第11話 地元の名店(意味深)を知るには地元民に聞くのが一番。
「こいつはどこだい?」
「ええっと……その馬車の脇にお願い押します!」
「あいよォ」
抱えていた荷物を、指定された場所に下ろす。
しかしクッソ重いな、中身はなんだ?
見る気はねえけどよ。
「ロインさん、それで揃ったんで積み込みをお願いしますね!」
「おう!」
オレの周りを、何人もの若い男たちが走り回っている。
これで言われたノルマは終了だが……少しポイント稼いどくか?
「丁稚さんよぉ、他に手伝えることはあるかい?」
17、8くらいの若い店員……丁稚に聞く。
仕事ってのはだるいが、こういう気遣いが後々活きてくるんだよなあ。
「いいんですか?それじゃ、ロインさんと一緒に荷物を馬車に積んでください」
「了解~」
ロインと呼ばれた男と目くばせする。
40くらいのおっさんだ。
日々の荷物運びで鍛えたのか、冒険者じゃない割りにいい筋肉をしてる。
ここの従業員だ。
「すまねえなにいさん、持ち上げてくれるか?」
「あいあい……っと!」
馬車の荷台に登ったロインに、今しがた運んだ荷物を持ち上げて渡す。
ふぅ、頭に巻いたタオルが汗でぐしょぐしょだ。
宿に帰ったらまず風呂……といきてえところだが、安宿だからねえんだよなあ。
帰りに公衆浴場にでも行くかね。
今日も今日とて、ギルドの依頼だ。
本日の依頼は『荷運び』
街の南にある【職人区画】っていう場所で、倉庫に積まれた荷物をひたすら馬車まで運ぶって簡単なもんだ。
やってみるとわかるがかなり肉体的にはキッツイので、報酬が銀貨2枚と昼食付っていう破格でも人の集まりはよくない。
オレも採集にでも行くかと考えたが、少し目的があったのでこの仕事を選んだ。
「あんた、ウッドだっけ?ちょいと休憩しねえか?」
流れ作業で馬車に荷物を積んでいると、ロインがそう切り出してきた。
「ありがてぇ……こちとらもう腕が限界だったんだ。だけど、いいのかい?」
「ああ、ここの割り当てはほとんど済んでる。これ以上張り切ってると、別の馬車に行かされちまうぞ……」
「お、そういうことなら大歓迎だ」
この前みたいに外で魔物と戦うのもきついが、この仕事もきつい。
お言葉に甘えて休むとしようか。
しかし、魔法で動くフォークリフト的な物でもありゃいいのに……手作業とはね。
この世界もけっこう世知辛いや。
病気やケガなんかは魔法がある分楽に治るらしいが……むしろ魔法があるからこそ機械とかそこら辺が発展してないのかもしれん。
オレに学がありゃあ、そこらへんを考えて発明とかできるんだが……いや、そんなんしたら悪目立ちしちまうな。
やめとこやめとこ。
どんな世界でも、既得権益をぶっ壊す時には大なり小なり面倒ごとになるって相場が決まってんだからな。
それをオレみたいな後ろ盾ナシの新人がやるなんざ……考えただけでもおっかねえ。
早晩川に浮かぶ羽目になるかもしんねえしな。
作業していた倉庫の日陰に行き、腰を下ろす。
尻ポッケにいれていたスキットルを呷ると、よく冷えた水が喉を通っていく。
豪快に1リットルくらい飲みたいが、どう考えても内容量と釣り合わないのでゆっくり飲む。
人目があるところでは、なるべく特別な道具を見られたくない。
「ウッドの水筒、変わってんな。お国じゃあそんなのがよく流行ってたのかい?」
ロインは革で作った水筒を呷っている。
こっちじゃあ金属製のスキットルは流通してないようだ。
「ん、ああそうだよ。オレはこっちに来て驚いたねえ、てっきりどこにでもあるかと思ってたんだが」
オレの嘘出身地を利用させてもらう。
どうせ国ごと滅んでるし、難民はこんな大陸の端まで来るはずねえもんな。
困ったら全部『ミディアノではこうだった』の丸投げ戦法だ。
「所変わればってやつかい……けど、便利そうじゃないか、今度知り合いのドワーフに頼んでみようかね」
「へえ、ドワーフ。そういえばこの国じゃあちょくちょく見かけるなあ」
ずんぐりむっくりの髭面で、とんでもねえ筋肉の塊みたいな奴らだ。
この街に来てから一番見かける異種族じゃねえかな?
男ばっかりだけどお。
女も髭面だったら笑えねえなあ。
「あれ?ウッドは……ああそうか、他国人だから知らなくてもおかしくねえな」
これこれ、これよ。
今回の目的その1は。
なんでもかんでも虎ノ巻で調べるってのは芸がない。
せっかく異世界に来たんだ、ここの人間に色々自分で聞く方が楽しいじゃねえか。
それはモンコもわかっているのか、風俗とか文化とかの細かい表記は虎ノ巻にもねえしな。
なんかRPGでもやってる気がして楽しいぜ。
「この国の元々の成り立ちはな、エルフとドワーフなんだよ」
「エルフと、ドワーフ?」
エルフってのはあれだよな。
耳が長くって胸が薄くって、そんで美形揃いの連中。
ドワーフほどじゃないが、街中でよく見かけるな。
「今からざっと3000年前って言われてるけどな、戦乱から逃れたエルフとドワーフの集団がここへ国を建国したんだよ。んで、その時の長2人がそのまま国父と国母になったんだ」
「待ってくれ、エルフとドワーフってのは仲が悪いもんなんじゃねえのか?」
大体のファンタジー小説やら映画やらではそうだよな。
マジか、そんな種族が結婚して国まで作ったってのか?
「あー……南の方ではそうだって聞くけどな。ともかくその2人は違ったんだ、それに……いがみ合っていられるような状況でもなかったしな」
3000年前だったよな?
……あ!神サマ連中が大陸のやべえ奴らを南に封印したって時期かひょっとして!?
なるほど、それなら納得だ。
「まあ、そんな成り立ちがあるわけでこの国はどんな種族も横並び、見かけ上の差別はナシってことになってんだ。大陸北部じゃどんな種族にとっても一番住みやすい国じゃねえのかな」
「まあなあ、オレみてえな根無し草でもホイホイ就職させてくれるくらいだしよ」
チュートリアル扱いとしちゃあ、まさにうってつけってことか。
さすがモンコ、抜け目がねえ。
「銀貨を見てみなよ」
「おん?」
ロインに言われて、懐から取り出した銀貨を見る。
あー……なるほど。
「片方が初代国父さまで、もう片方が初代国母さまなんだぜ、モチーフは」
確かに、片方はエルフっぽい耳長イケメンの横顔で……もう片方が……えぇえ?
このロリッ子が国母サマだてのか!?
どう見たって中学生くらいにしか見えねえぞ!?
たまげたなあ……エルフの国父サマはロリコンじゃねえのか?
「あー……確かにこれ見りゃ一目瞭然だあな、忙しくてマジマジ見る暇もなかったし。ところでよ、ドワーフってのは見た目で年齢がわかりにくいよなあ?」
ボロを出さないように質問。
オレとしちゃ当然の疑問点なんだが、この世界では常識だろうし。
「だよなあ!男はみいんな髭面だもんよ!俺の知り合いってのも、12の頃にゃあもうボーボーだったからなあ!髪も多くって羨ましいぜ!!」
ロインはゲラゲラ笑っている。
違う!そうじゃねえんだ……オレは女の方の見分け方について知りたかったんであってだな……ああでも、ここでツッコミを入れるわけにゃあいかねえ。
「まあ、女の方は一目瞭然なんだがな!大人はみんなでっかいおっぱい付いてるしよ!!」
「っだ、だよなァ!?いやー、男はみんなオッサンみてえだもんよ、困っちまうわな!がはは!」
今なんつった?
巨乳!?
巨乳なのかドワーフの女は!?
男に準拠するとしたら、あんなにチビなのに!?
……なんてこったよ、さっすが異世界。
ロリ巨乳なんて存在までいるとはな……
モンコに毎晩、手合わせて拝んどこう、そうしよう。
巨乳は世界を救う。
「おっと、脱線しちまったな。つうわけで、この国は建国以来、エルフとドワーフが交互に王になってんだ。今は女王様だぜ、エルフのよ」
ほーん……面白い国だなあ。
「南は物騒だが、この国は戦争とかはどうなんだ?北部にはとんと馴染みがなかったもんでな、そこら辺が知りたい」
冒険者として働くんなら、そこら辺の状況は知っとかねえとな。
ギルドの依頼で戦争に参加させられることもあるらしいし、そうなったらヤバくなる前に他国に逃げるつもりだけど。
この国はいい国だが、命を掛金にするにゃあまだ愛着もねえ。
「がはは、この国は大丈夫さ。なんたってエルフの魔法とドワーフの鍛冶技術があんだぜ?ここ50年は戦争はねえが、その前にあった戦争じゃあ守ってるだけで相手方が滅んだんだぜ?」
「そりゃすげえな……ん?じゃあ侵略ってーか、領土拡大とかはしてねえ国なんだな」
「国土は建国以来ずっと変わってねえって聞いたな。この国のモットーは『来るものは戦争以外拒まず』だからな、守ることにかけちゃあ大陸でも随一だろうよ」
「へえ、いい国に来たもんだぜ」
専守防衛の強力な国か。
それなら万が一何かあっても、冒険者としてどっかに攻め込む心配はしなくってもすみそうだ。
しかし、籠城してるだけで相手方が滅ぶってなんだよ……?
まあ、頼もしいが。
「いやー、色々おもしれえ話だな、もっとないのかい?」
「へへ、いっくらでもあるぜ?あとはよ……」
ロインはかなり話好き……というより『教えたがり』なようだ。
しばらく聞き役に徹するとするかねえ。
目的その2のためにもよ。
・・☆・・
「……とまあ、こんなもんかな。あとは何か聞きてえこと、あるかい?」
ロインは饒舌に、この国の風習やなんかをよく教えてくれた。
いや、ありがてえな……やっぱこういうのは地元民に生の情報を聞くのが一番だ。
さて、ではここいらで……
「あのよ、この街にゃあ女と遊べる店なんてのは……」
この街はかなり大きい。
しかも冒険者なんて荒くれモノがわんさといやがる。
そういう所につきものって言ったら……そう、歓楽街だ。
必ずあるはずだ。
これこそが目的その2!
おねえちゃんと遊べる店の情報収集だ!
ロインみてえな肉体労働者なら、絶対に知ってるはずだ。
この情報を聞き出すために手伝いをして、親交を深めたんだもんな!
……いや、いきなり行くつもりはないぜ?
まだ懐も寂しいしな。
だが、男としてあらかじめ聞いておきたいってもんさ。
そうだろ?
「へえ!ウッド、やっぱりおめえも好きなんだな……?」
オレの顔は見えないが、たぶんロインと同じようなスケベ顔なんだろう。
やはり男、こういう話は世界が変わっても食いつきがいいやな。
「あたりめえだろ、こちとら旅から旅への生活でとんっとご無沙汰でよォ……もうそこらへんの木の幹までエロく見えてきちまってな」
「がははは!飢えすぎだろそいつはよ!!……だが、そういうことならよくぞ聞いてくれたな、俺ァ結構詳しいぜ?」
神よ!いや救世主よ!!
いるところにはいるもんだなあ!
スケベなおっさんがよ!
「あ、あるのか!やっぱり!」
「あるに決まってんだろ?独身男が多い場所にゃあどこへ行ったってあるもんだぜ!それで?お前さんはどんな女が好みなんだ?ここにゃあ結構多種多様な店があるぜぇ……ひひひ」
どんな女か、どんな女ねえ……
やっぱりここでもジャンルとかあんだろうな。
うーむ、ここはやはり……!
「巨乳だな、巨乳」
「おほー!好きだねェ!!」
「あったりきしゃりきよ!おっぱいが嫌いな男なんざ、この世のどこにもいねえ!」
「ちげえねえ!がははは!!」
それから、ロインはさらに水を得た魚のように喋りまくった。
そりゃもう、さっきまでのは前座だったというくらいにな。
オレは虎ノ巻を取り出し、モンコとの会話に必要のない余白に余さず聞いた店の名前を書き込むのだった。
ほほほう、そんな店が……マジか、そんなのまで……
「あ、あのぉ……」
途中からさっきの丁稚が顔を赤くしながら話に入ってきたので、引きずり込んで3人で盛り上がった。
オレたちは年齢も出身も、それこそ世界さえも違うが。
男はどこでも、スケベなもんさ。
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