セッション4 再始

 シロワニは血塗れになった僕を見下ろして満足げに笑い、そして背を向けた。


「犯罪者の数も減らしたし、ミイラも救ってあげた。良い事をした後は気分が良いものだねえ。あはははは」


 そう言ってシロワニは立ち去った。

 後に残ったのは僕とお嬢の亡骸だけ。



 ……おい、マジかよ。このまま放置かよ、あいつ。

 血液に呪術的効果があるからってお前。お前……。



 横を見る。倒れ伏した少女はピクリとも動かない。

 僕にとってはつい先刻出会ったばかりの娘だ。しかも、僕を売り飛ばそうとしていた奴だ。同情する義理はない。

 ……ないのだが、やはり若い身空が眼前で死んだという事実は堪える。堪えるが、結局僕には何も出来ない。もう動かない瞼を閉じてやる事さえも。

 ああ、畜生。

 いつだってこんなんだ、僕の人生は。





 ……寝てしまったようだ。

 ふと空を見上げれば、すっかり暗くなっていた。見た事のない数の星が瞬いている。一〇〇〇年前と違って街灯がなく、空気が澄んでいるお陰なのだろう。綺麗なものだ。


「……大丈夫ですか?」


 頭上のすぐ近くから声が降り注ぐ。

 ああ、そうだ。この声だ。この声を聞いて僕は目を覚ましたのだ。


「あの、大丈夫ですか? 自分の名前、分かりますか?」


 声の主を見上げる。

 ピンク髪の女騎士だ。眩い銀の甲冑はまさに中世ヨーロッパ。今が二十一世紀ならば時代錯誤かコスプレだと笑い飛ばしていた所だが、今の時代ではどんな格好が主流なのか知らないので何も言えない。


「大丈夫ですか? 『お嬢さん』」


 ……ん?

 今、こいつ僕の事を「お嬢さん」と呼んだか?

 男の僕を? いや、それ以前にミイラの僕を?

 そういえば、おかしい。何故こいつは僕に話し掛けているのだろうか。普通、ミイラなんかよりも先にお嬢や御者に声を掛けるべきではないだろうか。

 そう思い、お嬢の方を見ようとして、気付いた。


 僕の手足がミイラではなくなっている。


 かといって元の体に戻った訳ではない。華奢な腕。日焼けした肌。腰まで伸びた黒髪。僅かに膨らんだ胸。見た事のある肉体――というか、これはどう見てもあのお嬢の肉体だ。

 改めて隣を見る。

 お嬢の亡骸はなくなっていた。

 ミイラの僕もなくなっていた。


「……んん?」

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