セッション18 食人
「藍兎さんにとっては帰郷という形になりますか?」
それは、国民の大半が食屍鬼――この僕の身と同じ種族で占められているという事だ。
人外種族の一つ。一部のファンタジー作品では
「帰郷っつっても、僕は自分の村がどこなのか知らねーからな。房総半島行っても帰郷になるのかどうか分からねーよ」
「ですか。そういえば、藍兎さんって全然人肉食べませんね」
「食べたいと思わねーからな。別に栄養摂取なら普通の家畜で充分だし」
食屍鬼が人肉を喰らうのは、自己の拡張の為である。食屍鬼の消化器官は特殊であり、喰らった相手の栄養素のみならず、寿命や魔力までも吸収出来るのだ。出力の強化には上限があるが、貯蔵量は喰らえば喰らう程に上がって行くのである。
お手軽に成長出来るという点には興味がない訳じゃないんだが、やはり抵抗はある。肉体が食屍鬼とはいえ、僕の心は人類だ。僕が人を喰らったら共食いになってしまう。
「そういえば、ステファは食人についてどう思ってんだ?」
「人が人を食べるのは引きますが、鬼が人を食べる事については言える事もないですね。
文化の違いね。そういえば日本でも明治維新前までは牛肉や馬肉を食べる習慣はなかったと聞いた事があるが、今のこれもそれの延長線上にあるのだろうか。食屍鬼には『食葬』という考えもあるらしいから一概には言えないか。
「もうすぐで掃除が終わりますから、ちょっと待っていて下さい」
「ああ」
ハタキやらモップやらの掃除道具を片付けるステファを部屋で待つ。しばらくすると、ステファが戻って来た。
「で、房総半島まではどういうルートで行くんだ?」
「基本的にはバスですかね。馬車が出ていますので、それに乗り継いでいく事になります」
この時代、自動車なんてものは当然なく、あるのは馬車だけだ。動物が動力である為一度に長距離は移動出来ず、途中途中の駅で乗り継いでいくしかない。個人で馬車を購入すれば乗り継ぎは不要になるが、専用車は値段が高くてとても手が出せない。
「瞬間移動が使えれば楽なんだがなあ……」
「空間転移の事ですか? 確かに覚えていれば馬車を使う必要もないでしょうけど……ないものねだりしても仕方ないですよ」
「だろーなー……言ってみただけさ」
空間と空間を繋ぎ、距離がどれ程離れていても一瞬で移動できる魔術は実在している。
「飯綱会に着くまで何日も掛かりますので、今日は準備だけで出発は明日にしましょう」
「了解。まずは食料の買い込みだな」
駅周辺は大抵宿場となっているのだが、運良く宿屋が空いているとも限らない。そもそも道中何が起きても不思議ではないのがこの時代の旅だ。野宿の準備もしておかなくてはいかないな。
「そんじゃま、お使いイベント始めますか」
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