終業式の次の日…side足立

夏休み初日からの部活を多少めんどうだと思いながらも、重い脚を動かし、自分のロッカーに入れっぱなしのバッシュを取りに、誰も居ないはずの教室に入った。

目に飛び込んだのは、誰かが俺の席に居る光景…


オレの席に伏せているのは、密かに想いを寄せている相手。

クラスメイトの七瀬だった。

幻しでは無いかと思い、ゆっくりと近づくと、聴こえる寝息に現実だと知った。


風そよぐ中、毛先を踊らせている。

彼を目下にし、触れたい衝動と闘った結果敗れたのは、オレの欲望。


指先で…その踊る髪の毛を梳いた。

閉じた彼の瞼が一瞬揺れた。


行ったきりの指をそのまま、机に置くと、トントン…軽く弾いた。


「そこオレの席なんだけど…」

なるべく普通に言うのは、努力が必要だった。


慌てて謝る七瀬に対して、つい口をついて出たオレの言葉は


「オレの席に座ってるから、オレの事…好きなのかと…」

強風に煽られたカーテンが塞いでくれて助かった言葉を、オレはそのまま亡きものにした。


キョトンとする七瀬の表情で分かってしまったから。

他意無く、座っていたのだと…


自分でも分かる程に耳が熱くなっていて、失敗を隠すように

「明日の試合頑張って…」

吐き出すように言うと、その場から逃げ出した。


部活終わりに、少しの淡い期待を持ちながら、教室を再び訪れたが…

もちろん彼は居なかった。

ガッカリする自分を慰め、家路に着いたのだった。

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