第6話 日記の秘密
渡された天海監督の日記をパラパラとめくっていた九十九川警部の顔が少しずつ歪んでいく。
そして、最後まで読み終わると、もはや変顔にしか見えないほど歪んだ顔のままため息をついた。
しかし、元がイケメンの九十九川警部、変顔になっても相変わらずのイケメンであった。
「なるほど、これは色々と捜査の前提が変わってくるな……」
「どういうことですか? 私にも見せてくださいよ!」
「お前のようなガキに見せられるような代物じゃない。内容は俺が教えてやるから、それで我慢しとけ」
「ぷぅ、子供扱いしないでくださいよ! これでも高校生なんですからね!」
何故か、私の言葉を聞いた警部が目を丸くしていた。
そして、少し視線を落としてから、再び視線を上げて口を開いた。
「はぁ?! お前みたいなちんちくりんが高校生だと? 冗談も休み休み言え!」
失礼なことを言う彼に、私は学生証を突き付ける。
それをマジマジと見た彼は、諦めたように首を左右に振った。
「わかったよ、高校生だというのは間違いない、それでいいだろ。だが、高校生でも俺たちからしたら、まだまだガキだ。さすがにこいつは見せられねえ」
「わかりました。それじゃあ、内容について教えてください」
「日記の内容だが、端的に言うと天海監督のNTR日記というところだ。誰の彼女と寝たとか、奪ってやったとか、そんな内容しか書かれていない」
「想像以上に酷い内容だった!」
「だろ? お前がガキと言うのもあるが、さすがに女の子に見せるような代物じゃねえな」
九十九川警部の粗野な言葉遣いに反して、意外と紳士的なところを見てしまったようで、少しときめいてしまった。
「俺様系ツンデレイケメンなんて反則じゃない……?!」
思わずつぶやきが漏れてしまうほどに、自分自身驚いていたことに今さらながら気付いてしまった。
「大丈夫か? 続けるぞ。まあ、ほとんどは仕事で一緒になった女優だな。時には裏方の女性だったり、男優の彼女や裏方の彼女もいたみたいだが。そして、何より水島との関係についても書かれていた」
「NTRってことは、水島には恋人がいたってことですか?」
「ああ、証言通り、水島は鈴木と付き合っていたらしい。それを天海監督に目を付けられて関係を迫られたらしいな。有名女優と裏方の交際について脅されていたらしい」
私には、それが何故脅しになるのか分からなかった。
「別に悪い話でもないかと思いますけど……」
「普通に考えればな。だが、例えば鈴木は女優を口説くような人間に見せることもできるわけだ。そうなれば、鈴木を使おうとする人間はほとんどいなくなる。恋愛関係はトラブルに発展しやすいからな。恋愛自体は自由だとしても、トラブルで仕事に支障が出るとなると二の足を踏む人間がほとんどだ」
どうやら、天海は恋人である鈴木をダシに水島を脅迫していたらしい。
「関係を拒むことはできなかったらしいが、水島は天海に気を許すことはなかったらしい。もっとも日記では妊娠してしまえば、俺の方に来るしかなくなるだろうという最低のことも書かれていたからな。酷い話だ」
この日記の内容を考えると、水島には天海を殺害する動機が十分にあったと言えるだろう。
そうなると、鈴木の証言は水島が天海を殺害するために、スクリーン裏に呼び出したと考えるのが妥当なのだが……。
「うーん、この事件つじつまが合わないことばかりだなぁ」
「そうか? ここまで来たら、水島が天海を殺害したと考えるのが妥当じゃないか? 動機も十分にあるし、目撃証言もあるし、アリバイも完璧じゃない」
「被害者の発見時の状況から考えると、彼女が暗いスクリーン裏で殺害を実行するのには無理があります。もし、彼女が犯人だとすると、恋人である鈴木の協力が必要でしょう。しかし、彼女を告発したのも鈴木です」
「しかし、鈴木は照明のテストをしていたんだろう? そのタイミングで仕掛けを作ればいいだけの話じゃないのか?」
九十九川警部の言葉に、私はかぶりを振った。
「それはあり得ませんね。そもそも、そんなことをしたら鈴木は彼女が殺害して仕掛けを施しているところを見ていることになるんですよ。それなら二人が一緒にいたというあやふやな証言じゃなくて、彼女が殺害したことを告発するのが自然です」
「そこははっきり言わないようにすることで、追及をかわす目的もあるんだろう。そもそも、彼女が犯人だと断言できるのであれば、事情聴取を待つ必要などないしな。鈴木が告発したってことは、NTRについてヤツも知っていたってことだろうし、一歩間違えば、自分が犯人として疑われかねないからなあ……」
「……何で鈴木が?」
「そりゃそうだろ。恋人を寝取られたんだ。天海を殺害する動機としては十分じゃないか? 何より、その前に大道具から照明に異動させられているしな。その原因が水島だったとしたら、殺害動機としては十分すぎる」
九十九川警部の話を聞いて、私の中でバラバラだったパズルのピースがピタッとはまるように、真実が構築されていった。
私は懐からチョコバーを取り出すと、彼に見せつけた。
「この事件の謎はとぉ~っても甘いです! このチョコバーよりもね!」
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