第一部第一章 チュートリアル

セッション5 起床

 シロワニの襲撃から翌日。


「…………どう見てもあのお嬢だな、こいつは」


 とある木造建築の一室にて、鏡に映った己を見て溜息を吐く。

 鏡に映っているのはミイラではなく、かつての自分でもなく、お嬢と呼ばれていたあの少女だった。額の角もちゃんとある。

 ひょっとしたら夢でも見ていたんじゃないかと思ったが、一晩眠って目が覚めてみてもこの有様だった。やはり、僕の意識が少女に宿ったとしか考えられない。


「いや、あるいはミイラの僕がお嬢の肉体を吸収したか。まあ、どっちでもいいか。僕と彼女が一体化した事に変わりはねー。だが、まさか一〇〇〇年後の世界で性転換TSする事になるとはな……」


 世の中、何が起きるか分からないものだ。


 死んだと思ったら剣と魔法の世界にいたなんて、異世界転生モノみたいな展開だ。であれば、転生者御用達の交通事故トラックはあの蛸頭になるのか。嫌だなあ、あんな全方位に物騒なトラック。


 ……いや、そもそも僕は死んではいないから転生とは違うか。ミイラになっても僕はまだ生きていた。死んでない以上は転生モノとは言えない。居場所も異世界化してはいるが地球のままだし、転移モノとも異なるな。


「まあそれはともかく……男になる方法とかねーのかな」


 当たり前だが、今まで男性だったので女体がどうも落ち着かない。元に戻れるんなら戻りたい所だが……。

 なんせ僕ときたら二十九歳にもなって女性経験が……ゲフンゲフン。三十歳を過ぎると使になるという話もあるし、最近少し焦りを感じていて……いやいや何でもねーよ。


「ま、自由に動き回れる肉体が手に入っただけでも御の字か」


 身動き出来ないミイラは辛かったな、やっぱり。


「…………。……おお」


 鏡に映った自分を見ていたら、ふと気になって、自分の胸を揉んでみた。柔らかい。ボリュームはないが、それでも絶壁という訳でもない。成長期の乳房だ。

 股にも触れてみる。何もない。タマもチンもない。


 ……いやチカンじゃねーですよ。自分の肉体ですよ今は。

 そういえば、胸と二の腕の柔らかさは同じと聞いた事があるが、本当だろうか。確かめてみようと二の腕をプニプニしてみる。すると、


 ――コンコンと扉を叩く音が不意に響いた。


 滅茶苦茶びっくりしながら扉を叩いた誰かに応じる。


「なっっ……え、あっ、な……何だ!?」

「昨日の者です。入ってもいいですか?」

「あ、ああ……どうぞ」


 扉が開かれ、入って来たのは昨日の女騎士だ。


「具合はどうですか?」

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