第18話 伝声国の習わし

「え? じゃあ、あなたは伝声国の皇子なのに、水雲のために、いつかは死ぬ運命にあるって言うことなのか?」

 俊野はめいいっぱい目を見開いて、正面から双竹に体を向ける。

「私はもう皇子じゃない。神人の天啓を受けた瞬間に、私は伝声国の皇子としての資格を失っているからな」

「ふうん。でも、待てよ。確か、あいつが伝声師になるときに、既に茉莉皇女が神女として犠牲になったんだろう? じゃあ、どうしてあなたも神人として、あいつのために死ぬ準備をしているんですか?」

「決まっているじゃないか。御代替わりのためさ。」

 肩に頭がくっつきそうなほどに俊野は首をかしげると、双竹は首を横に振りながら快活に笑った。

「国師は、その地位につくときに神から力をいただくために儀式を行う。それは、さっき話した通りだ。だけど、その後でもし国主が変わったら、国師は新しい国主の御代が平安になることを祈って、儀式を行わなければならない。その時に犠牲になるのが、また神人や神女となった者なんだ。」

「でも、そのためとは言え、あなたは犠牲になることに納得しているのですか?」

「うん。私はね。国の繁栄のためなら、私一人くらいが犠牲になることなど、ささやかなことだ。幼少の頃からそうも学んできたからね」

「幼少?」

 子どもの頃から皇子というのは国のことを学ぶものなのか、と俊野が密かに驚いていた。

「うん。あれ、言わなかったかな? 私は神人の天啓を受ける前までは伝声国の皇太子だったんだよ」

 いよいよ俊野が思いっきり口を開けたところで、水雲が戻ってきた。月夜にぼんやりと照らされた彼は哀愁に満ちた目で双竹を見ているように、俊野の目には映った。

「ああ、国師、お帰りなさい。用は足せました?」

「はい。殿下も必要であればぜひ。砂漠でするのは感覚がまた違うものに感じられます」

 立てた膝の間に顔を埋めながら、俊野は必死に笑いをこらえる。

(あいつら普段そんな会話してんのか? 意外と俺に似てるところがあるんだな)


 皇太子成婚の翌日も、鉄署は休暇を得られたため、俊野は昨夜も訪れた砂漠へ向かった。

 砂漠の中央には、昨夜と同じく水雲と双竹が並んで寝転がっている。俊野はすぐさま二人の元へ付けようとしたところで、たまたま二人の話し声が聞こえてしまった。

「国師は今でも茉莉のことを思い出すかい?」

 双竹の鉛のような声に、俊野も足かせがつけられたかのように走る足を止めた。

「どうしました? ずいぶんと急ですね」

「ははは。昨日、俊野殿と話していて、茉莉の話になったんだ。だから、なんとなく気になってしまって」

「なるほど、道理で。......。まぁ、思い出さない、と言ったら嘘になりますよね」

「では、どういう時に思い出すんだ?」

 水雲は、わずかに口角を上げてから、少しだけ無言になっていた。

「寝ている時でしょうかね。毎晩、彼女の悪夢で目が覚めてしまうから」

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