セッション10 魔法

 受付嬢に案内された先は施設の一室だった。

 分厚い石壁に窓はなく、間内は狭い。日差しの入らないこの部屋では蝋燭の明かりだけが頼りだ。中央には一人分のテーブルがあり、椅子も一つだけだ。テーブルの上には何かの装置が置かれていた。ペンが備え付けられているから、書記系の代物だろうか?


「何ここ。いきなりこんな所連れて来られて怖えんだけど」

「あはは……実際、嫌な部屋ですよね。拷問室に似てて。魔術を覚えるには仕方ないんですけど」

「というと?」


 ステファが僕に椅子に座るよう促す。座ると、彼女が僕の隣に立った。


「まず、魔術が何なのか教えます。

 魔術は則――魔法を操る技術の総称です。魔力を用いて火を起こしたり、物を凍らせたり出来ます。また、身体能力を一時的に強化したり、毒に対する耐性を得たりする事も出来ますね」


 攻撃系、バフ系、パッシブ系か。バフがあるならデバフもあるんだろうな。


「……なあ、性転換の魔術ってねーか?」

「性転換ですか? ありますけど……あれは錬金術の最上位ですよ。習得はそう容易い事ではないと思いますけど……」

「そうなのか……」


 いやでも、あるにはあるんだな。ふーん。ちょっとこの世界でも目標出来たかな。

 しかし、使になろうっていう僕が魔術まほうを覚えるっていうんだから皮肉というか奇縁を感じるな。


「男になりたいんですか、藍兎さん?」

「あー……まあ、少し興味がな……」

「そうですか。いえ、趣味は人それぞれですものね。ええ、否定しませんとも!」

「ああ、そう……有難う……」


 趣味というか、それが元の正しい形というか。まあ説明しなくて良いか。


「また話の腰を折っちまったな。それで?」

「あっはい。それでですね、魔術を習得するには魂に器官を加える必要があります。空を飛ぶ為に翼が必要なように、水中に居続ける為にエラが必要なように、魔術を使う為には専用の器官が必要なのです。それで、その器官をどうやって作るのかと言いますと」


 ステファの指が教典を示す。教典は装置の左側に置かれていた。


「『冒険者教典カルト・オブ・プレイヤー』を使用します。この魔導書のページに魔術の情報を書き込むと、書を通じて魂に情報が刻まれます。それが器官です」


 聞けば、魔術を習得する度に身体能力も上昇するとの事だ。器官の生成――魂の変質が肉体にも影響を及ぼすのだとか。レベルの概念がない世界だから急に強くなる事はないのかと思ったが、そういうシステムなんだな。


「魔術の情報を得るには他の魔導書から書き写す方法と、神様を信仰して見返りとして頂く方法の二種類がありますが――」


 ステファが自身の教典を取り出し、装置の右側に置く。


「――今回は私の教典から書き写します」

「何から何まで済まないな」

「いえいえ。それに、注意しなくてはならない事があります」


 それは、

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