セッション14 賢明

「そう緊張しなくてもいいですよ。私の用事は人探しですから」


 ナイはそう言うと、


「シロワニ・マーシュという少女を見ませんでしたか? 金髪が目立つ女の子なのですが」

「シロワニ?」


 それって昨日会ったダーグアオン帝国の皇女の事だよな?


「そいつなら昨日、あっちの山道にいたぞ。人狩りだっつって盗掘屋を皆殺しにした。その後、父親に勝手に城を抜け出したのがバレるって言って、どこかに行っちまったけど」

「何と、そうでしたか。その口ぶりだと今頃は城に戻っていますね。入れ違いになったか……」

「父親にバレたんだ?」

「ええ。そこで皇女を探してくるよう私が派遣されたのですが」


 そりゃ御愁傷様だったな、シロワニ。


「情報提供、有難う御座います。では、これで」

「あ、ああ……本当に何もしないで帰してくれるんだ?」

「勿論。言ったでしょう。交渉の余地がない訳ではないと」


 ナイはさらりとそう言った。……これはステファは殴られ損だったか?


「それに、貴女からはどうも妙な気配しますので」

「妙な気配だと?」

「ええ。無闇に手を出してはならない……事前情報なしに戦ってはならないという本能からの警鐘が聞こえます。つまりは勘です」

「…………?」


 ナイが何を言っているのか分からない。僕からどんな気配がするっていうんだ?


「しかし、貴方は賢明ですね」

「え、何が?」

「私に挑まない事ですよ。実力差を認め、自棄にならない。なかなか出来ない事です」


 そうだろうか。プライドがないだけだと思うが。

 …………。


「な、なあ……シロワニって話が通じる方か?」

「? まあ、そこそこは。興味のない相手には冷酷ですが」

「じゃあさ、駄目元でいいから伝言を伝えてくれねーか? 『僕はどっかの村の出身って事にしているから、ミイラの事は内緒にしてくれ』って」

「分かりました。伝えておきましょう」


 では、と言い残してナイが立ち去る。

 その背中を見送り続け、完全に見えなくなった所で肩の力を抜いた。


「ふう……」


 ……あいつ、僕が話を聞かなかったら躊躇なく僕達を殺していたな。笑顔は柔和だったが、殺気は本物だった。敵意も害意もなく、笑顔で人を殺せる人種。あれが人間のニャルラトホテプか。


「さて、荷物持ちとして付いて来た訳だが……」


 背後に目をやる。そこには、ステファが気絶して横たわっていた。

 息はある。だが、まだしばらく目を覚ましそうになかった。


「……最初に持って帰る荷物が、ステファになるとはな」


 辺りに人家はなく、通り掛かる者もいない。

 どうやらステファは僕一人で運ばなくてはならないようだ。

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