セッション13 秒殺

「おや、名乗りは必要ないようですね」


 青年――ナイが柔和な笑みを浮かべる。対して、ステファはこれ以上ない程蒼褪めていた。


「誰だ?」

「私と同じ、他国の人間ですよ」


 僕の質問に答えながらステファはナイから視線を外さない。

 否、外せないのだ。警戒するあまり視線が固まってしまっている。


「西日本全域を支配する大国・ダーグアオン帝国。帝国の軍部には通称『帝国四天王』と呼ばれる五人の幹部がいまして、彼はその内の一人です」

「四天王なのに五人いんのかい!」


 四という数字を何だと思ってんだ。


「あはは……ええ、こちらでも誰が四天王から除名すべきか口論の毎日でして。ですので、最近では『五渾将ごこんしょう』と名乗っています」

「ああ、うん……その方がいいよ」


 余計な見得張って仲間割れとか笑い話にしかならないし。


「藍兎さん。彼と会話しない方がいいですよ。彼もまたニャルラトホテプですので」

「えっ、ニャルラトホテプってモンスターだけじゃないのか?」

「あれもモンスターですよ、人の形をしているだけで。ニャルラトホテプは憑依する器を選びません。それこそ生きた人間さえ器にしようとします。通常なら器側にも意思がありますので、滅多に成功しませんが……」

「私のように波長の合う人間はニャルラトホテプと一体化する。そういう事です」


 成程なあ。ニャルラトホテプ、奥深い。


「『帝国四天王』……いえ、『五渾将』でしたか。『五渾将』は全員がニャルラトホテプです。一人残らず交渉の余地のない、化け物ですよ」

「酷いですね。化け物である事は否定しませんが、交渉の余地がないというのは言い過ぎですよ」

「問答無用! 大帝教会の使徒として、貴方をここで討ちます!」


 ステファが剣を構える。突きの構えだが、ナイは間合いの外だ。あれでは届かない。どうする気だ?


「『剣閃一突ケンセンヒトツキ』――!」


 ステファの剣が輝き、突きがビームとなる。ビームはナイまで届き、その頭部を狙う。だが、当たらない。ナイはビームを掻い潜ると、一息でステファの懐にまで接近した。


「――『旋鼠掌センソショウ』」


 ナイの掌打がステファの腹部に吸い込まれる。到底拳が当たった程度とは思えない轟音が響き、ステファの身体が旋回しながら遠くに弾き飛ばされる。地面に落下したステファはビクンビクンと痙攣しながら伏したままとなった。


「……おや、死にませんでしたか。思っていたより丈夫ですね」

「ステファ!」

「次は君ですね。君は私の話を聞いてくれますか?」


 ナイが髪型を直しながら僕に振り向く。

 やばい……こいつ、実力が段違いだ。

 戦うどころか、逃げる事すら出来ない。仮に僕一人で逃げても瞬く間に追い付かれる。僕やステファでは何をやっても敵わないというのが今の一撃ではっきり分かってしまった。

 気付けばローパー達の姿もない。ナイの強さに怯えて、とうに逃げたのだ。

 どうする……? いや、どうしようもねーぞコレ。


「……応えられるかは、内容によるけどな」

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