セッション17 次元
「良いのか? 僕達が持ち逃げするかもしれねーぞ。魔導書って高く売れるんだろ?」
「その辺はキミ達を信用しているからね。キミ達を、というよりはキミ達の性質をと言うべきだけど」
受付嬢がニタリと笑う。
「ステファ君は一日一善の狂気に蝕まれている。それはつまり、悪事を為せないという証明になる。そして、キミは面倒臭がりだ。下手に犯罪を犯して余計な面倒を背負うよりは、地道でも気楽に稼ぐ方を選ぶ。そういう性質だ」
「良く御存知で。……しょーがねーな、引き受けるよ」
あの日以来、ステファとはコンビを組んでいる。
これといって取り決めがあった訳でもなく、なあなあで続けている関係なのだが、これが意外とウマが合う。やりたい事が定まっているステファと特に方針がない僕とで、ステファに付き合って冒険者する僕という構図となっている。
「有難う。で、届け先なんだけど」
受付嬢が一枚の用紙を取り出す。
「この住所だね。ここに住んでいる
「了解」
用紙と魔導書を受け取り、『
教典のアイテム収納機能だ。
「三護って人はね、魔術オタクで有名なのさ。もしかしたら性転換の魔術も知っているかもね」
「ふーん」
そうか。まあ人伝に聞いた話など信用出来ないが、しかし、今まで性転換のせの字も見付けられなかったのだ。そんな中でようやく得た情報というだけでも確認するに値する。
「期待しておくよ。有難う」
「いやいや。お土産話、待っているよ」
◇
「――という訳で依頼を引き受けて来たけど、構わねーか?」
宿屋に戻るなりステファに訊く。彼女は宿屋の掃除を手伝っていた。一日一善のノルマとしての活動だ。
「ええ、いいですよ。グッジョブです、藍兎さん!」
「あいよ」
ステファの同意を得られてホッとする。ありえないが、断られたらどうしようかと思っていた。
最近知った事だが、依頼を受けている間はステファの調子が落ち着く。仕事をしている事自体が誰かへの奉仕と繋がり、一善と見做されるからだ。であれば、依頼は可能な限り受けた方が良い。
「届け先は、飯綱会でしたっけ?」
飯綱会。
旧千葉県にある組織。飯綱家当主が会長として頂点に立ち、傘下の組が結託、各村の管理をしている。家族的繋がりが強いというか、ヤの付く自由業みたいな組織だ。洋風を取り入れた朱無市国とは異なり純和風を保ち、保ち過ぎて戦闘職が侍や忍者しかいないという始末になっている。
更に、この国には別の特徴がある。それは、
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