第4話 エルフの里

先に動いたのはマンティコアの方だった。その禍々しい蠍の尾を振り回し、毒を飛ばしてきた。


俺はゴブリンとの戦いの経験から手で防がずに土魔法で壁を作る。


「ッジュワ!」


その禍々しい毒液が壁に触れるとともに壁は跡形も無く蒸発した。


「まじか!」

「ゴーレムさん。あの魔獣はまずいと思います。」


前世でヨーロッパの神話に触れた際、知った生物だ。

体はライオン、蠍の尾と人間の頭をした存在だ。古代ギリシャ語の人食いが名前の由来だ。人間の頭をしているのに人間を好んで食べ、尻尾からはほとんどの生き物が即死する毒を放つといわれている。


コイツは遠距離攻撃、近距離攻撃両方に優れている。 今の俺が戦ったとしても勝てない可能性が高い、逃げる選択肢もあるが向こうの方が足が速い、ここは賭けてみるか。


ロックバレット!


土魔法第四階位で使えるようになった、ストーンバレットの強化版だ。威力は後者の日にならない程大きい。


「バキンッ」


難なく左手で振り払われた。遠距離攻撃はダメそうだ。

足に魔力を込め身体強化をし、距離を詰める。得物を体内から取り出し、ロックウォールで妨害しながら切りかかるが、マンティコアの尻尾に防がれた。だが無傷ではない、尻尾の半分に食い込んだ。

斧を体内に収納し、空いている左手に具現させる。


「ガキン!」


人食いの鼻息が荒くなる。くそ、なんだコイツ。先ほど傷を付けたばかりの尾が再生している。分が悪すぎる。逃げるか。


「おい! 俺ではこいつに勝てない。逃げるぞ。」

「「はい!」」


最後の悪あがきとしてマンティコアの眼球に至近距離でロックバレットを打つ。10つの弾丸の内、当たったのは1つだけだったが、時間稼ぎにしては良い。


「行け! お前たちは先に行け!」

「グルル!」


餌に反撃されて混乱しているマンティコアだが、左目だけでも俺の攻撃を防いでくる。肉は金属に攻撃し、金属は傷を負うが、金属が負わせた傷はすぐさま回復していく。

くそ、どうにかしてこいつを即死させたいが今の俺では力不足だ。考えろ!

コイツには打撃も斬撃も効かない。そして毒を駆使して攻撃してくることから生半可な毒も効かない。考えろ!考えろ! ライオンの弱点と言えば水だ。魔獣だが顔は人間だし俺みたいに魔力だけで生命活動を維持すことはできないだろう。そうだあいつは息をしている。そうだとしたら酸素がなければ窒息死するだろう。


どこかに深い池や川はないか…  耳を澄ませても水の音は聞こえてこない。


くそこうなったら火を起こして周りの酸素を消すか?

俺は左手を火打ち石のように変形させすり合わせる。


「ガキィン!、ガキィン!、ピシ!」


火花が出たが消えてしまう。くそどうやって燃えるのを維持すればいいんだ。俺には火魔法は使えない。魔法、魔法、魔法…、火魔法も魔力を使って発動するんだから魔力を燃やせないか?

俺は四肢でマンティコアと渡り合いながら今度は口で火を起こせるか試してみる。


「ガキン、ガキン、ピシャ! ボオオオオ…」


できた!口から火のブレスを吐けるようになった。くそ、二酸化炭素は出ないが火の勢いを強くしてアルゴンガスで溶接するように酸素をさえぎれれば何とかいく。

後はどうやって遮るかだ。前世の地球で息をしている人の花に燃えている紙を入れるとそのまま入れられた人は窒息して死んでしまうと聞いたことがあるぞ。確か日本の古い物語だっけな…


俺はマンティコアを挑発するように攻撃手段を斬撃から手を変形させて直接さすことに変えた。そうしたらどうだろう。深い細い釘で全身を刺されるのだから、単純な痛みよりも不快さが増したのか人食いの魔獣は俺の左手を覆うかのように噛みついてきた。バカメ! 

左手を銃身のように変形させ炎を口の中で放つ。熱いと感じたマンティコアは口を開こうとしたが俺の今自分に残っている全魔力を使って右手を強化し首を腕で囲み、ロックする。


さあ、終わりだ。俺をなめたのが悪かったな!


「ンギャアーーーーーーーーーーーーー…」


5秒もたたないうちにマンティコアの肺を火が満たし、絶命した。


勝った!


ピコン


レベルアップの通知だ。

さてエルフたちは先に行ってしまったし、コイツの死体を手放すのはもったいないから運ぶか。」


強い脱力感に襲われながらも俺は残り僅かな魔力を節約し、早歩きで歩き始めた。




少し歩いてから、剣の音が聞こえてきた。もしやと思い確認するとエルフたちだった。どうやらトラのようなものと戦っているらしいが戦況は劣勢だ。 ふむ、今助けるぞ!


右手を得物に変えて切りかかる。魔獣は深い傷を負い血を周りにブチ撒けながらマンティコアのように高速で傷が治るわけもなくそのまま絶命した。


「ゴーレムさんだ!ありがとうございます。」

「先ほどはマンティコアから逃がしていただくと共にまた私たちを命の危機から救ってくださって感謝します。そういえばあのマンティコアはどうなったんですか?」

「ああ、倒したぞ。」

「ええ!倒したんですか!  ひょっとしてそれってマンティコアの死体ですか?」

「そうだ。」

「なら早く魔石を取り除かないと風化してしまいますよ。」

「なんだ? 魔石ってなんのことだ?」

「魔石をしらないんですか?」

「魔石って言うのは強い魔物の体内に存在する魔力の塊みたいなものです。」

「魔物を倒したなら早く魔石を取り除かないと死体に魔力が吸われて風化してしまうんです。マンティコアの魔石だからそれなりに価値があると思うんですけど。」

「なら早く取り出さないとっ、魔石って体のどこにあるんだ?」

「たいていの魔物は心臓の近くにあります。」

「なら早く捌かないとな。」


斧を取り出し、マンティコアの肋骨を裂いていく。周辺の地面が赤色に染まっていく。魔物によって血の色が違うのか? ゴブリンは緑色の奴と赤色のやつがいたが…


肺を引きちぎるといまだに鼓動をしている深紅の心臓が姿を現す。

人間も銃で頭を打たれてもその後は少し心臓が動くが、これはとてもグロテスクだった。魔物とはいえ吐き気がしてきた。ゴブリンの時は怒りに駆られてあまり気持ちが悪くならなかったが今度こそ吐くかもしれない。


心臓の周りの粘膜を切り裂いていると心臓よりも真っ赤に染まった透明な石が出てきた。


「そう! それです。ゴーレムさん。それが魔石です。」


隣で見ていたエリスが言うが何というかエルフたちは全く気分が悪くなっていないというか、子供は別として皆、見慣れているかのように解体を目にしても平気な顔をしていた。 こういうことはここの世界では日常茶飯事なのか…?


コイツの魔石は心臓の2分の1ほどの大きさだった。なんというか見ているだけでこちらにすごい魔力が伝わる。もしかしてこいつを吸収すれば俺も魔石のように魔力を帯びやすくなるのか?


「なあエリス? 魔石ってなにでできているんだ?」

「さあ? 私にはわかりませんが魔力の塊ぐらいだとしか知りません。魔鉄鋼よりも脆く割れやすいと聞きますが…」

「まじで? ありがとな。」


あぶねー 戦闘力が激減するところだった。聞いておいてよかったな。


「なあ、だったら魔石は何に使われるんだ?」

「え~と、何しろ膨大な魔力の塊なので魔道具の魔力の供給源として使われます。」

「そうか、ありがとうな。」


そうなるとこの魔力を吸収できないだろうか? 魔石をもった右手に意識を集中させると魔力が流れ込んできた。できる!できるぞ!先ほどの戦闘でこっかつした魔力をすぐに取り戻せそうだ。

吸収し始めて1分ほどたつと魔石の色が薄くなってきた。中の魔力が減ってきたからなのか?

さらに吸収していくとついに無色になり、小さなひびが入るとともに割れて風化してしまった。 なるほど! 魔石の材質は魔力とは別で魔力が魔石の状態を維持していたのか。そうなると魔力が原子間の結びつきに働いている可能性がある。ほかにも…


「何を悩んでいるんですか?」

「いや、なんでもない。」


傷も魔力がもどってきたおかげで治り始めていく。


「よし行くか!」

「「はい!」」


そのあとは難なく山脈を下りエルフが生息する森林に入った。エルフの村はもう少しらしい。何というかこの森の木はでかいな。アグド大森林の木もデカかったがこちらは2倍以上樹高がある。


しばらくあるいていると木でできた家が見えた。


「ゴーレムさん到着です!」

「ああ、ついたみたいだな。」


エルフの村を見た第一印象はなんというか神秘的だ。木の上にも家があり自然と調和しているような感じがした。


「エリスたちじゃないか!」

「メルも!」

「レナンじゃないか!」

「お前たちが山脈を超えて帰ってこないから心配したんだぞ!」

「本当に死んだと思ったじゃないか。」


村中の目に入った人たちがエリスたちに抱きあっていく。


「ところで怪我がひどいようだなすぐに回復魔法を使えるものを呼ぶからベッドで寝ていろ。」

「ん? 隣の人はだれだ? 鎧をきているから騎士なのか?」

「ええと、魔獣に襲われたところを助けてもらったんです。それに村に着くまで私たちを守ってくださったんです。」

「そりゃ、恩にきる。どちら様かはしらないが娘たちを助けてくださってありがとう!」


どうやらこの人はエリスの父親でこの村の村長らしい。

俺たちが案内させたのは周辺で一番デカい建物でなかは診療所のようになっていた。エリスたちは回復魔法を受けすぐに傷が治っていた。 すごいな。俺にも使えればいいのだが。


「この度は娘たちを助けてくださってありがとう。感謝している。」

「いえ、いえ、大丈夫です。」

「助けて貰ったお礼いとしては何ですが、あなた様のお望みを叶えられることについてなら何か1つお礼をさせてください。」

「そういうことなら、俺は回復魔法が使えるようになりたい。」

「教えてくれないか?」

「そんなものでいいんですか?」

「ああ、他に望みはないからな。」


かくして翌日から俺とエルフのマリーンと名乗るエルフの村1番の回復術使との特訓が始まった。


「まず魔法はイメージが大事です。回復魔法で傷が治るようなイメージをしてください。」

「ふむふむ。」

「イメージができるならこの枯れた花に魔法を使ってください。」

「傷の周りを魔力で覆うようにするのが良いです。」


俺は全力でイメーージし魔力で優しく覆いつづけた。


「そうそう。そうです。花が少し元気になりましたよ。」


いや、全く変化はないと思うのだが。

スキルなしで一から魔法を習得するのがこんなに困難だなんて…


特訓を初めて一週間がすぎた。俺は全く回復魔法が使えるようにならなかった。


「おかしいですね~? 一週間もあれば少しお花が元気になると思ったのですが。」


とても刺さる。ゴーレムだからなのか才能がないからなのかわからないがとても今の俺には刺さる言葉だ。前世の俺にできないことなんてなかった。できないとすれば自分の部屋の整理ぐらいだ。


「う~ん。私たちエルフの場合は生まれた時から他種族より回復魔法が習得しやすいので習得するときの感覚をあまり感じることができませんが…」

「とにかく、魔法においてはイメージが一番大切です。イメージできなければどんな魔法でも使えません。」


くう。そういわれるとだな。俺は一日中魔力を放出して疲れ切っていた。


試しにステータスを開いてみる。


ステータス!


ピコン


******************


名前 ルー

種族 ゴーレムナイト

level 15

状態 良好

年齢 3週間

称号 ゴブリンスレイヤー


HP:7500

MP:2800

力  :700

体力 :5000

俊敏 :275

防御力:2750

知能 :450

精神力:400


スキル

上級鑑定 上級翻訳 土魔法第四階位 守る者 吸収(種族固有) 変形(種族固有) 具現(種族固有)


パッシブスキル

硬化 タフネス 五感強化


ユニークスキル

成長加速


******************


ステータスで特に変わったところはないな。俺がマンティコアとの戦いで使用した炎のブレスは火魔法じゃないらしい。なんというか原理そのものが違うらしい。成長加速がついているとは言え、まだ習得できないとは。

俺はイメージを探ってみる。回復魔法が使えるエルフに聞いたのだが全員が全員発動するときのイメージが同じわけもなく、一人ひとり微妙にイメージが違うらしい。


くう~。どうやればいいんだ?


「ルーさんは覚悟が足らないかもしれませんよ。」

「覚悟? どうしてだ?」

「魔法を使えないものには命の危機や戦闘を通じて使えるようになるものもいますから。」

「ふむそうだな。」

ちなみに俺の名前はルーになった。リュート(Lute)からトを取ったんだ。


「ですがこの付近にはルーさんが勝てない魔獣はいないのですが。」

確かにそうだ。ここに来てからは平和が続いている。魔獣山脈がバケモンだっただけだ。

村長いわく今の俺なら人間の冒険者でいうB級にいちし、マンティコアのランクはB⁺らしい。冒険者のランクはGから始まり一番上のA、Sまであるらしい。B級ともいうと戦闘にたけたエルフの村のこの村で一番強い戦士たちと同じぐらいらしい。


「そうか。俺はこのあとまた山脈をこえて砂漠にいくつもりだ。」


今の俺ではエルフたちを守るのは弱すぎる。エルフを片っ端から奴隷にしている人間たちに知られる前にもっと強くならなけらば。


「ルーさんはいつ戻って来るんですか?」

「俺なら3ヶ月ぐらいで戻って来るぞ。」

「そのうちに今とは比べものにならない程強くなっているから待ってろよ。」

「お待ちしております!」


俺がエルフの村に来た時俺はこの村を守ることにしたんだ。地球に戻るには信頼できるやつらがいるし、俺はきしだったからこの村に忠誠を誓った。なんというかエリスたちがかわいすぎて離れたくなかったからだ。


明日になり俺はこの村を発つ。俺のお願いでマンティコアほどではないが魔力の補充用に魔石を何個かもらった。


2日後あの山脈についた。おれはコイツを抜けてから大陸の南北に広がっているもっと険しい山脈を抜けなければならない。そこの頂上付近にはドラゴンも多く生息するらしい。ここでてこずっているならば、後々しぬだろう。ここでれべるを30ほど上げておきたい。


そう考えながら歩いていると視線を感じる。


「そこか!」


俺はロックバレットを山脈の洞窟に向かって放つ。


「ピギャ!」


なんというかかわいらしい声が聞こえた。だがそんな声とは裏腹にその姿は禍々しいものだった。強大なからだを持つくもだったんだ。大きさは俺の2倍。その足を入れると4倍ほどに達する。俺は事前にエルフの村で山脈に生息する魔物について事前学習した。

コイツの名はコワディースパイダー。翻訳スキルを使っているから直訳すると卑怯なクモだ。もちろん英語が名前の由来でなく上級翻訳によって導き出された理解しやすい翻訳だ。コイツの弱点は火だ。クモの巣上では強いかもしれないが地面の上では体が重く動きが遅いらしい。


俺を侮ったな死ね!


接近しくちからファイヤーブレスを放つ。


「ピギャー!」


狭い洞窟の中では逃げる場所もなくそのまま息絶えた。


ピコン!


これで1レべか2日以内に終わらすぞ。


そのまま洞窟を後にしていった。

そして1日後俺は今アグド大森林の表層にいる。今俺のレベルは30まで上がった。マンティコアぐらいなら余裕で倒せる。この森の南北山脈の境界である深層に強力なモンスターが潜んでいるから楽しみだ。


そろそろ深層だ。雰囲気がガラッと変わった。何というか木々が薄暗くさらに巨大になったのだ。こいつは森の主がいるかもしれないな。


************************************


来週から投稿頻度がガラッと落ちます。3から7日以内に出すようにします。

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