第23話 新国主即位

「ええ。神女である以上、彼女の命は国主に委ねる必要があります。地海国で死なれては、我々にとってもですが、国主からしても困ります」

「間違いない。ところで、操声術は人を選んでかけることはできないのか?」

 水雲は視線を上に移しながら、少しだけ考える。だがすぐに、首を横に振った。

「無理ですね。操声術は古の時代に、人々の言葉を操作する術として生まれました。しかし、当時から一国の主がその国を統治しやすいようにするため、不特定多数の民、ひいては全ての民に対してかけることを目的として完成された術です。そして、今に至るまで操声術に人を選ばせる方法はまだ発見されておりません」

「なるほど。ということは、操声術をかけられ、その術の効力が切れた後に現れる、狂人の症状についても、現れないようにすることはできないと?」

「ええ。無理です。術後のことなど、先人の中でも実験されている方はおりませんし。それに、我々伝声師は術をかけることに長けてはいても、術を解くことはできないのです。ですので、私にできる、術後の症状を防ぐ方法としては、術をかける必要のない者に関しては、その者を戦場から離れさせることしかできません」

 双竹は腕を組みながら、じっくりと考えた。結局、水雲から提案された案に賛同する他はなかったのだが。


 三日後。地海国に新たな国主が即位した。宮殿で行われた即位式では、伝声国をはじめとする、地海国外からの賓客が多く招かれていた。皆、ただ眼前にいる新たな国主は自国にとって利益があるのかどうかだけを考えながら。

 即位式には、水雲の予想通り、新国主と成婚した伝声国「皇女」の姿もあった。彼女の姿が即位式に現れた時、伝声国を除く他国の使臣らは一斉に小声で噂をし始める。

「あれは、伝声国の皇女らしいが、本当なのか? 伝声国の皇女とはとても思えないくらい美しいが」

「母親に似たんじゃないか。一国の主ともなれば、美女の一人や二人くらい、侍らすことは難しくないだろうし」

「おい、待て。あの顔、どこかで見たことあるぞ。思い出した。あの女、確か伝声国の神女とかじゃないか? 伝声国特有の、怪しげな儀式の生贄になる......」

「あり得ないだろう。もしそれが本当なら、どうして今この場所に、その神女がいるんだ? それも、地海国新国主の正室として」

「伝声国国主の命が下ったんだろ。いや、待てよ。とすると、伝声国は何か良からぬことを企んでいるとしか考えられない......」

 新地海国国主夫妻が各国使臣の間を通り過ぎていく中、使臣たちの視線は水雲らに注がれる。

 密かに鼓動が速くなるのを感じながら、水雲と双竹は国主夫妻に視線を向け続けていた。

「国師、即位式が終わった後、例の者と接触することはできますか?」

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