空の雲 side足立

今日も、めちゃくちゃ暑いのに外周かよ〜と言い、ダラダラと走るチームメイトを他所に、俺は体育館から解放され外周を走るのは割と好きで、陸上部だった頃を少しだけ思い出し、なるべく正しいフォームでちゃんと走っていた。

離れてみた方が良さが分かるというか、もう、決められた通りに走ったりしなくて良いと思うと、気楽に走る事が出来た。バスケ部の今の方が、走る事を純粋に楽しいと思える。

刺さるような陽射しを浴びてとにかく暑いけど、空は高く、爽快だった。


ハッハッって小さな呼吸に気付いて、ふと横を向くと、七瀬が居た。

驚きは、すぐに喜びに代わり、自分でも笑顔が零れるのが分かった。

「外周?」

まさか同じタイミングで外周なんて、嬉しい!しかなくて。

しかも、オレの走り方を見て気付いて追いかけて来てくれたと分かり、喜びで顔がニヤけそうなのを必死で取り繕った。

彼を肘でコツンとすると、初めて触れた事に心の中では、まさにガッツポーズだった。

馴れなれしい、こんなやり取りに、嫌われやしないかと、内心ではドキドキしていた。

たった一瞬の事に、これ程まで心が踊るとは、思わず…小学生か?ってくらいのウブさに自分でも驚いた。

俺がそれなのに、榊原ときたら、気軽に思い切り七瀬に腕を回しやがって!

俺は少し触れただけなのに。

なんて…思う自分に、ハッとした。

こんな嫉妬心…しかも相手は七瀬の友達。別に恋人でも何でも無い相手に…まさか、自分が嫉妬を向ける日が来るとは思わなかった。

彼女がいた事はあるけど、嫉妬される事は多々あっても、めんどくさいだけで、何で嫉妬なんてするんだろう…と思っていたのに。


校庭から大声で叱責され、ヤバっと言いながら走り去る七瀬を…ずっとずっと見ていた。

本当に綺麗な走りだった。

オレが憧れていた走り、そして、遠くにしか眺めれなかったその走りは、今は間近に見れる事を改めて喜びとした。


休憩のタイミングで、オレは蒸し風呂状態の体育館を抜け出す。

今日も沢山の女子が群がり、入り口を塞いでるから、風が全然入らない。

扇風機も回してるけど、熱い空気を掻き回しているだけだった。


何処か涼める場所は無いかと探していると、先客が校舎の影で休んでいる。

その先客は七瀬だった。

オレは近付いて行く、隣に座れる事を淡く期待しながら…

彼は俯いていて、覗いて見えたつむじが、可愛い。

撫で回したい…と思いながら…

嫌われるのは怖いから、そんな安易に触れる事はしないけど。

触れたい…その気持ちを抑えるのは結構ツライ。



隣に座る許可を貰い、浮き浮きする心で彼の隣に腰を下ろす。

彼は突然、雲が日本列島に見えると言い、俺も空を見上げた。

確かに見えない事も無いが…北海道が無くねぇか…と、そのままの突っ込みを入れた。

「あれだよ?」

すると傾いた七瀬はオレの腕にピタリとくっ付き、空を指差した。

あれが北海道だと。

突然肌と肌が触れた事に、ビクリとしてしまったオレは、北海道の形がどうとかの問題では無い。

ピタリと合わさった場所が異常に熱い。


俺から触れる事は無いように気を付けたのに、彼はその壁をヒョイと越えた。

それはそうだ、彼には俺のような気持ちは無いのだから。これが彼にとっての友達との距離感なんだろう。

このまま、ずっと触れて居られたら良いのに…という願いは、あっけなく閉じられた。

彼は立ち上がってしまう。

行ってしまう…と、寂しく思って居ると

「今度、マック行かない?」

向こう向きのまま言われ、七瀬の表情が分からない。


え?また、一緒にあんな楽しい時間が持てるのか?…でもな、女子の視線が煩かったし、本当は、2人きりで会いたい…

しばらく考えてしまい、彼がこのまま立ち去るのでは無いかという焦燥に駆られ、思い切って

「オレの家に来ないか?」

って誘ってみた。

振り向き、満面の笑みになる七瀬が、可愛すぎて、照れ隠しに笑ってしまう。

むくれる七瀬は、本当に可愛かった。

からかってしまいたくなるなんて、子どもっぽいけど…可愛いと思ってしまうんだから、仕方ない。


帰りがけ、そして家に着いてから、何度も何度もスマホを確認した。

去り際に連絡をくれるって言ってたから。

もう、オレから連絡してしまおうかと思った時、通知音が鳴った。

そしてアプリを開いて、彼からのメッセージを読んだ時、これは…夢かと思ってしまう。

そのまま、言葉にして送ってしまった。

そしたら、まさか!写メが貰えるなんて。

推しの写真を待ち受けにする女子の気持ちが分かった。まさに家宝だ。

しかも、パジャマ?あどけない姿に、思わず眼を覆ってしまった。

すると…眼を閉じた暗闇に、俺の家で、パジャマで転がる彼を想像してしまう。

なにを妄想してんだオレは…


七瀬とのLINEは、楽しく、くすぐったいような甘さで…


さすがに待ち受けには出来ないので、彼の画像を自分のフォルダに大切に保存した。お気に入りマークを付けて。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る