セッション35 偏執

「……ったく、また死ぬ羽目になるとはな……」


 これで三度目だが、まだ死ぬのは慣れないな。

 翼を畳み、ステファ達の前に着地する。翼は背中に溶けるように消えて行った。一度生やしたら生えっ放しなのではなく、こうして自在に出し入れ出来るのだから、『有翼』は便利なスキルだ。これで寝返りに困る事はない。


「……それで、改めて確認したいのですが。貴方が阿漣ジンベエさんのお孫さんでしょうか?」

「ん? そうだが? 俺様に用か?」

「用っつーか、あんたに捜索願が出てんだよ。それで僕達が依頼として引き受けたんだ」

「捜索願だと?」


 イタチは少し考えると、渋い顔をした。


「飯綱会長からか。あの馬鹿め、俺様の事は放っておけと言った筈だぞ。祖父さんも俺様の生き死にについて責任を取らなくて良いと言っていたと伝えたろうに」

「というと?」


 僕の促しにイタチは頷き、


「俺様は覇王なのだ」

「覇王……ですか……」


 そりゃまた壮大に浪漫のある話だな。


「だが、誰に俺様が覇王だと言っても信じん」

「そりゃそうだろ」


 だって覇王じゃないじゃん、お前。

『総長のお孫様』の社会的地位は高かろうが、覇王を名乗れる程ではない。


「しかし、そこで民衆の蒙昧さを責めるのは王の器ではない。故に、俺様は覇王に相応しい実績を得る事にした。その為にはまず独り立ちせねばならん。『総長の孫』ではなく、『阿漣イタチ』として確立するのだ。会長の所に寄ったのは顔馴染みに挨拶しに行っただけの事。断じて、会長を頼っての事ではない」

「ああ、そういう……」


 覇王云々は大袈裟だが、要は自分の面倒は自分で見ると言いたいのか。飯綱会長の心配は大きな世話だった訳だ。ステファと同じで発起心の強い奴だな。僕には眩しいわ。


「そうは言っても、友人の孫の危機を見て見ぬふりは出来ねーだろ」

「ふん。この俺様が道半ばで死ぬ筈がなかろう。もし死んだとしてもそれは俺様の器がそこまでだったというだけの事。他人が気にする必要はないし、介入する資格もない」

「頑固な事で」


 発狂内容:偏執病パラノイア、といった所か。偏執病の症状には誇大妄想や異常な支配欲があるからな。

 どうにも面倒臭そうな奴だな。あまり関わり合いにならない方が良さそうだ。


「まあ、その辺の話は会長本人と話してくれ。こっちとしちゃあ、お前を連れて谷から脱出しなきゃ仕事にならねーんだ」

「良かろう。と言いたい所だが、少し待て。連れがいる」

「連れ?」

「ああ。――そこだ」

「そこ?」


 イタチが指差した先、案山子が崩れ落ちた所には、いつの間にそこにいたのか一人の人間がいた。

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