セッション21 急襲
「勧誘だよ」
「勧誘? 誰の?」
「ギルド本部の長、全ギルドを纏める者――
人外種族の一つ。魚人の一種で、若い頃は人類と変わらないが、年を経るにつれて肉体が魚に近付いていく。若年期でも蒼海色の瞳で人類と区別が出来る。
ダーグアオン帝国の民はこの深きもの共が支配層だ。というより、深きもの共が集って出来たのが帝国だ。かくいうシロワニも深きものである。
「でも、総長は帝国の所属じゃなくてね。というか、どこの国にも所属していなくてね。その癖、権力は強い。その辺の個人ならともかく、帝国としても無視出来ないんだよ。可能なら味方にしておきたい位に」
「総長に帝国に恭順しろと、そう言いに行くのか?」
「……総長が応じるとは思いませんが」
「わたしもそう思う。五年前の事件もあるし」
「五年前?」
何だそれ。
「ちょっと事件があってねー。わたし、当時七歳だったからよく知らないんだけど」
「シロワニ様」
「ああ、うん。まあこっちの話って事で。でさー、交渉なんだけど。無駄だと思ってても行かなくちゃいけないんだよねー。無駄かどうか実際にやってみなくちゃ納得しないって人が帝国にも多くてさー」
「ああ、分かる分かる。やる気とか挑戦とかに矢鱈拘る奴っているよな。『やってみなくちゃわかんない』とか言ってさー。コストの無駄遣いだって予想出来ねーのかねー」
「ほんとそれ。もっと賢く生きて欲しいよねー」
「藍兎さん、敵と意気投合しないで下さい」
ステファに睨まれてしまった。
「あー……って事は、途中までは一緒の馬車なんだ」
「ええ。房総半島手前までは御一緒します。そこから私達は北へ、そちらは南に向かう事になりますね」
「そっか。じゃあ、そこまでよろし――」
「話の途中ですまないが、
「…………!?」
御者の声が馬車内に響き渡る。その直後、乗客の中でも物々しい連中が一斉に馬車の外に出た。ステファもナイもだ。
「えっ、えっ、何? 何だ?」
つられて僕も外に出る。と、そこには、
「SSSYAAAAA――ッ!」
空を飛ぶ爬虫類がいた。
象よりも巨大な体躯。鱗に覆われた全身。細長い首に細長い尾。馬に似た頭部。背中には一対の翼を生やした怪物が空中で
しかも、一匹や二匹ではない。二十を超える爬虫類が空を占領していた。こちらを睥睨している四十以上の瞳。当然、友好的である筈がない。獲物を見付けた捕食者の目だ。
「さあ! 応戦しますよ、藍兎さん!」
「応戦って、僕達にアレを倒せって事か!?」
「はい。冒険者には有事の際に戦力になる事で、馬車の料金が安くなるサービスがあるんです。ですから、冒険者の乗客はこうして皆して戦うんですよ」
「成程……」
このサービスによって冒険者は馬車を安く使え、バス側は冒険者を護衛に雇う費用が抑えられるという訳か。良く出来た商売だな。
しかし、戦闘か。ここ数日、ローパー討伐に際してステファと一緒に、それなりに実戦には参加して来た。武器は刀。戦い方を知らない訳じゃない。だが、ローパーはEランクの冒険者でも倒せる雑魚エネミーだ。それをいきなり竜を退治しろと言われても自信がない。
というか、そもそも動く物を殺す事にまだ慣れていない。こちとら一〇〇〇年前のサラリーマンだぞ。屠殺の経験すらねーわ。
「来ますよ、藍兎さん!」
「お、おう!」
クソ、うだうだ考えている暇はなしか。
「こうなったらやるだけやってやるか!」
「SSSSSY――ッ!」
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