第7話 すれ違いの果てに
私は関係者である水島、田中、鈴木、佐藤の4人を呼び出した。
「こちらに皆さんをお呼びしたのは、この事件の真相が明らかになったからです」
私の言葉に4人の間に緊張が走った。
中でも水島は明らかに動揺していて、確実に何かあるということがうかがえた。
「今回の事件ですが、動機と言う面から言えば佐藤さんは容疑者から外れます。逆に、佐藤さんは犯人に襲われる可能性を危惧していた。そうですよね?」
「はい」
「あなたは、薄々ながら事件の背景に水島さんを中心とした男女関係のもつれによるものに気づいていた。だから、事件の犯人は他の3人の中の誰かであることを確信していたのですよね?」
「そうです。しかし、3人のうちの誰が犯人かはわかりませんでしたので……」
「そうでしょうね。だから、あなたは事件の背景に水島さんと鈴木さんの関係についてお話しされた。そうですよね?」
「はい」
そのやり取りに、水島と鈴木は気まずそうな表情をしていた。
しかし、それに気づかないふりをして、私は推理を続ける。
「まず、この事件の背景には、水島さんと鈴木さんが付き合っていた。という事実が前提としてあります」
その言葉に田中は驚きの表情をしていた。
「しかし、田中さんは、そのことについて知らなかった。なぜなら、水島さんと天海監督が付き合っていたと思い込んでいたのですからね」
「そうです。水島さんと監督が親しい間柄だということはわかっていました。もちろん、それを羨む気持ちもありました。しかし、僕はやっていません! 信じてください!」
「ええ、もちろん信じますよ。それだけで天海監督を殺害するには動機が弱すぎますし、何より田中さんは事実関係を知らなすぎます。もし知っていたら、水島さんに憧れている状態のままではないと思いますしね」
「どういうことですか?」
田中さんは私の言葉が理解できないようだったので、天海監督の秘密の日記帳を取り出した。
「こちらは、天海監督の日記帳です。この中には、天海監督が権力を盾にしてNTRした記録が赤裸々に描かれていました。もちろん、水島さんとのことについてもね」
「なっ!」
「水島さんは好き好んで彼と関係を持っていたわけではありませんでした。もし、あなたがそれを知っていたのであれば、そして天海監督を殺害したのであれば、より
私の言っている意味を理解したのか、田中はしばらく俯いていたままだった。
しかし、おもむろに顔を上げた時、すっきりした表情になっていた。
「確かに、そうですね。でも、僕は相変わらず彼女に憧れたままです。別に失望したりもしませんよ」
彼の言葉に私は思案したふりをする。
「そうですか……。ですが、この事件の直接的な発端となったことを知っても同じことが果たして言えるでしょうか?」
「それはどういうことですか?」
「なぜ、このタイミングで天海監督が殺害されたか、です。それには理由があるんですよ。そうですよね。水島さん?」
「どういうことですか?」
「あなた、妊娠していますよね?」
「なっ?!」
恐らく私が女の子になったせいだろう。
直感的な部分がほとんどだが、私は彼女が妊娠していることに気づいていた。
「天海監督の日記にも書かれていました。水島さんは関係は持っていたが、愛情は鈴木さんの方にあったと。だが、妊娠してしまえば、とも書かれていました。そうすれば、鈴木さんに付き合っている事実を隠せなくなりますからね」
「……あのクソ野郎、そんなことを思っていたんですね。そうです。私のお腹の中にはアイツとの子供がいます。その事実を知って、アイツを殺すことにしたんです」
そう言って、息を整えてから話を続ける。
「私は、妊娠した事実を伝えて、話があるとスクリーンの裏に呼び出しました。彼が上映後に高台からワイヤーで降りてくることを知っていましたので、その上に呼び出しました。私は暗闇に紛れて、彼が気づかないように背後から忍び寄り突き落としたのです。アイツは事故で転落死したことにするつもりでした。」
そして、彼女はため息をついた。
「しかし、アイツの身体にはすでにワイヤーが付けられていて、そのまま転落させることはできませんでした。ですが、幸運にもワイヤーが首に巻き付いて、そのまま、アイツは死んでくれました。これでいいですか?」
「そうですね。あなたは殺すために彼を突き落とした。しかしワイヤーのおかげで転落死ではなく窒息死してしまったということですね」
私の言葉に水島が頷いた。
「そうです。だから水島さん。あなたは犯人ではありません」
「どういうことですか?」
「実は彼にワイヤーが絡まった時、既に彼は死んでいたのです。あなたに殺意があったのは認めましょう。しかし、あなたが突き落としたのは彼の死体なんですよ」
その言葉に水島と鈴木が驚愕の表情を浮かべた。
そして、私は鈴木を指さして宣言する。
「この事件の犯人は鈴木さん。あなたですね」
「何で俺なんだ?! さっきの話を聞いただろう? 彼女が突き落としたことで監督は死んだんだ。結果的には事故だったけどな!」
私は首を横に振って、話を続ける。
「いいえ、違いますよ。先ほども言いましたが、彼は上に立っていた時、既に亡くなっていました。あなたは水島さんが彼を呼び出したのを聞いたのでしょう。それで彼を殺害し、ワイヤーを使って彼が立っているように見せかけた。鈴木さん。あなたが絞殺した跡と重なるようにワイヤーの位置を調節してね」
「そんなの、アンタの想像じゃないか!」
「いえ、首のところにかけられたワイヤーを除いて、ワイヤーの跡には生活反応がありませんでした。それは首のところ以外のワイヤーは死後に取り付けられたことを意味します。そもそも生きていたとしたら、あの高台で彼女が背後から突き落とすことはできませんよ。彼女と待ち合わせしていたのに、何で彼女が上がってくるであろう階段部分に背を向けていたのでしょう」
「ぐっ、だが、それなら田中だってできるはずだ!」
「田中さんは動機が弱いというのもありますが、あなたが水島さんと監督が会っていたと仰ったのは、彼女に罪を擦り付けるためですよね? もし、田中さんが犯人だとしたら、逆に水島さんを庇うでしょう。この犯行が彼女が監督を殺害するという行動を前提としている以上、あなた以外に犯人はいないのです」
その言葉に、鈴木は悔しそうに顔を歪めた。
一方の水島はショックを受けたようで、驚いた顔になった後、俯いてしまった。
警察が鈴木の身柄を取り押さえ、連行していった。
後にはショックでへたり込んだ水島と彼女を慮るように見つめる田中と佐藤がいるだけであった。
水島:鈴木と付き合っていたが、天海にNTRされる。実は天海が水島と鈴木の関係をスキャンダルとして公開すると脅していた。そのため、天海の口封じをするために殺害を計画。鈴木に照明の操作を協力させる。
天海を事故死にするために、上の渡り廊下から突き落とす。会っていないと嘘をつく
田中:大道具として、天海にワイヤーを付ける。その後、天海が殺され、鈴木によってワイヤーを組みなおされる。
水島に憧れのようなものを抱いていて、水島と付き合っている天海を邪魔だと思っている。
鈴木:NTRされたことで、天海と水島に恨みを持つ。また、元大道具だったが、田中に奪われたことで、こちらでも恨みを持つ。水島の計画に協力するふりをして、ワイヤーで殺害。転落時のワイヤーの位置が合うように、また、自動的にポーズを取れるようにワイヤーを調整する。
天海と水島があっていたことを暴露する。
佐藤:水島のマネージャーだが、女優である水島と裏方である鈴木が付き合っていることを快く思っていない。
水島と鈴木の関係を暴露する。
田中が水島のことを狙っている(と思っている)ことを暴露する。
天海の日記:天海が水島を奪うために、鈴木を大道具から照明に降格させる。同時に水島と鈴木の関係を暴露すると脅して、肉体関係を持つ。水島は鈴木との関係を大事にしていることを認識しているが、肉体関係を重ねることで、完全にNTRように計画していたことが書かれている。
スイーツ探偵レイナの事件簿~女体化したらイケメンたちから溺愛されるようになったけど、事件は解決しちゃいます~ ケロ王 @naonaox1126
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