第16話 復讐の念

「それって?」

 俊野と水雲の視線が不意に合う。

「民を一斉に奴婢にした国主に復讐する」

 俊野は力なく微笑しながら首を横に振った。

「いや。俺は、秋風旦那と秋夫人の復讐がしたいんだ」

「でも、その二人は、国主一族に殺されたわけじゃない」

「あー、そうだよ。でも、国主が制度を変えたせいで二人が殺されたんだ。それに刑を執行する奴は、国主の命令がない限りは動くことができないからな。」

 それを聞き、しばらくの間黙っていた双竹がようやく口を開いた。

「だが、それなら国主だけを殺せばいいだろう? どうしてその一族も殺す必要があるんだ?」

「一族には、国主の血が流れているだろう? 俺は、国主本人だけじゃなく、その血が流れている奴のことも憎くてたまらない」

 俊野が力強い握り拳を作ると、水雲と双竹は理解に苦しむといった様子で目を合わせた。

「......それで、地海国国主一族を皆殺しにするとして、君は本当に後悔しないのか?」

 双竹は恐る恐る尋ねる。

「しないよ。......そりゃ、静和公主は善良な人だ。まあ、ちょっと面倒臭いところもあるけどな。でもそれでもあの人にも国主の血が流れてる。いつもあの人に話しかけられて、それを思い出すたびに、は公主を殺したくなる。だから、国主一族を皆殺しにしても、俺はきっと後悔しない」

「私が求めているのは、きっと、じゃない。確実に、だ」

 いつになく厳しい口調で双竹が言った。すると、俊野は目を伏せてから小声で言う。

「ぜってえに、後悔しない」

 横目に見える山から狼の遠吠えが聞こえ始めたとき、俊野は再び寝転がり、水雲と双竹の黒い背中を見ながら聞いた。

「そういえば、お前らは家族とか親しい奴を殺されたら、復讐するか?」

「なぜ急にそれを尋ねる?」

 水雲もまた寝転がりながら答えた。

「気になったからだよ」

「気になったからか。ふん、まあ、いいだろう。どのみち、私の答えは復讐しない、だからな」

 水雲の答えを聞いた瞬間に、俊野は反射的に体を起こした。

「なんでだよ?」

「それが、私の起こした実際の行動だったからだ」

 俊野と双竹は同時に、水雲の顔を見る。双竹は事情を知っているようで、誰が見ても明らかに同情するような視線を彼に向けていた。だが、彼は過去のことを思い出しているのか、目を閉じきっていて、二人をわずかでも見ようとしない。

「国師」

 と、双竹が水雲の腕に手を当てながら、子守をするかのような声で言った。

「国師、あれはあなたにとって必要なことだったのだ。そしてそれは我々伝声国にとっても必要なこと。そして、父上にとっても、それは同じ」

 俊野だけが完全に蚊帳の外となっている状態で、水雲は再びまぶたを開けた。

「ええ。わかっていますよ。私が伝声師となるためには茉莉の犠牲が不可欠だったということくらい」

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