セッション24 枕投

「なーんで」


 その日の夜、選んだ宿屋にて。


「シロワニ達と一緒に寝なきゃいけないんですかー!?」


 ステファの抗議の声が響いた。


「仕方ねーだろ。客がいっぱいで他の部屋が空いてねーっつーんだから」


 入った宿屋はほぼ満員であり、空いている部屋は俺達四人なら泊まれる数のベッドがあるという事で相部屋する事になった。四人で割り勘すれば宿代も浮くという事もあるしね。節約節約。

 その代償に予想通りステファが駄々を捏ねる羽目になったが。


「運良く空いてる宿屋が他にあるとも限らないだろ。つーか、この宿屋だけが混んでるって事はねーだろ。他の宿屋も大体同じ状況だと思うぞ」

「でもぉ……うー……」


 頬を膨らませ、なおも抗議を続けようとするステファ。

 普段聞き分けがいいこいつがここまで引き下がらないのは珍しい。それだけ帝国やニャルラトホテプに敵対意識を持っているという事なのだろうが。……暴力に訴えてこないだけマシか。


「枕投げするよー!」


 と帝国の娘が元気良くに提案して来た。

 ステファと対照的に楽しそうだな、あいつは。空気が読めないのだろうか。いや、あれは空気が読めないのではなく、あえて読んでいないのだ。あの満面の笑みはステファの反応を楽しんでいる顔だ。性格悪いなー。


「あのですね、敵国同士の私達がそんな暢気に遊んでていいと思っているんですか。というか、そもそも枕は投げるものではな――」

「えーい♪」


 ぼふん、とステファの言葉が投げ付けられた枕によって遮られる。

 落下した枕の下から現れたのは、青筋を立てたステファの引き攣った笑みだった。


「ふぬぁーっ!」

「あはははは!」


 そして始まる枕投げ合戦。互いの枕を投げ合い、投げ付けられた枕を拾って投げ、それを繰り返す。投げ交わす度に枕の速度が上がって行く。

 いかん。巻き込まれる前に避難しなければ。ベランダに逃げよう。


「いやー、幼いですね、二人とも」


 ベランダに行くと、ナイも付いて来た。


「お前は参加しねーのかよ、若人?」

「ははは、そういう藍兎さんこそ。年は離れているようには見えませんが?」

「あー……まあ、肉体はな。かと言って酒も入ってねーのにはしゃげるかよ」


 素面で枕投げに興じれる程メンタル若くねーわ。


「ていうか、お前そもそも幾つなんだ?」

「二十一歳です。シロワニ様とは九歳差もありますよ」

「九歳差かあ。若い頃の九歳差はデカいよな」


 小学生高学年と大学生程の差があるからな。一緒になって遊ぶ気にはなれまい。


「ところで、藍兎さん。昼、貴方一度死にましたよね?」


 と唐突にナイが話題を変えて来た。


「……あー、アレやっぱり僕、死んでたのか」

「ええ。確かに生命活動を停止していました。私は武闘家ですので、他人の『気』――生命力の流動に敏感なので気付きました」

「そうなのか……」


 そうか、僕は死んだのか。飛竜に噛まれて絶命していたのか。

 薄々そうじゃないかなとは思っていたが、改めて自分の死を突き付けられると衝撃がデカいな。しかし、それよりも衝撃的なのは、


「どうやって生き返ったと思う、僕?」


 今もなお生きている事だ。

 心臓は動いている。呼吸もしている。つまり今の僕は生ける屍リビングデッドではない。一度死んだというのなら、そして死んだままではないというのなら、それは生き返ったという事だ。

 だが、蘇生とはそうそう簡単に出来るものではない。ステファに聞いた事があるのだが、蘇生を行うには神クラスの実力が必要なのだという。現在の魔術師にはそこまでの者はおらず、使い手はいないそうだ。

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