セッション9 教典
「はいはーい」
受付嬢が取り出したのは一冊のハードカバー本だ。ステファが受け取り、今度はそれを僕に渡す。
「はい、プレゼントです!」
「悪いな。お礼をするっつって付いて来たのに奢って貰っちまうとは」
「いえ、これで私の一日一善のノルマも達成できましたので。ウィン・ウィンです! えへ、えへへ……えへへ……」
「……そうか。心底難儀な体質だな、お前」
本当に発狂しているんじゃなかろうな、こいつ。
「んで、これが冒険者の証か?」
「はい。これが魔導書『
ステファから渡されたこの本は冒険者の身分証明書にして必須アイテムだ。自分の能力や装備品の確認、スキルの習得、アイテムの収納、他冒険者との通信など冒険者に必要な機能がこれ一冊に全て入っている。
アイテムの収納スペースは冒険者ランク(依頼の成功数に応じてランクが上がる)に比例する。ステファの冒険者ランクは最低のEなので、あまり多くのアイテムを持ち運べない。そこで荷物持ちの僕の出番という訳だ。
「……どれどれ……」
早速、本を開いてみる。僕の情報は一ページ目に記載されていた。手に取っただけで、こんなにもパッと僕の情報が載るなんて便利過ぎる本だ。誰が考案して、誰が開発したんだろう。
冒険者ランクはE、職業は盗賊、所属は空欄、種族は食屍鬼。……食屍鬼ってあの食屍鬼だろうか。グールってルビを振るあの人外種族。
パラメーターもあるな。項目は八つ。レベルの概念はないらしい。
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「……なあ、このパラメーターの数字、どうやって測ってんだ?」
「その教典が測っているのだよ。パラメーターは握力測定や体温計みたいなものだ。その日の調子で簡単に上下する。特に一桁目はね。だから、ページを開いた瞬間の数値をパシャリと撮って表示しているのさ」
「へぇ……
なお、
項目はまだあるな。『発狂内容』という。何だこれ。
……いやマジで何だこれ。こんな概念、普通のファンタジーにはねーぞ。発狂って何だ。発狂する事があるのか、この世界。えっ、狂うのか? 狂ったらどうなるんだこれ?
……魔導書の
――――お膳立てされ過ぎて作り物にすら見える世界。
「それで、クエストなのだが。この依頼を引き受けてくれるかい?」
「ニャルラトホテプ討伐系ですか。倒しても倒してもニャルは絶えませんね」
「同じく冒険者になりたがる人も減らないから問題ないけどね。依頼数と冒険者数、今の所は釣り合っているよ」
ん? ニャルラトホテプ? 聞き覚えのない単語だな。
質問をしようと思ったが、受付嬢がいる所で無知を晒すのは不味いか。ステファはスルーしてくれたが、受付嬢もそうだとは限らない。後で聞くとするか。
ステファと受付嬢が幾つかやり取りした後、僕に振り返った。
「では、教典も手に入れた事ですし、早速スキルを習得してみましょうか!」
「スキル?」
「はい、
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