セッション34 再三
「藍兎さん!」
熱い。火の勢いが強い。炎が僕の肉体を燃やしていく。肌が黒い炭へと変わっていく。息が出来ない。吸い込んだ空気が熱過ぎて肺も喉も焼けてしまった。「熱い」という情報以外が脳から消え失せ、その脳も真っ暗闇に落ち――意識が、遠く――
「少し待て! ――海神。ダーグアオンを冠するもの。渦巻く絶唱。逆巻く絶叫。波頭は砕け、
イタチが何やら言っているがもう遅い。
僕はここで焼け死に、
――――ドクン!
音なき衝撃と共に生き返った。
「――『
案山子が膝を突く。それとほぼ同時に渦潮が案山子を襲った。回転する水流が案山子の四肢をへし折りながら鎮火を果たす。案山子が弱った隙を突いて僕は檻を蹴破り、案山子の体外に脱出した。
「はあっ、はあっ……助かった!」
「うむ。感謝せよ」
「藍兎さん! 御無事ですか!?」
ステファが四つん這いで蹲る僕に駆け寄る。イタチは腕を組んで悠然としていた。お前、もうちょっと僕を心配しろよ。燃やされたんだから。
「しかし、頭斬っても死なないな、こいつ」
「全ての木材をバラバラにするしかないのでしょうか?」
「骨の折れる作業だな。ちっ、俺様の手を煩わせおって」
言いながらイタチが剣を鞘に納める。戦意を喪失したのかと思いきや、彼は弓矢を取り出した。矢を番え、引き絞られた弦に込められた戦意はむしろ逆。今か今かと待ち構える猟犬の如しだ。
「切り崩していくなら足からだな」
「だな。僕がもう一回飛んで注意を引き付ける。その隙に足を」
「了解」
「今度は助けんぞ」
「あいよ。――行くぞ!」
案山子の顔面を目掛けて飛翔する。イメージはそう、イタチが持つ矢の如く。案山子の頬ギリギリを擦り抜ける。顔に迫る何かを無視出来る者はそう多くない。案山子の視線が僕を追う。
「『
同時、イタチの矢が解放された。魔力の込められた矢は案山子の右足に命中し、足首が粉微塵に吹き飛んだ。矢が当たった程度とはとても思えない、まるで大砲の様な威力だ。己が戦果を確認しながらイタチは疾駆する。
一方の左足にはステファが剣を叩き込んでいた。両足を失った案山子が自重を支えられなくなり、膝を突く。
「もういっちょ!」
案山子の後頭部に急降下でキックを喰らわす。前のめりになった案山子の脇腹を左からステファの剣が切り裂き、右からイタチの矢が穿つ。
「G――G……!」
案山子が低く呻く。だが、ここで手を止める僕達ではない。
上から僕が、右からイタチが、左からステファが案山子の首を断つ。三方向から同時に攻撃を受けた首は胴から離れ、地面に転がる。
「――――」
案山子の身体を構成していた木材がばらばらと地面に落ちる。ようやく体力が尽きたのか、あるい実は首が弱点だったのか。それは分からないが、散乱した木材は再び結合する事はなく、案山子は二度と動かなかった。つまり、
「……おし、勝ち!」
僕達の勝利だ。
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