言葉は消えた

教えるよ?って言われてから…

俺は…頭の中でしばしば、足立とキスをする自分を想像してしまうようになってしまった。

かき消そうとしても中々消えてくれず、しかも想像する頻度は、増すばかり。

教えるよ?は、キスの事なんかじゃないと思うのに、俺の妄想が止まらない。



あれから、部活終わりに一緒に過ごす事が増えた。部活の終わり時刻が、似てるのもあるのだろうが、待ち合わせしてる時で無くても、帰りが一緒になる。

夏休みの部活は、午前で終わる事も多々あるから、そのままマックに行ったり、ゲーセンに寄ったり、家にもお邪魔したり…ほぼ毎日にも近いペースだ。

流石の俺も部活後の汗臭い足のまま、家に上がるのだけは、気が引ける。

そういう時は、一度家に帰ってから行くようにしている。


数回会った足立のお母さんは、これまた、とんでもない美人だった。

けれども、少しだけ冷たい印象残す、人を寄せ付けない感じもあって、会話は弾む事無く、挨拶だけに留まった。


二人でマックに行っても、コーヒーをストローで、吸う足立の口元をつい、ジッと見てしまう自分が居て…

バレないように、数秒内には何とか視線を剥がして、あとは頭の中で今見た映像を、留めるみたいにしてる。

俺は、一体どうしてしまったのか…

エロい事ばかり考える中学生並に、足立とのキスの事ばかり考えていて、本当にヤバいと…自分でもハッキリ分かってるのに、止められない。

想像するだけなら…と思いつつも、何となく足立に、悪い気もして…

正直、コントロール出来ない自分を持て余していた。



その日も、足立の家にお邪魔し、彼の部屋で、2人並んでベットを背もたれにして、本を読んでいた。

テーブルの上のお菓子をつまみつつ、

俺はバスケ漫画を借りて読んでるところで。


そして、何故か…家で会う足立は眼鏡姿の事が多くて、コンタクトを切らしてるにしては、午前の部活の時に会うと眼鏡じゃないし…

考えてもよく分からないけど、俺的には、俺しか知らない足立が見れたみたいで、優越感しか無かった。

今日は午前が部活で、その汗を流すのにシャワーを浴びたからなのか、すぐ隣の足立から、シャンプーのとても良い香りが漂う。

なるべく香りに意識が向かないように、俺は漫画に集中した。


「あー、これ、マジで面白いわぁ〜最高!」

読み終わり、身体をウーンと伸ばして両手をベットに落とす。

そのまま顔だけ捻り、本棚を見ると…

あれ?今読んでる漫画の続きの巻が無い。

反対側へとまた顔だけ捻って、頭はベットにもたれ掛けたままで、足立の方へと向いた。


「なぁ…次の巻ってある?」

「ん?あ、それなら…昨日読んでベットの上に置いたまま…」

って、足立が俺の上に半分覆い被さるようにして、上へと手を伸ばした。

その時、足立からのシャンプーの香りが一層強くなり、俺の目の前には足立の髪が、サラリと落ちた。

喉元が見え、顔が近くなった俺は自然と眼を閉じ、香りの元を辿るようにクンクンと嗅いで

「めちゃくちゃいい匂いなんだけど…足立って、どこのジャンプーつかっ…」

突然、俺の言葉は消えた。


唇には、暖かく柔らかな何かが、触れている。

眼をそっと開くと、足立の長い睫毛と色素の薄い瞳が目の前にあった。

一瞬、今の状況が掴めなくて。

離れていく足立から出たセリフは

「こんな感じ…分かった?」


今の、もしかして…え?キスの練習って事?この間言っていた。本当に?

急に始まってしまったキス講座に、俺の頭はついていかない…


「分かんない…」

俺は今の状況が、分からない。と言いたかったんだけど…

すると、足立からは

「眼…閉じて」

と言われ…今度こそ、ハッキリ何をされるか分かっていながら、俺は瞳を閉じた。

さっきよりも長く…離れる時に寂しさを感じるような…甘い口付け。

念願の…何度も想像していた足立との口付けは、俺の想像を超えていた。


ゆっくりと眼を開くと足立が見えた。

彼は何事も無かったかのように、俺にハイって続きの漫画を渡すと、再び自分も読書を再開した。


俺は受け取った漫画を開きながらも、全く内容が頭に入ってこなくて。

繰り返し繰り返し…先程の行為が脳裏に蘇る。

白昼夢かと思い、再び、横で本に目を落としてる足立を見つめた。

俺の視線に気付いたのか、足立は、パタンと小説を閉じ、掛けていた眼鏡と共に、机に置いた。

それは、何かの合図というか、切り替えのスイッチというか…

こちらへ向き、手を伸ばしてくる、その手は俺の後ろ頭に添えられた。

されるがままの俺、期待してる俺。

真正面から近づいてくる美しい顔。

鼻がぶつかるって思ったのに、避けるのでは無く、鼻先同士を擦り合わせるようにして、緩く唇をくっ付けると、最後に軽く下唇をまれた。


「なんか…テク全開で、怖いっす足立先輩…」

真っ赤になってるのが分かり、もう、ストップをかける俺

「いや、ごめん…物足りないのかと思って」

ちょっとトイレ…って部屋を出ていかれた。


一人部屋に残された俺は、その場で思いっきり悶絶した。

ゴロゴロ転がりながら…

一言で言うと、ユメミタイ…

あんな美男子からのキス、むしろ普通でいられたらびっくりだろ!

男同士ってとこ、どっか飛んだ!!

いや、ダメなのか…本当は。

付き合ってもいない、ただの友達、しかも男同士…


でもな…全く嫌じゃなかったし、なんならオカワリお願いしてしまったし…

うん、凄い良かった…味わった事の無い世界を見せてくれて、ありがとう…足立先輩。

彼の優しさ?男気?みたいな物に甘えてるけど…普通の友達同士ではしない行為は、特別な物に思えた。



トイレから戻った足立は、そのまま小説を読みふけり、その日は、もうそれ以上の触れ合う事は無かった。



二人の関係は…もちろん友達だし、他のナニモノでも無いのに…

足立の部屋で、俺が彼を見つめると…

それが合図みたいに、足立が眼鏡を外し机に置くと…急に始まるキス講座。


あれから何度、唇を合わせただろうか。

最初は、それだけで満足していたのに、貪欲になる俺は…もっと深いヤツをしたら、どんな感じだろうか…なんて、とんでもない事を考えるようになってしまった…ごめん。



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