第27話 進めていく準備

 水雲は俊野が夢中で話しているのを、水雲は特に相槌も打たずに聞いていた。

「だからさ、あの国主が女遊びとか、狩りとかに夢中になっている間、お前は伝声国にしかない術を使って、宮殿に攻めるんだよ。そしたら、賊が宮殿に攻め入ったって言う知らせが、あのぼんくら国主に届いたら、奴は多分慌てるだろう? その、あいつが何もできない瞬間に、俺がとどめを刺すんだ」

 苦笑いをしながら腕組みをしている水雲の隣で、俊野は鉄塊を抱き込み、空中を仰ぎながら考え続けている。

「でもよ、それには問題があってだな。俺たちが宮殿に攻めるためには、宮殿の中から誰かが俺たちに呼応してくれないといけないよな。そんな奴が今のところいないのが欠点なんだ」

「中から呼応してくれる者なら、すでに我々が送り込んでいる」

 腕を解きながら、水雲は言った。

 水雲の言葉に、俊野はびくん、と体を震わせる。

「誰だ?」

「新国主の正室を覚えているか?」

「ああ。婚礼の日に見かけたことがある。さっき、公主が同情してた人のことだろ? あ、その人は確か伝声国の皇女だったな」

 俊野が興奮気味に話す横で、水雲は満足にうなずいていた。

 ちょうどその時、鶏やカラスが騒いでいるのか、と思えるほど、騒がしい声が聞こえてくる。宮殿の門前に到着する。自然と、水雲の足も門から数里離れたところで泊まる。

「ん? お前、宮中に入らないのか?」

「私は仮病を使って宴に参加していない。もしまた宮中に入って、宴に参加するものと鉢合わせでもしたらまずい。伝声国の体面にも関わるし、我々の目的が達成できない恐れもあるからな。私はここでお前を待っていることにする」

「わかった」

 俊野が宮殿の門をくぐるのを見届け、その姿が見えなくなった瞬間、水雲は右手を点に掲げた。それからすぐに右手指先に軽く力を入れる。その瞬間、水雲の手に紫色の光が宿った。門前にいた、二人の武婢もまた、光を発見する。彼らは腰に携えている剣の柄に手を当てながら、水雲の元へ、ゆっくり一歩一歩近づいてくる。その間に、水雲は堂々と武婢二人の元へ、その光を浴びせる。すると、武婢はたちまち剣の柄から手を離し、その場でゆらゆらといれながら何とか立っている。

「お前たちは今から、伝声国の密偵となる。お前たちは今、伝声国に情報を伝えるために、そこに立っているのだ。地海国の新国主に何か異変があったら、直ちに私の元へ報告しろ。報告方法に関してだが、お前たちがその心に念じるだけで良い」

 水雲が誰にも聞こえないくらいの小声で言う。すると、二人の武婢はがっくりと首を縦に振り、承諾の印を示す。二人が再び前を向き、開いたまぶたの間に浮かぶ瞳の色は、紫へと変貌していた。

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