第8話 またな・サクラショウコ

サクラを僕はゆっくりとおろした。

春の暖かい夜風が僕らを包む。

時空が動いたようだ。

気づくとサクラは淡いピンクの桜模様のきれいな着物姿に変わっていた。僕はその場から足が動かない。

時の神が僕には干渉するなと、足を止めさせている。

サクラがゆっくりと彼の元へ歩いていく。

「君は昨日の桜だね。よく来ましたね。

自慢の私の庭を見に来てくれてありがとう。」

満開の桜の花びらが舞い上がる。庭の塀が消えて景色が目の前に広がる。

お池に、小さなお山、植えられた木々も配置よく、美しい。

現代人の美的感覚が鈍い僕でも引き寄せられる庭園だ。

時の神の気まぐれか、プレゼントか、時間は彼が旅立ち前の日にもどっている。

サクラには嬉しいシュチュエーションだ。

サクラは、僕といる時とは全く違う表情をしている。長い黒髪に白い柔らかい肌と新緑の緑の瞳は変わらず美しい。

30分ほど経っただろうか。

静かな、澄まし顔でサクラが静々と僕の元へ歩いて戻る。

「坂田ありがとう。」サクラが振り返るとさっきまで目の前に広がった庭園も着物の人達もみんな桜の風と共の消えた。

よく見ると、サクラは着物姿ではなく、さっきの洋服にもどっていた。

僕の足も動く。時の神の縛りが解けたようだ。

「サクラ、どうだった?」「うん。」それだけで何も言わなかった。僕もあえて聞かなかった。

「サクラ、今更だけど、サクラは桜の木なんだよな。」

キロリ、サクラが僕をにらむ。「坂田、せっかく想い人に会えた余韻に浸っていたのに、現実にもどすこと急に言わないで。ほんと、坂田はデリカシーないな。」

「ひどいな。デリカシーはあるぞ。サクラこそ、僕の前と顔が違ったぞ。猫かぶりのサクラ、お前に言われたくないぞ。」

「坂田、そんなこといちいち言わないでもいいでしょう。だからデリカシーないって言うのよ。」

僕は少しムッとした。「サクラ、僕は君の恋のお手伝いをした、いい人ですよー。

言い換えると君の恩人とでも言う人をそんなに邪見にしなくてもいいんじゃないんですか。」サクラにあたる。正直、僕の焼きもちも入っている。

反論するかと思い、構えるがサクラは黙り上を見る。夜空にまた風が、そして雨が降り出してきた。「雨。」僕は「サクラ、雨だ帰るぞ。」サクラは黙って立ったまま。

「坂田。またな。」口の悪いサクラの声が薄れてゆく。

雨が強く振りだした。満開の桜が流れて消えてゆく。

サクラ今、君はどこにいるのか。「サクラ、どこだ。」

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