セッション25 新技
「分かりません。藍兎さんに心当たりは?」
「ねーんだな、これが。僕も僕が蘇生した理由が分からねー」
「ふむ……」
ナイが右手を顎に当てて考える。
「『
「ん? ああ、いいぞ」
ナイに教典を渡す。ナイは教典を開くとスキルのページを開いた。
「藍兎さん、『有翼』なんて持っていましたっけ?」
「え? 持ってねーけど。何、そんなのあんの?」
ナイに見せて貰ったら、確かにスキルのページに『有翼』と記してあった。
「何だこりゃ? 前に見た時はこんなスキルなかったぞ」
以前から持っていたスキルは『
転写する度に逐一発狂して大変だった。今はもう治療が済んでいるけど。
そして、『有翼』は持っていなかった筈だ。
「『有翼』は空を飛ぶ為のスキルですね。文字通り翼で飛ぶ生物が持っているのですが。
ナイが言うには、空を飛ぶスキルは幾つかあるらしい。鳥類なら『有翼』、亡霊なら『浮遊』と飛び方によって分かれているのだとか。
「それを僕が? なんで?」
「さて……? そういえば、藍兎さんを殺したワイバーン、少し体積が減っていましたよね。……ワイバーンを喰らってスキルを奪ったとか?」
「その際に命も奪って生き返ったってか? まさか」
食屍鬼には吸収能力があるが、可能なのは寿命や魔力等数値に換算出来るものだけだ。スキルまで奪える程チートではない。ましてや生命を奪って蘇生するなど不可能だ。死んだ後では喰う事も出来ないのだから。
「しかし、実際にワイバーンのスキルを持っているのも事実。メカニズムは分かりませんが、藍兎さんにスキルと生命を奪う能力があると見ていいでしょう」
「ふーむ」
本当にそうだろうか。しかし、否定する材料もないしな。
まあ、結論が出せない以上この件は保留だな。
「もし際限なくスキルを奪い続けられるのだとしたら――今日、ステファさんを勇者、シロワニ様を魔王と例えましたが――本当に魔王と呼ばれるに相応しいのは貴方かもしれませんね」
「は? 僕が魔王に? はは、御免だね」
そんなキャスティング・ボートを握るようなポジションは遠慮願いたい。僕はもっと適当に、脇役のままで生きていたいのだ。
「そうですか。まあ、こればっかりは成り行きもありますので、何とも言えないのですが」
「だな。精々そうならねー事を祈るばかりか」
室内に目を向ける。ワーワー騒いでいたのがギャーギャー騒ぐようになっている。枕だけでなく調度品や装備品まで投げ出すのも時間の問題か。
「……そろそろ止めるか。器物破損で店に訴えられたくねーし」
「そうですね。やれやれ、本当に面倒臭い娘らで」
二人して肩を竦めつつ、僕達は室内に戻った。
◇
その日の夜、また夢を見た。
漆黒の闇の夢。以前見た時はここにいたのは僕とお嬢だけだったが、今はもう一頭いる。
飛竜だ。僕を噛み殺したあの個体だ。
何故こいつがこの闇にいるのか。ナイが推測した通りなら、僕が吸収したからか。僕がこいつの生命とスキルを奪ったから、登録された様にここにいるのか。
飛竜は動かない。お嬢と同じだ。眠っているのか死んでいるのか、傍からでは分からない。眠っているだけなら、いつか目覚める時が来るのだろうか。
分からない。まだ何も。
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