第7話 ノナの休日
事件から解放された翌日、ノナは探偵事務所の掃除をしていた。
ゴミや書類が散乱した事務所は人を招くことすらできない状態だった。さすがにこのままでは不味いと思ったのか掃除を始めたのだろう。
ノナはゴミの分別や本や書類の整理をテキパキとこなしていく。探偵事務所の机を掘り起こすと、この時代には珍しい木製の机だった。
「こんな良いもの持ってるのに使わないのはもったいないよね。」
そう言いながら片付けを続けていく。
探偵事務所のアドラの机付近が綺麗に片付くと、そのまますぐそばにある応接コーナーを片付け始める。
ここには衣服や書類が乱雑に投げ捨てられており、ほとんど洗った形跡もなくシミだらけなのでどんどん捨てていく。
「犬獣人って収集癖があるって聞いたことあるけど、こう言うことなのかな……?」
ノナは種族の特性については疎いので深くは考えなかった。
片付けを進めていくとソファの上に本が置いてありついつい中身を見てしまう。
「……えっちな本だった。あの人女性恐怖症……だったのに本は見るのね……。しかも、獣人のグラビア……ねぇ。」
ノナは本に写っている女性獣人の写真を見て自分の胸を確認する。
「わ、わたしだってテクニックは負けてないわよ!……何言ってんだろ……。」
ライバル心を燃やしていたが、グラビア写真相手に虚しくなってしまった。
本を処分する方に仕分けし、片付けを再開するのだった。
時間がお昼を回り、時計が十二時を告げる。
オルゴールの音色ではあるのだが、かなり軽快なポップソングのようである。
「そんな音色を奏でるオルゴールって、どこで売っているのよ?アドラさんは結構変な物を集める趣味でもあるのかしら……。」
そう考えていると、ノナのお腹が「ぐぅ」と鳴る。
何かを買いに行こうとするが、一文無しである事に気がついて膝から崩れ落ちる。だんだん悲しくなってきたのか目が潤んでくると、事務所の扉が開かれた。
「うぉ、事務所が綺麗になってる。あ……ご、ごごご飯、食べ……る?」
「お腹が空いているんです……!食べさせてくださいー!!」
外でテイクアウトしてきたのか、ニンジンたっぷりの山盛りサラダボウルをアドラは差し出す。少し照れた様子であったのがノナでも分かった。
「……あ、と。ニンジン……コーヒーも……買ってきた。ののの飲んで……いいよ。」
ノナは昨日飲めなかったニンジンコーヒーが手に入ると大粒の涙を流す。
ノナが急に泣き始めたので慌ててティッシュを持ってくる。
ティッシュを箱ごと受け取ると、鼻を「ズビーッ」と噛んだ。
「あなたは神ですか……!」
「い、いや……。そそそそんな大層なもんじゃないし……。はは早く食べなよ。」
ノナは食べるように促され、綺麗になった応接コーナーの机でサラダボウルとニンジンコーヒーを摂ることにした。
「やっとニンジンコーヒーにありつけた……。美味しい。」
「そりゃどうも。」
いつもの吃音がなく普通に返事が返ってきて、ノナは驚いた。
応接コーナーからアドラの机は直接見えないように仕切りがされており、お互いの姿は見えないのである。
(もしかして、直接姿が見えていないと恐怖症を発症しないってこと……?それなら確かにグラビア写真は写真だから見ても問題がないってことになるのかな……?)
「うさぎちゃん。そこにいるんだろ?」
「は、はい!何か必要な物がありますか?」
「これから警察署に行って、クイン……昨日会ったキツネマッチョと科学捜査班と現場立証実験しにいくから、遅くなる。机の上に昨日の報酬を置いておくから、好きに使って構わない。あと、風呂も個室も空いているから勝手にしてくれ。んじゃ、行ってくる。」
そう告げると足早に事務所を出ていく。
ノナは食事を済ませて報酬が置いてある机の上を見ると、パンパンに膨れた封筒が置いてあった。
その封筒には『ノナ殿 成果報酬』と書かれており、間違いなくノナに宛てた物である。
ゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る手に取る。
その重さはノナの人生では一度も感じたことがなかった感覚である。
(いやいや!何もしていないのにそんな沢山もらえるわけないよ!)
そう思いながら袋を思いっきり開けると箱が出てきた。
ノナの思っていた現金ではなく、白い箱だった。
「まあ、そんな美味しい話はあるわけないよね。あれ?手紙が入っている……。どれどれ?」
『親愛なるノナ殿。
この度は事件解決のために、能力の行使をしていただき誠にありがとうございます。
報酬としては少ないですが、箱の携帯端末に入金しています。現金化もできますのでご利用ください。
また、警察のクインからあなたの保護を依頼されておりますので、暫くは事務所での生活となります。クインから許可が下りたら自由の身になりますので、それまでは辛抱してください。
事務所の片付けの代金は後日、入金させていただきますので、ご了承ください。
何かと不便でしょうから、身分証の方は警察に行った時に発行できるよう、端末から入力してください。
事件解決にご協力頂き誠にありがとうございました。
獣人探偵事務所 所長 アドラ』
真面目な口調で書かれた手紙を読み終えたノナは携帯端末を起動する。
特に暗証番号は設定されておらず、すんなりと開いた。
まずは、この端末が誰の所有か調べると、ノナの名前が入っており、あの短時間でアドラはノナ専用の携帯端末を契約していたのだ。
次に、振込されている口座を開いてみる。
そして、口座に入っている金額に驚き、危うく端末を落としそうになった。
ノナは間違いがないか入念に桁を数えると、やはり間違いではなかった。
「……この金額、半年は働かなくても良いほどなのだけど……。」
携帯端末を服のポケットにしまい、両手で頬をパチンと叩く。
「よーし!アドラさんの為にもっと頑張りますか!」
ノナは気合を入れて事務所掃除をするのであった。
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