セッション20 旅行

 神官。確か帝国の宗教家はそういう風に呼ばれているんだったか。導師を頂点として、大神官、神官長、神官の順に地位が高い。大神官となれば幹部クラスだ。


「……ん? あれ、大神官? お前、『ナイ神父』って呼ばれてなかったっけ?」

「カソックを着ている事から付いた渾名みたいなものでして。大神官が正しいです。神父ではありません」

「神父じゃねーのになんでカソック着てんだ?」

「趣味です」


 …………そうですか。趣味ですか……。


「この男のこういう所が嫌いなんですよ。神父は教会うちの称号なのに、敵対宗教の人間が名乗っているなんて」


 ステファが歯を皿の字にして怒りを示す。宗教家の気持ちは僕には分からないが、神官が神父と呼ばれているのは確かに変だった。


「まあまあ。そして、こちらにおわす御方が――」

「――シロワニだよー。よろしくねっ」

「藍兎。古堅藍兎だ。で、こっちの不貞腐れているのがステファ」

「ステファーヌです。余所余所しくステファーヌと呼んで下さーい」


 言って、更にそっぽを向くステファ。愛想の良い普段とは別人の有様だ。


「何でそんなに仲良く出来ねーんだよ、お前」

「そりゃあ仕方ありませんよ。片方はダーグアオン帝国の皇女で、片方は大帝教会の信者ですから」


 当事者達に代わりにナイが答える。


「帝国は一〇〇〇年前、邪神と共に人類に戦争を仕掛けた張本人達。対する教会はその帝国に誰よりも抗った尖兵です。その両者の末裔同士が顔を合わせているのですから、そりゃあ穏やかではいられませんよ」

「そんなもんかねー……」

「将来の勇者と魔王が相乗りしている、と言えば状況が分かり易いでしょうか」

「ああ、成程。そりゃ仲良く出来ねーな」


 勇者と魔王は争い合ってこその関係だものな。ステファが即抜剣しようとしたのも頷けるというものだ。

 だがまあ、あくまで例えは例えだ。他の乗客がいるのだから、この場では抑えてくれないと困る。


「ミイラ君はどこに行くの?」

「ミイラ君? 何です、それ?」

「あ、いや……おい、シロワニ」

「えへへ。嘘嘘、何でもないよ」


 僕がミイラ呼ばわりされた事に怪訝な顔をするステファ。僕はシロワニを睨むが、彼女は悪戯っぽく舌を出して笑った。この餓鬼め。


「それで、藍兎達はどこに行くの?」


 それでも、こうやって話題を変えてくれる辺り、一応内緒にしてくれる気はあったようだが。ナイに伝言を頼んでおいて助かったか。


「飯綱会に、ちょっと依頼をこなしにな」

「何の依頼?」

「それは言えねー。一応守秘義務とかあるしな。そっちはどこに行くんだ? ……ていうか、勝手に城を抜け出したら皇帝ちちおやに怒られるんじゃなかったのか?」

「ああ、それ? 私の独り言、よく覚えてたねー。でも、大丈夫。今回は仕事で出て来たんだもん。御目付役にナイも付いて来させたし」

「仕事?」

「ギルド本部に用があってね」


 ギルド本部は旧茨城県にある施設及び組織だ。

 冒険者ギルドを始め、宅配ギルド、傭兵ギルド、商工ギルドといった全てのギルドを統括している。国家ではないが国家レベルの財政力を持ち、東日本のどの国にも何かしらのギルドはある為、各国に対しても強い影響力を持っている。


「……帝国が何の為にギルド本部に行くんですか?」

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