セッション12 実戦
ステファに連れられて着いた先は市国の郊外にある草原だった。
一〇〇〇年前、ここには疎らながらも民家があった筈だ。だが今、目の前にあるこの場所には何もない。だだっ広い草が生い茂っているだけだ。住人どころか人っ子一人いない。……これも時間の流れか。
「どうしたんですか?」
「……いや、何でもねーよ。それより、ニャルラトホテプってのは何だ?」
先刻、訊きたくとも言えなかった事を訊く。ステファが受付嬢と話していた時は周囲の目を気にして口には出せなかったが、ここならステファ以外は誰もいない。訝しがられる心配はない。
ニャルラトホテプ。響きは可愛らしいのだが。猫の鳴き声みたいで。
「ニャルラトホテプというのは、モンスターの一種です」
「
「中には違うのもいますが、モンスターの大半はニャルラトホテプです。大半な一方で正体は一切不明。分かっているのは、ニャルラトホテプそのものは幽霊の様なものであり、実体がない事。その為、常に何かに憑依している事だけです。
……幾つかの異名は彼らを知る手掛かりになると言われています。『千の貌』、『強壮なる使者』、『月に吼えるもの』――『這い寄る混沌』」
「ふーん、『混沌』ねえ」
良く分からない。
まあ
「例えば、今回の依頼で討伐を頼まれたニャルラトホテプは……ほら、あれ」
ステファの指差す方を見れば、何やら緑色の触手の固まりがいた。しかも複数。その場で触手を伸ばしたり縮めたりしている。
「あれはグリーン・ローパー。蔓にニャルラトホテプが宿ったモンスターです」
「はあ、
ニャルラトホテプが牛に宿れば
しかし、最初に遭遇したモンスターがスライム等ではなくて触手とは意外だ。うねうね
「先も言った通り、ニャルラトホテプは単体では実体がないので、こうやって――」
ステファが剣を抜き、ローパーの一体を斬り払う。上下に真っ二つにされたローパーは淡く光ったかと思うと、ただの蔓に戻った。
「――憑依している器を壊せば霧散します。霧散したニャルラトホテプがどうなるかは完全には解明されていませんが、しばらくは悪さしないとされています」
蔓は地面に落ちた切り、もう動かない。ステファの言う通り、無力化したようだ。
「QQQQQ――ッ!」
同胞を殺された他のローパー達が怒り、ステファに攻撃を仕掛ける。鞭のように振るわれたローパーの触手がステファを四方八方から襲う。
「――『
その悉くをステファが斬り伏せた。
一瞬だった。何本もの光の線が走ったかと思ったら、ローパー達が触腕ごと切り裂かれていた。ダメージを負ったローパー達はただの植物として大地に還る。
「……ステファってもしかして結構強い?」
「いやあ、全然。Eランクも納得の弱さですよ。ローパーが私より更に弱いだけです」
「ふーん」
などと話している間に、同胞がやられた気配を察知したのか、違う所にいたローパーがわらわらと集まって来る。
「依頼された
「え? 僕にも戦えって? いやいや、僕はいいよ」
「でも、私がいつも傍にいる訳でもないですし。一人で戦えるようになった方が良いですよ。ほら、剣を貸しますので」
「えっ、うーん。そうか……うーん、でもなあ……」
新しい事とかチャレンジとか苦手なんだけどなあ、僕。億劫というか臆病というか。ああでも、確かに戦闘には慣れていた方がいいかなあ。この先、いつまでもステファを頼りにしている訳には行かないし……。
でも、モンスターとはいえ生き物を殺すのはかなり抵抗があるな。刃物も怖いし、反撃も痛かろう。うーむ……
「――――すみません。あまり我が同胞をいじめないで頂けますか?」
「!? 誰ですか!?」
突如、第三者の声が割って入った。
声のした方を振り向く。そこに立っていたのは、一人の青年だ。白髪に浅黒い肌。顔つきは美丈夫と言って差し支えない。カソックを纏っている事から聖職者である事が伺える。が、首から下がっているのは十字架ではなく、三つ目を意匠としたアクセサリーだ。
「『ナイ神父』……!?」
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