが、いかんせんボリュームがねえ。


いや、好きな連中にはたまらねえスレンダーなんだろうが……な。




「まーたララの悪い癖が始まりやがった!初対面の人間の服を剥ごうとすんなって」




「すごく気になる。ミディアノっていうか南地方の人と会う機会ないから」




 服、服ねえ。


エルフってのは服飾とか縫製に興味があんのか?


普段着ならいくらでも見せてやるけど、なにせこりゃあモンコ特製の服だからな。


絶対に何かおかしい所がある。


詳しい奴が見ればすぐにわかる何かが。


どうすっかね……あ、そうだ。




 ヴァシュカがララと話している隙に、虎ノ巻を開く。


それを待っていたかのように、白紙に文字が浮き出た。






『背嚢に何の加護もかけてない予備をぶち込んどいた。それを見せるといい……エルフは盲点だったぜ、迷惑かけたな』






モンコ……お前ってやつは最高だな。


どっかの女神モドキに爪の垢煎じて飲ましてやりてえぜ。




「あー……ララ、だったか?予備のやつが背嚢に入ってる。それでいいなら……」




「いい!見せて!」




 食い気味に同意されたので、背嚢からポンチョを取り出す。


モンコの気遣いに感謝だな。




「うーん、とても細かい縫製……手織りだけど、すごい……」




 ララがひったくるようにポンチョを受け取り、ガン見している。


アイツがそうなのか、それともエルフ全体が服好きなのか。


ともあれ、助かった。




「すまねえなウエストウッド」




 バルドが申し訳なさそうに、新しい酒をこちらへ寄越してくる。


この男がまとめ役なのかね?




「ウッドでいい。別に服くらいなんてこたあねえよ、酒代の代わりには丁度いいさ」




 今着てる服なら別だけどな。




「ところでさっき年上とか言ってたけど、ウッドくんはいくつだい?」




「たぶん、25だ」




 やっぱり何度見ても小学生にしか見えないミドットに返す。


オレの見た目の変化は髪色と目だけだから、年相応に見えるだろう。


あ、でも昔っから老けてるって言われてたからどうなんだろう。




「へえ、意外と若いんだね」




「苦労したんでなァ」




 横からヴァシュカが口を挟んでくる。


じゃあアンタは……と聞こうとして、やめる。


女に年齢の話はタブーだ。


今までの社会経験からそれは痛感している。




「私、178。一番お姉さん」




 ポンチョから視線を外さずにララも入ってきた。


……やっぱエルフってどこでも長生きなのな。


それにしちゃあガキっぽいと思うが……ああ、体つきが、な。


これも口にするのはやめとこう。




「歳の話はもういいじゃねえか……まあ、ウッドよ。何か困ったことがあったら遠慮なく相談しな、慣れねえ国で大変だろうからな」




「そりゃ、ありがてえが……なんでまた?」




 バルドたちがオレを構う理由がイマイチわからん。


まあ、そりゃこの国に来てから変なことはしてねえが……




「理由は2つ。まずは仮からの昇進の早さだな、仕事に対して丁寧で真摯だってそこでわかる……銅級以上は合同の依頼なんかも増えるしな、使える知り合いは多い方がいい」




 へえ、なるほど。


合同依頼ね……護衛任務とかか?


オレとしも一匹狼を気取るつもりはねえから、有難い。


……【ジェーン・ドゥ】のことだけが気がかりだな、他の遠距離攻撃手段も探さにゃならん。




「もう1つの理由はな、ヴァシュカだ。コイツは妙に鼻が利いてな……面白いヤツを見つけてくるのが上手いんだよ」




「へえ、あねさんが……それじゃ、今度はいつ匂いを嗅がれてもいいようにしっかり風呂に入っとくか」




 ギルドでも一定の影響力があるみたいだったし、仲良くしておいて損はないだろう。


今はまだ顔見知り程度だが、それはこれからの働き次第だな。  




「な、なに言ってんだ、もう酔ったのかい?」




 おや、ヴァシュカが恥ずかしそうだ。


酒の勢いでちょいと踏み込み過ぎたか。


いかんいかん。


素人娘にゃ手を出すな、ってね。




「ああ……アンファンの酒が強いからさ」




「そうだろうよ、なんたってヴァシュカが美人に見えるんだからな!がはは!」




「んだとコラ!あたいは素面でも美人だろうが!!」




「黙ってれば、ね」




「ミドットまで!」




「ちょっとおっぱいが大きすぎる、エルフ的には評判悪い」




「ララァ!!」




 その後、気が付いたらバルドとヴァシュカが口喧嘩からの腕相撲を始めていた。


……何があった?




「始まった!ヴァシュカに銅3!」




「バルドに銅5だ!!」




周囲の客も全く気にしてない……どころか面白そうに囃し立てている。


即席の賭けまで始まっちまった、店主は何も言わねえのか。


冒険者ってのは、賑やかな連中だなあ。




 ともあれ、オレはソレを肴に笑いながら酒を呷った。


……考えてみりゃ、異世界初飲酒だな。


まあ、悪くない。


この空気は、嫌いじゃない。








・・☆・・






『メインクエスト発生!』




『・銀級冒険者になろう!』






・・☆・・

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