第20話 それぞれの目的
一年前、季節は夏だった。何故かそれまでにないほど地海国各地で竜巻が発生していたせいで、至るところで砂が空中に待っていた。きっと、地海国の国土は、半分以上が砂漠ということも関係しているのだろうが。
「おい、集まれ。今日から二日間、鉄運びをする必要は無い。武器庫へ行き、兵器を作れ」
と、鉄署を管理する文婢に命令された日も、また、竜巻が起こっていた。
俊野たちは竜巻の中、武器庫の脇で鉄塊を溶かし、鏢や流星錘、槍、戦車を作った。一日で作り上げた武器の数は、三日間の総力戦で、何とか戦うことのできるほどだった。
二日目に、それらの兵器の威力を確かめるため、人気のない場所で実験したのだ。それは、確かに伝声国との国境付近だった。
(まさか、あれが......?)
騒ぐ心を抑えながら、俊野は引き続き水雲たちの会話に耳を傾けた。
「なるほど。それなら、地海国の動きは実に迷惑だ。だが、地海国が辺境で不穏な動きを見せるなんて、一体何が目的だったんだ?」
「さぁ。それはわかりません。ですが、十中八九、伝声国に危険が及ぶことであるというのは間違いがないでしょう」
「戦?」
「おそらくは」
双竹はすううう、と長い息を吐く。
「ところで、国主は本当に地海国を併呑するつもりなのでしょうか」
「きっと、そうなんだろうと思う。伝書鳩を寄越して、あの者を利用せよ、と命令が下った以上は」
「ですが、例の計画を実行すれば、地海国は血の海となりますよ?」
「そのための、操声術なんじゃないか」
ソウセイジュツ? と俊野が首をかしげている、その視界の向こう側では、水雲が諦めたように首を横に振っていた。
「あの者は、自らの復讐のために国主以外の者にも手を出そうとするものなのですよ? もし、操声術を使って何の苦もなく国主一族を討ったところで、その次は文婢を手にかけるでしょう」
「でも、彼はそのようなことなど言っていなかったが......?」
「それでも、私にはわかるのです。彼の胸の内には、野心が満ち溢れています。それは抑えることを知らぬものでしょう。ですから、国主一族を殺しても、その次は、彼にひどい仕打ちをした者へ、と復讐心が向くはずです。それこそ、自分の信頼できる者だけになるまで、その連鎖は続くでしょう」
「だが、それは我々伝声国とは関係がない。それにむしろ、地海国が荒れれば荒れるほど、我々にとっては好都合だ」
「......ええ。そうですね」
水雲は空を見上げたまま、黙ってしまった。その心中で何を考えているのか、俊野にはまるでわからない。双竹もまた、それは同じようだった。
俊野は、水雲たちに話しかける気が失せてしまったので、彼らに背を向けた。
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