告白 side足立

オレは、七瀬の家の階段を登り始め、会いたい気持ちだけを胸に、脚を動かした。

勢いだけで、ここまで来たけど。

とにかく会って、話をしなくては…って思ったのはいいが、会うことだけしか頭に無かったから、その後の事については、実は全くのノープランだった。


とりあえず、何故避けられてるのか聞いて、俺が何か嫌われるような事をしたのだとしたら…それは真摯に謝らなくてはイケナイ。

そして、出来ればまた、一緒に過ごしたい、これだけは絶対に伝えなくてはならない事。

でも、それすら拒絶されたら…

せっかく会いに来たのに、階段を一段登る度に、気持ちが乱高下する。

来た事を少し後悔しながらも…軽くノックする。

「どうぞ」…って声を聞いて、ドアノブにグッとチカラを入れた。


驚愕する彼を見て、途端に足がすくむ。

そうだよな…って、思った。

勝手に家の場所を聞いて、しかも、何の連絡も入れずに、突然来るなんて、迷惑以外の何ものでも無いな…って。


真っ白になりかける頭で

「オレは…どうして避けられてる?」

やっと、絞り出した切なる言葉。

返ってきた返答は、オレが好きな人に告白しないのは、七瀬が邪魔してるからなんて、訳の分からない事を言われた。

七瀬の思考が全く読めない。

キスなんてした時点で、ある程度気付いてるかも…って思ったオレが甘かった。

本当に七瀬は、オレが親切心でキス講座をしていたと思っていたようだ。

しかも、そのせいで、時間を取られ、好きな人に告白出来ずに居たと思っている。

一緒に過ごすのが楽しくて居たというのは、伝わって無かったという事か…義務感みたいな物だと思われていたのが少しだけ悲しくなった。

確かに、告白出来ない理由は、彼だけど…それは、振られるのが怖いっていう、オレだけの理由だから。


更に七瀬は、絶対に想いは成就するから告白しろ!って、スマホを寄越してくる。


避けられていた理由が、嫌われたり、怒らしたんじゃないと分かり、気持ちが盛り返してきた上に、変なとこで体育会系のオレがニョキニョキと出てきてしまう。


「分かった」

七瀬がそう言うなら、告白してやろうじゃないかって、変な闘争心スイッチが押されたオレは、スッと心が決まった。


それでも、スマホを操作する手は、若干震えてしまう。

七瀬の目を見つめて…耳に当てると、鳴る通話音が、ものすごく長く感じる。

自分のスマホが鳴り、オレからだと分かったのだろう、キョトンとしながらも彼は、ボタンを押したようで、通話が成立した。


勢いだけで、いきなり告げる

「オレは、七瀬が好きだ」


沈黙と共に、彼が頭の中でオレの言葉を反芻してるのが分かった。

オレは、真剣な眼差しで、穴が空くほど彼を見つめる。

友達としてなんかじゃない、本当に好きなんだと…目で訴える。

腹を括ったオレは、ちゃんと気持ちを届けたかった。

今度は通じただろうか?


あと、どうしても知りたかった、七瀬が好きになった相手。

決死の思いで聞き、返ってきた答えが

「好きな相手が居ないなんてかっこ悪いから、嘘ついた」

なんて、可愛い過ぎんじゃねぇか?

ほっとしたのも束の間、次の言葉が刺さる

「でもさ、俺、オトコだぜ?」

その言葉に、さっきの勢いは、どっかに消えて、男を好きになるなんて、気持ち悪いって思われたのかもしれない…って、急に弱気になる。


好きな相手に強く出れないのは、男も女も関係無くて、惚れたもんの負けだって痛感しながら、気付いたら、ごめん…気持ち悪いよな…って、謝っていた。

正直、引かれた…って思った。


なのに…

「そんな事ない!だって、足立のキスは、気持ち悪いどころか!気持ち良かったくらいだから!」

そんな言葉を言われ、耳を疑った。

気持ち良かっただって?

スマホが滑り落ちる。

オレの中の獣が、行けと言った。

次の瞬間には、ベッドに押し倒し、オレの両手は、彼をシーツに拘束していた。

彼の驚愕の表情を見て、切れかけた理性を手繰り寄せ、唇が触れる直前で止めた。


「キスしても良いか?」

って聞くと、ダメとも良いとも返事が返って来ない代わりに、ゆっくりと目を閉じてくれる。

こんな可愛い七瀬を前に、我慢できる人間が居たら…ぜひとも教えて欲しい。


そこからは、夢中で…何度も何度も七瀬の柔らかな唇に自分の唇を押し付けた。これ以上は、ダメだ…って思う自分と、もっともっとと…せがむ自分が、せめぎ合い翻弄される。


薄く唇の隙間が出来たのを良いことに、舌を差し入れる。拒否されるかと思ったら、小さくも応じようとしてくれてる…と思ったのは、エゴかも知れないが。


合間に聞こえる甘い吐息に脳が痺れる。そんな声を聞かせて貰えるなんて思って無かったから、スマホで録音でもしとけば良かった…って、何度でも聞きたい程に、その声はオレを夢中にさせた。

下半身に熱が集まるのは分かったけど、恥ずかしい気持ちは無く、理性で抑えることも出来なくて。

既に理性は、とっくに手放していたから。

ボタンに手をかけようとした時、オレの身体が押し戻された。

唇端から伸びたオレと七瀬を繋ぐ糸が、妙にいらやしくて、ドキリとした。


喘ぐように息をする彼から、好きだけど友達としてかもしれない…と言われて、全く関係ないね…って思えた。

オレは、もう、さっき七瀬に好きだと伝えた時に、完全に吹っ切れていた。

あとはオレの全身全霊で好きを浴びせるだけ。

押して押して…押しまくるつもりだから。


そして七瀬に、滾る物が下半身にある事がバレてしまった。

オレとしては、この間の女からされたキスに、全く反応しない時点で、まさか不能になったかと、少しの不安があったのが解消されて、つい口をついて出ただけだったけど。

七瀬がヤキモチみたいな事を言ってくれ、天にも登りそうだった。

なんだか、自分の良い方にばかり捉えてしまうのは、先程の甘い行為のせいだろう。


「覚悟しておいてな…」

七瀬の耳元で囁いたのだった。

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