セッション8 笑顔
「え、あ、はい。ノーデンス神への信仰は本来、種族に限定されません。秩序はあらゆる種族に降り注がれて然るべきです。しかし、教会は同時に人類第一主義をも掲げました。彼らは人類以外の信仰を認めず、教会を国教とする祖国は人類以外の存在を許していません。――私は、そんな現状に納得出来ませんでした」
話している内にステファの目付きがやや鋭くなる。
「信仰は垣根なきものであるべきです。私はそう信じて、十七歳になった日、国を飛び出しました。国内が駄目なら国外で、私が自由な信仰を布教しようと決意して」
「ふーん。ってことはお前、家出中なのか。度胸あるじゃねーか」
「いえ……いやあ、そんな……そんな事ないですよ。えへへ」
ステファが照れて締まりのない笑みを浮かべる。
だが、実際大した事だと思う。こいつと同じ年齢の頃、僕は完全に親の庇護下だった。目的も目標もなく、現状に甘んじていた。そんな僕からすればこいつの発起心は本当に眩しい。
「それに、うまく行っていないのが現状でして。なかなか冒険者としての生活は厳しく、布教どころか今日の飯さえ
「そんな状況でよく僕を助けたな、お前」
「それは祖国の教育の結果というか。一日一回、善行をしないと呼吸が苦しくなるよう育てられましたので。藍兎さんを助けたのもその一環と言いますか」
「何それ。呼吸が苦しくなるって、精神病んでたりしてんのか?」
「えへへ。えへへ……へへ、へへへへへ…………」
低く虚ろな声で笑うステファ。
そういえばこの娘、初対面の時から目にハイライトがないような……というか先刻から笑顔にお面のような無機質さがあるような……いやいや。
「という訳で、どうですか? 藍兎さんも大帝教会を信仰してみませんか?」
「あー……きちんと教義を教えて貰ってからな。それより目的地はまだか?」
「ああ、ほら。あれが冒険者ギルドですよ」
ステファに言われて見た先には塔が立っていた。
高い。周辺の家屋が二階建てばかりなのに対して、この塔は五階を超えている。二十階建て三十階建てがゴロゴロあった二十一世紀に比べれば小さいが、この時代ではかなり大きな建造物だろう。石造だが、何となく五重塔を思わせるデザインだ。
塔の内部に入る。受付と思わしきカウンターには一人の少女がいた。青髪のボーイッシュだ。胸のバッジには
「いらっしゃい、ステファ君。今日は何用かな?」
「こんにちは、灰夜さん。
「あるよ。ん? 後ろの彼女は誰だい?」
受付嬢が僕を見やる。
「古堅藍兎だ。こいつと一緒にパーティーをやる事になった」
「ボクは灰夜、よろしく。という事は冒険者かい? 戦えるの?」
「いや、戦闘の経験はねーよ」
一〇〇〇年前でも碌に喧嘩などして来なかった。このお嬢の肉体がどれ程戦えるかは知らないが、無茶はしない方が良いだろう。
「ただ、荷物持ちとしてついてくればいいと言われてな」
「そういう事です。灰夜さん、彼に『
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