第26話 俊野の計画

 俊野が腕を組みながら、ゆっくりと水雲の隣まで歩いてくる。

「あの一族は確かにおかしいな」

 水雲は小さくなった静和の後ろ姿をじっと観察しながら言った。

 静和の姿が見えなくなると、水雲は視線を俊野の元へ移す。彼の足元には岩のような鉄塊が一つ転がっていた。

「……それは?」

 水雲は鉄塊を指差しながら聞く。すると、俊野はその鉄塊を持ち上げてから歩き出した。

「鉄塊さ。これを運ぶのが俺の仕事だからな」

 俊野の隣を、何も持たずに歩く水雲は、何か手伝いたい、と言う気持ちだけは出てきたものの、何の腕力も筋力も持たない自分には彼の手助けなど何一つできない、とすぐに諦めた。

「毎日それを運んでいるのか?」

「うん、そうだ。毎日、早朝から夜中まで。当たり前だけど、休みは無いぞ。正直、最初はしんどいかもしれないけど、もう慣れちゃったよ。この生活も、もう七年くらいになるからな」

「七年? いくつの時から続けているんだ?」

「十歳だよ。秋風旦那と秋月夫人が連行された後、ふた月もしないうちに武婢に街で見つかってしまってからは、ずっとこんな生活なんだ」

 ただ持つのが重くなったのか、俊野は鉄塊を右肩に担ぎ上げた。

「お前は十七歳なのか。私よりも二つ年上だったんだな」

「そうだよ。でも、お前の方が身分が高いからな。多少嫌なことをされたり言われたりするのも、まあ仕方がないけどな」

 重いものを担ぎながら、話しているせいで、疲れやすくなっているのか、俊野はまだ昼だと言うのに、既に息を切らせている。かれこれ十五年の人生の中で、ただの一度も肉体的な重労働をしたことのない水雲には新鮮な驚きだった。

 水雲は俊野が鉄塊を見ながら、ぱちん、と指を鳴らす。すると、たちまち俊野の肩からは、わずかな重みすらも感じなくなっていた。

「ん? お前、何かしたのか? この鉄、ちっとも重くないじゃないか!」

「うん。一時的に重みを取り除いたんだ。その鉄塊がお前の体を離れた瞬間、重みを取り戻すようになってるから気を付けろよ」

「わかった。ありがとよ。この術も本当に助かる」

 ふと、水雲は忘れかけていた、わざわざ宴を欠席して、ここまで足を運んだ理由を思い出す。

(まさか、頭のおかしい奴らと少し話していただけで、自分の用件を忘れかけるなんて)

 水雲は苦笑しながら、俊野を一瞥して尋ねた。

「ところで、お前の計画をそろそろ聞かせてもらえないか。殿下が焦り始めている」

「そうだな。まぁ、俺の計画では今日責めるのはまずありえないよな。だって、俺何も準備してないんだぜ? 俺に味方してくれる軍もいないしさ。今のところ、味方はお前たちだけだから。だから、俺は今即位した国主が遊びほうけるまで待つべきだと思うんだ」

「ほう?」

「俺の予想では、あの国主の性分だとすぐにでも女遊びを始めるからさ。そうなったら、俺たち雑婢の不満どころか、文婢らも抑えこんでた不満が出てくるだろう? つまりはさ、国主に忠誠を尽くさなくなるわけだ。で、俺はその隙を狙うべきだと思ってるんだよな」

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