セッション36 三護

「ううむ、興味深い……何故こんな所に巨大な人工物があったのか……一体誰が作ったのか……そして、何の為にここに配置したのか……あるいは自律して此方に来たのか? ……玉虫色の光を纏っているという事は、第七焼け野との関連性は否定出来まい……であれば、ひょっとすると五〇〇年前、この谷を作った原因が此奴という事も……」


 その不審人物は蹲り、案山子の木材を調べていた。エンドレスで独り言を続けている様は何とも気味が悪い。


「おい、三護。その辺にしておけ。帰るぞ」

「三護? 三護ってもしかして……」


 イタチに言われ、不審人物が身を起こす。

 人物は少年だった。イタチよりも更に幼く、どう高く見積もっても十歳程度。羽織った白衣は明らかにサイズがあっておらず、ズルズルと引き摺られていた。頭髪は赤毛を三つ編みにしている。ショタ感全開な格好だ。


「言っておくが、三護はもう米寿近いぞ」


 ショタではなく、ショタジジイだった。 

 ……って重要なのはそうじゃなくて。


「まさかお目当ての人物が総長のお孫様と一緒に行動していたとはな……」


 これはイタチの捜索依頼を受けて正解だったな。三護の身に何か起きていたらクエスト失敗だった。人生塞翁が馬だな。


「しかし、三護って老賢者って話だろ? とても年寄りには見えねーけど」

「ミ=ゴの正体は人型ではないそうで。人前に出る際には人間を装うのですが、その装いは死体を加工したものだと言われています。若い見た目なのは死体は年を取らないからだと」

「げ、あれ死体なのかよ?」


 趣味悪ぃなあ。


「何じゃ。汝、道徳家か? 子供の死体を弄るのに嫌悪感でもあるかの?」

「いや道徳家って訳じゃねーけど……」

「言っておくが、ゾンビとはまた違うぞ? 本体の我は生きておるでな。生体式のゴーレムと言えば、多少は聞こえも良かろう?」

「ゴーレムねえ……」


 確かにゴーレムは粘土以外を材料にしても作られるけどさ。

 この世界のショタジジイは設定がえぐいなあ。ステファがそんなに嫌悪感見せてない所を見ると、これが今の世の普通なのか。食屍鬼の食人習慣が受け入れられてたり、昔と比べると色々ギャップがあるな。



 ――――ああ、それとも。

 冒険者は魔術師と同義だ。魔術を覚える度に人は発狂する。狂気を重ねた果てに倫理観がグズグズに崩れてしまったのかもしれない。



「……まるでフランケンシュタインの怪物だな」


 ふと、ある怪物を思い出した。

 英国の小説『フランケンシュタイン』、「理想の人間」を作ろうとした物語。しかし、それは死体を繋ぎ合わせるというおぞましきものだった。そんな方法で生まれたモノが真っ当な結末に至れる筈もなく、物語は悲劇に終わるのだが、そこは自分で読んで確かめて欲しい。


「フランケンシュタイン? 何じゃ、それは?」

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