第二章(2)

 駅ビルのエレベーターが混んでいたため、俺達はエスカレーターで書店へと向かうことにした。

 五階にあるその店が、この辺りでは一番大きな書店となる。

「久しぶりだなあ、本屋来るの」

「おやおやおや。そうなんですか、月見先輩」

「ああ。数ヶ月ぶりかもしれん」

「最近漫画を全然読んでない……ということではなさそうですね」

「もちろん。漫画は山ほど読んでる」

「ということはつまり」

「うむ、最近はもっぱら電子書籍だ」

 ポケットに入れたスマホを軽く叩いて言う。

「電子書籍ですか。すごいですねー。決済とかどうしてるんですか?」

「親のクレカ」

「へー。よく許してもらえましたね」

「むしろ親からの命令だ……。ほっとくと部屋が漫画で溢れかえるから、電子で買えって言われた。欲しい漫画があったら親に小遣いやお年玉を渡して、その分クレカで買わせてもらう、みたいなシステムでやってる」

 学生が電子書籍を買う上で最もネックになるのが決済の問題だろう。

 中高生ではクレジットカードを作ることができない。キャリア決済で買えないこともないのだろうけど、いずれにせよ親の許諾が必要である。

「でもそのシステムだと、買った漫画が親にバレてしまいそうですね」

「クレジットの明細には本のタイトルは載らないから大丈夫だとは思うけど……一応、念には念を入れてる」

「ふむ?」

「たとえば……ちょっと親には見せたくないラブコメを買うときとかは、バトル漫画と一緒に決済して目立たないようにしたりな」

「……それ、書店でエッチな本を買うときのサンドイッチ戦略じゃないですか。電子書籍でも可能だったんですね……」

 呆れる小鳥だった。

 それから仕切り直すように、

「いやはや、やっぱり最近の電子書籍の勢いはすごいですねー」

 と続ける。

「いや……もはや『勢いがすごい』とかじゃないですよね。それすらも通り越して『普通』になってる気がします。便利を通り越して便利と感じることすらなく日常と化してしまったというか」

「インフラとして定着した感があるよな。スマホで漫画を読むのは、現代じゃ普通のことだ」

 近年、電子書籍の普及は目覚ましい。

 販売サイトに加え、各種漫画アプリも充実している。

 スマホで漫画を読むという行為が、極めて普通の行為になり──もっと言えば、紙の本を買って読む人口よりも、スマホで漫画を読む人の方が多くなってる気がする。

「漫画の場合、とうとう電子書籍の売り上げが、紙の売り上げを超えたらしいからな」

「すごい時代ですね。私は未だに紙の本派なのですが……なんだか最近、電子書籍と戦う気すら失せてる感じですよ。『漫画はやっぱり紙の本じゃないと!』とか『紙で買った方が作者は嬉しいはず!』とか……そうやって紙の魅力を語って電子書籍に対抗することに虚しさを感じつつあります」

「戦うとか対抗するとか……もはやそのターンは通り過ぎただろう。別に紙が負けたとかってわけじゃなくて、電子書籍が確固たる地位を──一つの『普通』を手に入れた形だ」

「音楽業界でいうところの、CDと配信、みたいな話なんですかねえ」

 なんとも言えない顔で言う小鳥。

 音楽業界においても、近年はCD中心のビジネスからは大きく変わりつつあるだろう。配信やサブスク、動画サイトで音楽を聴く人間が大多数で、CDはファングッズとしての側面がかなり強くなっている。

 音楽を聴く=CDという概念は、完全に消え去ったと言っていいだろう。

 漫画はまだそこまでいってない気がするが……あるいはそれも、時間の問題なんだろうか。

「一昔前は漫画家さんも『電子は実売印税だから、紙で買ってもらった方が嬉しいです』とか言ってたような気がしますけど、最近じゃ普通に電子限定書き下ろし特典とかがあったりしますからねえ」

「もうだいぶ少なくなっただろうな、紙の方で買ってくださいってお願いする漫画家さんは。もちろん紙で売れるのは嬉しいだろうけど、それをお願いするのが変な時代になってきたっていうか」

 もしかしたらゼロかもしれない。

 なんなら──紙の単行本を出すことにそこまでのこだわりを感じてない人も増えているように思う。ウェブトゥーンなんて紙で出ないのが当たり前だし、電子限定の同人漫画だけで食べてる人もいる。

 Web連載と電子の単行本だけで完結している作品もたくさんある。

「スマホで読むことがメインになってくると、作り手としてもいろいろ考えなきゃなんないんだよなー。書面じゃなくてスマホでの見栄えや読み味を考えなきゃなんない。あんまり一ページに台詞を詰め込みすぎないようにしたり、見開き演出のやり方を考えたり」

「あー、スマホだと見開きが読みづらくなっちゃうんですよねー。ドドンという見開き演出は漫画の醍醐味の一つだと思うんですが……スマホのスワイプで読むと魅力半減ですよ」

「改めて考えてみたら……見開きは漫画が『本』だからこそ生まれた演出だろうからな。一ページずつ開いて読む形の媒体だからこそ、見開きという演出が生まれた」

「確かに。紙媒体が本じゃなくて巻物だったら、見開きなんてできませんもんね」

「媒体が変わったなら、演出技法が変わるのも必然だろう。それこそ最近流行りの縦読みフルカラー漫画──ウェブトゥーンなんかは、完全にスマホ媒体ありきの漫画コンテンツだからな」

「出ました、ウェブトゥーン。漫画の概念を覆す、新たな刺客ですね。まさか横ではなく縦スクロールで漫画を読む時代が来ようとは」

「ガラケーの時代から、似たようなのはあったらしいけどな。既存の横読み漫画を、縦スクロールで読みやすいようにコマを切り貼りしたものとか」

「考えようによってはウェブトゥーンって、巻物みたいなもんですよね。もしもこの世に巻物しか存在しなかったら、漫画はひたすら縦か横でズラズラ読んでくようになって、『見開き』や『めくり』なんて概念は存在しなかったでしょうからね」

「そもそも『スクロール』が『巻物』って意味だからな。スマホの普及で、ページで区切らずテキストがズラズラ読めるようになったことは、一部じゃ『巻物文化の復活』とかって言われてたらしいぜ」

「人類最古の紙媒体、巻物……そこから人は紙を綴じて冊子や本という概念を生み出し、その中で漫画という文化が生まれた。パソコンやスマホが登場してついに本が電子化する時代に突入したら──なんと巻物読みが復活し、まるで巻物に描いたみたいな漫画文化も誕生する……。面白いことが起こるもんですねえ」

「他にも、SNS漫画っつー文化も出てきてるな。あれも既存の連載漫画とは全然違う文化だ。雑誌連載のノリで描いてたらまずバズらない。バズる人は、投稿時間とか投稿頻度まで計算してたりする」

「もはや『漫画とはなんぞや?』って話ですね」

「だな。漫画という概念が根本から移り変わろうとしてる時代が──現代だ」

 雑誌連載して、紙の単行本を出す。

 一昔前には王道のパターンで、多くの漫画家志望がそのスタイルを目指しただろうが……スマホやSNSの登場によって漫画家を取り巻く環境は激変した。

 今じゃ雑誌連載は、一つの選択肢でしかない。

「ふーむ。老害っぽい意見を言わせてもらえば……私はやっぱり雑誌連載こそ至高だと思いますけどね」

 小鳥は言う。

 老害って。

 お前の年で老害っぽい意見を言うってどういうことだよ。

「雑誌連載こそが、漫画文化における原点にして頂点みたいな感覚です。限られた枠の中で、アンケの結果に一喜一憂しながら死に物狂いで戦い続ける。戦わなければ生き残れない。戦わなければ勝てない。常に打ち切りの恐怖と戦いながら描かれる漫画には、唯一無二の輝きがありますから」

「そりゃお前はそうだろうな」

 無類の打ち切り漫画愛好家だし。

 とかなんとか。

 長々と雑談しているうちに、ようやく目的の階へと到着した。

 この近辺では一番大規模で、一番品揃えのいい書店である。

「ふふーん、やっぱり書店はテンションが上がりますね」

 嬉々として入っていく小鳥。

 俺も続く。

 ずんずんと歩いて漫画ゾーンに足を踏み入れると、多種多様な表紙が目に飛び込んできた。無数の漫画本が本棚に並び、人気作は平台に展開される。

 そして人気作の中でもさらに選び抜かれた存在は──特別コーナーがつくられて大々的に展開されていた。小さなタブレットでは放映中のアニメの映像が流れ、デカい手作りPOPで彩られている。

「……ふーむ」

 書店に来るのが久しぶりだから、この手のコーナーを見るのも久しぶりだ。

 漫画家を目指し始めた頃──中学に入学したぐらいの頃は、書店に来て『いつか俺も、こんな風に展開してもらえる大ヒット作品を生み出してやる』と意気込んでいた気がする。

 でも今は、どっちかと言えば『いつか俺も、販売サイトのバナーで大々的に宣伝してもらえるような大ヒット作を生み出してやる』とか考えてるなあ。

 無意識で電子書籍での販売戦略思考になってる自分がいる。

 いいんだか悪いんだかは、わからないけれど。

「お」

 なんとなく書店を見回していると、最近のイチオシ漫画を発見した。

『タキオンくんは速すぎる』

『コメット』本誌ではなく、同じ出版社がやっている『コメットアルファ』という漫画アプリで連載している作品だ。

 略称は『タキハヤ』。

 とある事情により光速より速く動けるようになった主人公──おんりゅうの日常を描いた、ドタバタナンセンスコメディ。

 少年の学校生活や人間関係に重点を置いた日常系でありながら、時折呻るようなSF要素もある。一言では説明できない唯一無二の面白さを秘めた傑作だ。

 俺が今、一番推している漫画である。

 一話を読んだ瞬間からハマった。毎週、更新を楽しみにしている。普段は十一時までに寝るようにしてるが、この漫画が更新する日だけは十二時過ぎまで起きているぐらいだ。

 今はまだそこまでの人気はないようだが、一部からは高い評価を得ている。

 世間に見つかって大ヒットするのは時間の問題だろう。

 アニメ化した後に『俺はこの漫画、一話を読んだ瞬間から売れると思ってた』と古参ヅラできる日が、今から楽しみである。

「なにやってるんですか、月見先輩。こっちですよ」

「ああ、悪い悪い。『タキハヤ』の単行本見つけてさ」

「『タキハヤ』ですか。月見先輩、本当に『タキハヤ』好きですよね」

「ああ。こいつは確実に来る。令和を代表する傑作と言っていい」

 話しつつ、小鳥の後に続く。

 大々的に展開されてる人気漫画のゾーン……には一瞥もくれずにスルーして、書店の奥へと入っていった。

「おい、小鳥。目当てのやつは今日発売なんだろ? だったらもっと、目立つとこにあるんじゃないのか」

「……甘い。甘いですね、月見先輩。きな粉に黒蜜をかけたぐらいに甘いです」

「ただの信玄餅じゃねえか」

「私が買う本はですね……往々にして書店の目立つところには存在しないんですよ。発売日だろうと棚差しなんてザラなんですよ」

 誇らしげに言う小鳥。

 いや、誇らしげに言うことじゃないだろ。

 今日書店に来た理由は──小鳥が漫画を買うためだ。

『暗黒ワールド』

 週刊漫画雑誌『コメット』で連載していたが、少し前に打ち切りとなって終わった。

 全二十六話。

 その完結巻となる三巻が、今日発売となっている。

 今日、その本を買いに来た。

 小鳥はここ数日、ずっと楽しみにしていたようだった。

「ああ、そうか。近くの書店じゃなくてわざわざデカい書店に来たのは」

「……ええ、そうです。私が欲しがる本は、近所の小さい書店じゃまず配本されてこない可能性大なんですよね。一巻は売ってたのに二巻から売ってないとか、これまで何度経験したことか……」

「だったら通販使ったらいいんじゃないのか?」

「無粋なこと言わないでくださいよ。こうやって書店に来て探すのも、漫画という文化を楽しむ上での醍醐味じゃないですか」

 電子よりも紙の本派で、通販よりも書店派。

 ずいぶんとまあ、古き良き購読スタイルでいるようだった。

「『暗黒ワールド』の完結巻……楽しみですねえ」

「作者のSNS見たけど、結構単行本書き下ろしがあるらしいな」

「ええ。……まあ、その情報が作者SNS発信だったことに、私は切なさを感じずにはいられないですが。『コメット』公式アカウントは全然宣伝してくれませんでしたね。人気作の宣伝ばっかりで」

「……そういうこと言うなよ。いろいろあんだよ、出版社にも」

「一応申し訳程度に発売のお知らせはしていましたが……その宣伝の文章が、ネット上でイジられてる『暗黒ワールド』の構文を利用した形だったんですよね……。いやー、複雑ですよ、私は。公式がそういうネットミームに乗っかってくることに対してとても複雑な感情を覚えるタイプの愛好家なんですよ、私は」

「面倒くせえ性分だなあ……」

 気持ちは若干わかるが。

 打ち切り漫画の中にはなにかとネタにされる作品もあるけど、公式がそれに乗っかってくると切ない気分にはなる。

 いや公式だけは作者の味方でいてやれ、公式だけはネタ漫画ではなく傑作漫画扱いしてやってくれ、という気分になる。

「まあ、なんにしても楽しみです。『暗黒ワールド』、雑誌じゃ全部ぶん投げて終わりましたから。ヒロインの過去も、五話で主人公の台詞にだけ出てきた『あいつ』という存在も、これといった説明がないままです。十三話で主人公が初期設定を思い切り無視した言動をしたのは伏線だったのか、単なるミスだったのか。あと連載開始一話のカラーページにいたけど、本編には一度も登場しなかったキャラ達は、いったいなんだったのか。ああ、楽しみですねえ。今からゾクゾクしてきますねえ。完結巻の単行本書き下ろしで、どれだけの伏線を回収してくれるのか」

「そこまでハードルあげてやるな。かわいそうだ」

「もちろん、書き下ろしで全ての謎が明らかになるとは思ってないですよ。そもそも打ち切り漫画の単行本書き下ろしなんて、作者にとってはタダ働きみたいなものですからね。新規に書き下ろしていただけただけで、とてもありがたいことです。仮に書き下ろしでさっぱり謎が明らかにならずとも、それどころかさらに謎が深まるばかりだったとしても、私は一切文句は言いません。書いてくださってありがとうございます、と心から感謝をするだけです」

「……そこまでハードル下げられても逆にかわいそうだよ」

 打ち切り漫画に理解がありすぎるだろ。

 人気漫画にはボロクソ言うくせに。

「さあ、早く『暗黒ワールド』の初版本を探さなければ。人気漫画はすぐ重版しますけど、私の好きな漫画は大体初版しかないですからね。いつ書店から消えるかわかったもんじゃありません。買い逃したら終わりなんですよ」

「そういうこと言うなよ。打ち切り漫画でも、作者の次回作がヒットするとたまに重版かかったりするから」

 二人で目当ての本を探す。

 発売日にもかかわらず目立つところにある可能性が低いらしいので、本棚を中心に探した。

 しかし──

「あ、あれ……?」

 困惑顔になる小鳥。

 ない。

 見つからない。

 本棚を隅から隅まで見渡しても、『暗黒ワールド』の最新巻は見当たらない。念のため、目立つ平台のゾーンも探してみるが、そこにもない。

「ない、ない、ない……。そんな、どうして……?」

「最初から仕入れてないか……あるいは、すでに売れたってことか?」

「売れた!? 『暗黒ワールド』の最終巻が!? そんな、バカな……!?」

「いや、そこまで驚いちゃ失礼だろ」

 売れることだってあるだろう。

 売ってるんだから。

「だって今日、発売日ですよ……? まさか、発売日の夕方にもう売り切れてるなんて……」

 愕然とする小鳥。

「作者さんの親戚が、この辺に住んでるんでしょうか?」

「……おい。失礼だぞ」

「これは……ミステリーですよ。一昔前に流行った『人が死なないミステリー』ってやつです。不人気で打ち切りになったはずの漫画の単行本が、発売日に書店で売り切れている……なんという怪奇現象。月見先輩、この謎、二人で解き明かしましょう!」

「だから失礼だっての!」

 売れることもあるって!

 売ってるんだから!

「まあ、打ち切り漫画の完結巻だし、最初から配本が少なかったっていうのはあると思うけど」

「うえー……予想外ですよぉ……。まさか『暗黒ワールド』がここまでの人気を獲得していたなんて……。私ぐらいしか好きな奴いないだろうな、と思ってたのに。このクセの強い面白さを理解できるのは私ぐらいだと悦に入ってたのに」

「とりあえず、店員さんに聞いてみるか? 表に出してないだけで裏にあるかもしれないし」

「そうですね。じゃあお願いします、月見先輩。私、店員さんには自分都合で話しかけられないタイプなので」

「……偉そうに言うな」

「もっと言うと、探してる本を店員に聞くという行為が……もはや羞恥プレイだと思ってるタイプです。探してまで読みたい本……それはもう、その人間の極めてパーソナルな部分に踏み込んでるじゃないですか。そんな心の秘部を、見ず知らずの店員に晒すなんて……恥辱以外のなにものでもありません」

「……本当に面倒臭い奴だなあ、もうっ」

 書店は好きなのに、書店員とのコミュニケーションはNGなのかよ!

 こう見えて実はコミュニケーションに難があるタイプなんだよな、こいつ。

 親しくなるとめちゃめちゃしゃべるけど、親しくない人相手には凄まじくを気を遣って遠慮するタイプというか。

 比較的暇そうな店員さんを探して、『暗黒ワールド』のことを尋ねてみるが、やはり在庫はないらしい。

 配本はされていたが、すでに売れてしまったそうだ。

「……ずーん」

 一旦書店を出て、空いていたベンチに座った小鳥は落ち込んでいた。

 わかりやすく落ち込んでいた。

 ずーん、って口で言ってるぐらいだからな。

「……通販サイトでも、あちこちで売り切れてるな。SNSを見てると、難民が結構発生してるみたいだ」

 俺としても結構な驚きだ。

 打ち切り漫画の最終巻ということで、部数は相当絞られていたと思う。

 だから売り切れ=圧倒的な人気というわけではないのだろうが……それなりの数の読者が買ったことは間違いない。

「……完全に予想外です。『暗黒ワールド』のポテンシャルを舐めていました。駆け抜けるように打ち切られてしまいましたが、まさかこんなに隠れファンを抱えていたとは」

「よくも悪くも一部でバズってたからな。ネタ扱いされてたっていうか。打ち切り決まってから一巻買いだした人も、結構いるらしい」

「くっ。おのれぇ……打ち切り漫画をネットでネタ扱いするときにだけ活き活きとする奴らめ……! 人が一生懸命描いた漫画が打ち切られたことを、イジって遊んでネタにして拡散するなんて……それでもお前らに人の心はあるのか! そのイジりに愛とリスペクトはあるのか……!?」

「……いや、お前も打ち切り漫画をだいぶイジってた側だろ。『暗黒ワールド』が巻末に来たとき、嬉々としてネタにしてたじゃねえか」

「客観視するに、これは同族嫌悪という感情と思われます」

「わかってるならいい」

 いや、ダメか?

 自覚ある方がタチが悪いのか?

「あー、完全に私の失態です。こんなことならきちんと取り置きをお願いしておくんだった……。店員さんに『へえ、取り置きしてまでこの本を手に入れたいんだ、この女』って思われる恥辱に耐え、きちんと取り置きしていれば……」

「まあ、最悪電子で買えばいいだろ」

「嫌ですよぉ……。私、一、二巻ちゃんと紙で買ってるんですから。私の部屋の本棚は最終の三巻が差されることを、今か今かと待ちわびてるんです」

 深く落ち込む小鳥だったが、

「……よーし!」

 数秒後に勢いよく立ち上がった。

「こうなったら虱潰しですよ、月見先輩! きっと私のようなファンに買われることを待っている単行本を、どうにか見つけ出してやりましょう!」

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